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ライトノベルを最後まで完結させること

はじめに

 2025年1月1日。テロメニア魔導記 4巻『目覚めし竜の女王』をリリースします。この4巻からは、今までイラストレーターを担当して下さったGPM様が続けられなくなってしまったので、変わって私の相方Azuをメインイラストレーターに据え、私も企画立案・構図指定・背景及び修正を受け持つアシスタント兼アートディレクターとして、イラスト制作に深く携わりました。

 この記事では、イラストレーターが途中で続けられなくなってしまい、それでも執筆中のライトノベルを最後まで完結させたい一心で、自らイラストを描くに至った奮闘記を書き綴ってみました。全6巻を計画している『テロメニア魔導記』を、私は必ず最後まで書き切りたい。その強い意気込みを、ぜひご一読ください。


イラストレーターを探す難しさ

 通常、ライトノベルのイラストレーターが途中で続けられなくなるというのは緊急事態です。イラストレーターが離脱してしまうと、続巻を刊行する為には、誰か別のイラストレーターを探さなければなりません。しかしイラストレーターを探すのはとても難しい。7年前に問い合わせた際は1枚◯万円だったイラストレーターさんに連絡してみると、今では1枚数◯◯万円になっていて、手が出せなくなっていました。(それ自体はとても素晴らしいことですが)

 価格のみならず、スケジュールなどの条件を擦り合わせるのも大変です。お世辞にも裕福と言えない私は、あまり高額な報酬を用意することが出来ません。仮に条件に合う人が見つかったとしても、途中でイラストレーターが変わってしまうと絵柄も大きく変わってしまい、読者をガッカリさせてしまい兼ねません。それは私にとっても、イラストレーターにとっても、そして読者にとっても、誰も得をしない残念な状況と言わざるを得ないでしょう。これによって『テロメニア魔導記』の出版は、いわゆる「エタる」寸前の状況にまで追い込まれてしまいました。

エタる、とは?

 今の時代、ライトノベルは星の数ほど存在しています。しかしその中で、きちんと最後まで完結する作品はごく一握りに過ぎません。実際ほとんどのライトノベルが、物語の途中でエタる(ETERNAL エターナル(永遠)に完結しないまま、更新や連載が終わってしまう)状態にあるというのが、実情ではないでしょうか?

 これは私の個人的な考えですが、ライトノベルに限らず物語は、終わり方が最も重要だと思っています。最初は面白いのに途中でダレてしまい、未完のまま終わってしまう作品の、なんと多いことよ。それは音楽に例えると、途中まで素晴らしい旋律だったのに、突然プツリと音が止まってしまうようなもの。近年そんな作品があまりにも多過ぎて、私自身新しいライトノベルを読み始めるのを、正直躊躇ためらってしまう気持ちがあります。読者の立場にしてみれば、「途中で終わってしまうかもしれない」なんて思いながら読みたくありません。今まで何度も経験してきましたが、読んでいた作品が未完のまま終わってしまうのは、あまりにも残念すぎるではありませんか!

 だからこそ私は、自分で書く作品に関しては、最後まで完結させることに強くこだわりたい。これは未完のまま止まってしまっている、他の著者の作品に対する批判などではありません。純粋に一読者として、物語が途中で終わってしまうことほど、悲しいことは無いという心情を語っているだけです。だから私は自分の代表作『カドルステイト物語(全7巻+外伝)』においては、結末までしっかり構想を練って、最後まで完結させることに強く拘って執筆しました。それだけに、GPM様に新規イラストを描いて貰えないという連絡を受けた時は、頭が真っ白になってしまいました。

『カドルステイト物語』(全7巻+外伝)は、GPM様がイラストを担当して下さいました

分からないことは、考えない

 GPM様は、私の最初の作品『カドルステイト物語』第1巻からメインイラストレーターとして、今まで沢山の美しいイラストを描いて下さいました。特に根拠などありませんが、私はこれからもずっとGPM様に描いて頂けるものと、勝手に思い込んでいました。しかし現実は違っていました。GPM様がイラストレーターを続けられなくなった理由については、ここでは深く触れません。しかしそれは彼にとって素晴らしいことで、私は心からGPM様を祝福したい、と思いました。

