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あいつに気持ち伝えなくていいのか!?ショートショート。

やっぱりここにいたか。

「おう、お前か」

何かあるとここにいるよな。

「海はいいよな。特に夕陽は」


この小さな島で育った人は高校卒業と共に東京に行くのか島に残るか選択をしなくては行けない。

そして上村ちゃんは東京に行くためフェリー乗り場にいた。


お前、あいつに気持ちきちんと伝えたのか。見送りに行かなくていいのか?

「俺なんかあいつに似合わない。それに俺よりもっといいやつがいるだろ」

「お前とか」


バカヤロウ!!!!!皮肉を言うな!!!

バシッ!!!!!

「痛!!!殴ったな!!!」

まだ、そんな甘ったれたこといってるのか!

あいつはな!あいつはな!お前の事!!!

「うるせーな!知ってんだよ!んなことはよ!」

「けどな、けどな、友達でいようって言われたんだよ!!」

バカヤロウ!

「また殴ったな!」

うるせー!


二人は夕陽を背にしながら胸ぐらをつかみいボロボロになるまで殴りあった。

そして砂浜に寝転んだ。


あいつはな上村ちゃんはな友達でいようって精一杯の気持ちなんだよ。東京でこれから一人で不安で不安で仕方なかった!それなのに勇気を出して振り絞って友達でいようって言ったんだよ!

お前から、お前から言ってほしかったんだよ!

「そ、そうなのか」

そうに決まってる!例えそうじゃなくてもお前の気持ちはどこにある!

ここに心にあんだろ!

男ならかっこよくてもカッコ悪くても気持ちを伝えてこい!

気持ちを伝えることに意味があんだ!カッコ悪いわけないだろ!

「お、俺は。どうしたらいい」

泣くな!男だろ!前を見ろ。

行くぞ。

「どこに!?」

いつも三人で行ってたろ。お気に入りの岬に。

あそこからならフェリーが見える。

例え声が届かなくても岬にお前がいることに意味があんだ。

しっかりしろ。自転車は?

「あ、あっち」

なら俺が先頭で風避けになる。

お前は全力でペダルをこげ!そうすればギリギリ間に合うから。


ガシャン。

「は、速ええ…。」

おせーぞ!お前の全力はどこにある!?

「るせねーな」

ガコン、ガシャン。ギアが切り替わる。

おい、俺より先にいくな!

「遅くてな」

皮肉を言うほど元気はあるな。ペースあげるぞ!

ガードレールギリギリでカーブを曲がる。

ズシャアア!


「もう間に合わないってわかってんだ。もう詰んでんだよ。なのにこいつ…。それでも進めってか!」


おい…。

「なんだ。もうバテたのか」

心臓が張り裂けそうだ。これ以上は…。


バテてねえ。少し疲れただけだ。

「後少しだろ!」

いいから黙ってよく聞け。一度しか言わないからな。

次のカーブを曲がった先の直線でお前の背中を全力で押す。

何があっても後ろを振り向くなよ。

いいな。お前はお前の心配をしてろ。

「もうとっくに限界超えてんじゃ…。」

超えてねえ。ラストスパートだ。

シャアアアア。

よし、タイミングはジャスト、行っけえーーー!!


ぐんと背中を全力で押す。その手は重く軽く押してくれた。

三人で過ごした島の時間が、気持ちが伝わった。


後はが、ん、ば、れ、よ…。

フラフラ、フラッ!ガガン!ズシャアア!

疲労で倒れた。


「あいつの思い受け取った!何がなんでも間に合わす」

フェリーの音がする。

「後少し、間に合えーーーー!」

トンネルを超えた先に、赤く夕陽に照らされたフェリーが見える。

「ぎ、ギリギリ間に合った!」


「上村ーー!!!」

「おーーい!聞こえるか!」

「上村ーー!!!ここに来たぞー!」


き、聞こえる。声が聞こえる。

誰!?聞いたことある声!

あ、いた!

「上村ーー!!!俺はなーー!…だよー!!なんだよー!!」

「東京でも頑張れよー!」


え!何!?聞こえないよー!

「…なんだよー!東京でも頑張れよー!一人じゃないからなー!」

汽笛がなる。

…。聞こえないよ。聞こえないけど聞こえるよ。

あれ、涙が。


聞こえるー!私も…だよー!…なんだよー!だけだよー!

東京でも頑張るからーー!待っててねーー!

「待ってるからなー!」

届いた!声が届いた!

「届いた!声が届いた!」


二人は見えなくなるまで手をふった。


ガラガラガラガラ。

自転車を押す音がする。

「……。」

「届いたのか?」

届いた。ありがとう。

「帰るぞ」

帰るか!






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