 もちろん当初は別の可能性も考えました。もしかしたら私の不徳が原因かもしれない、と。私は人と意見がぶつかった時、ほとんどの場合自分から折れますが、ことさら創作においては妥協できず、今まで幾度となく修正をお願いしてきました。それが彼の負担になっていたのかもしれません。また、一枚の絵に対して、その差分イラストを次々に発注してしまい、彼の負担が重くなってしまっていたことも否めません。それで彼が嫌になってしまったのだとしたら、本当に申し訳ないことをしてしまったな、と後悔しました。

左がGPM様による日本語版、右が内山一樹さまによるスペイン語版

 或いはスペイン語版『La leyenda de Cudlestate』のイラストレーターが、GPM様ではなく内山一樹様に決まったことが影響しているのかもしれない、とも考えました。スペイン語版の表紙を見てみると、GPM様が描いた第1巻のイメージをそのまま踏襲した表紙だったので、もし私が彼の立場だったなら、あまり快く思わないかもしないなと。しかしそれはスペインの出版社の判断であって、私が決めたことではありません。むしろ私は、スペイン語版もGPM様にイラストレーターを担当して貰えないかと提案したくらいです。だから私に分からないこと、私の力が及ばないことについては考えるのをやめて、私は素直にGPM様の事情をそのまま受け入れることにしました。

本作の挫折はこれが2度目

 『テロメニア魔導記』は全6巻の計画で、私の長編ファンタジー小説の集大成といえる作品です。『カドルステイト物語(全7巻+外伝)』『カルディアナ戦記(全3巻)』に続く本作は、ファルファデラと呼ばれる世界を舞台にしたファンタジーシリーズの完結編としてプロットを書き下ろしました。数十巻にも渡る長い小説って、私にとっては読み始めるのに一種の覚悟が必要で、少し億劫おっくうになってしまいます。その点、全17巻という長さは、ライトノベルが完結を迎えるのに丁度いい長さではないでしょうか? しかし私は、GPM様が途中で続けられなくなってしまうことなんて、微塵も考えていませんでした。

 実は本作は一度、別の理由で執筆が頓挫してしまっています。というのも『テロメニア魔導記』は、もともと『カルディアナ戦記』というタイトルで出版していたライトノベルの、4~9巻に当たる作品だったのです。ところが2020年、コロナ禍による不況で失職して経済的に困窮した私は、『カルディアナ戦記』3巻に大幅な加筆を施して、一度物語の幕を閉じました。その後再就職を果たしましたが、奇しくもイラストレーターが続けられなくなったことで、二度目の挫折を迎えてしまったのです。

『カルディアナ戦記』(全3巻)も、GPM様がイラストを担当して下さっています

最優先は読者に楽しんで貰う事

 しかし作者の事情など、読者には関係ありません。今回はイラストレーターの途中離脱という、前回のコロナ禍による経済的な問題とは事情が異なりますが、読者にとって物語が途中で止まってしまうのは、単に不幸なことでしかないでしょう。読み終わった時、「この物語を読んで良かった」と読者に満足して欲しい。そう願って終わり方に拘ってきた私は、『カルディアナ戦記』3巻に大幅な加筆を施すことで、それなりにまとまりのある終わり方にしました。が、3巻という短さで幕を閉じてしまい、読者を裏切ってしまったという大きな悔いが残ったことは否めません。再就職後も、私は不本意に終わった『カルディアナ戦記』の続きの構想が、ずっと頭の中でグルグル回っていました。

 それから2年半後、ようやく経済的にも余力がついて環境が整った私は、『カルディアナ戦記』4~9巻の予定だったプロットを引っ張り出し、新たに『テロメニア魔導記』として執筆を再開。読者も徐々に増えてきて、軌道に乗り始めたと思った矢先、今度はイラストレーターが続けられなくなってしまうという新たな問題が噴出してしまいました。

 長い空白を経てようやく再開した執筆が、再び外的要因によって頓挫してしまうなんて、あまりにも残念としか言いようがありません。それは例えるなら、あと3周でゴールのところで、突然マシントラブルが発生してリタイアしてしまったレースドライバーのようなもの。こうなってしまった以上、もはやコロナ禍もイラストレーターの途中離脱も関係ありません。最も優先すべきは、読者に楽しんでもらうこと。その為には、しっかり物語を完結させるほかないでしょう。どのような外的要因にさらされようとも、この物語を結末まで書き切る。もう私にはそれしか考えられませんでした。

AIイラストは選択から外れた

 先にも述べましたが、私は創作において妥協できません。私は常に最善を追求しています。会社の仕事や日常生活においては、意見が食い違った場合自分から折れてばかりの私ですが、殊更ことさら創作では人が変わってしまいます。近年ではAIイラストを表紙に使う作者さんも多くいらっしゃいますが、私は最善を追求した結果、必然的にAIイラストは選択から外れました。私が考える最善とは、主に以下の3つです。

  1.  ライトノベルの途中の巻から絵柄を変えたくない

  2.  あまり高額な報酬を用意することは出来ない

  3.  最低でも半年に1冊は続巻を刊行したい

 特に1. が重要で、つまりGPM様のイラストのイメージを踏襲したいという気持ちが、私の中に強くありました。それを考慮すると、必然的にAIを使うことは出来ません。AIイラストは綺麗ですが、どれも似たような雰囲気の絵になってしまう傾向にあって、今までGPM様が描いて下さったイラストのイメージには程遠い。しかし前任者を踏襲したイラストを、安価に描いてくれる都合の良いイラストレーターなど存在しません。実際イラストレーターに向かって、「あなたの個性を出来るだけ抑えて、前任者のような絵を描いて下さい」なんて発注は、なかなかに難しい。というのも実は、勇気を出して何人かのイラストレーターにお声掛けしたところ、露骨に嫌がる方もいらっしゃいました(その節は申し訳ございませんでした)

「私が描こうか?」

 そんな時、私の相方が突然こう言いました。相方は昔コミケに参加して、漫画の同人誌を描いていた経歴の持ち主で、今でもタブレットを使って時々趣味絵を描いています。とは言え技術的にはGPM様に遠く及びません。絵柄も全然違うので、私は最初相方の言葉を、冗談と思って聞き流してました。

 しかし先にも述べた通り、私の最善を実現してくれるイラストレーターなど存在しません。30人くらいのイラストレーターに断られたところで、私は相方の言葉を現実的に考え始めました。実は私も昔、漫画家のアシスタントとして数年間、絵を描いていた経験があるのです。残念ながら私には才能がなく、漫画家として芽が出ることはありませんでしたが、しかし先生の絵を真似て描くこと、つまり模写することくらいは出来ます。趣味絵とは言え、今もペンタブでイラストを描いている相方。そして人の絵を真似て描くことが出来る私。そのとき私の中で、最善の答えが導き出されました。つまり、相方を後任のイラストレーターに据えて、私がそのバックアップをすれば良いのだ、と。

前任者の承諾を得て再始動

 それを実行に移す前に、1つ重要なことがありました。それは前任者であるGPM様に、絵柄を真似て描くことについて承諾を得ること。これは絶対に必要なことでした。何故なら本人の承諾も無しに、勝手にGPM様の絵を模写したイラストを描いて電子書籍として販売してしまうと、パクリということになってトラブルに発展し兼ねません。加えてこの承諾が得られないと、『テロメニア魔導記』は1~3巻(前半)と4~6巻(後半)で、全く絵柄が違うチグハグなライトノベルになってしまいます。物語の途中から急に絵柄が変わってしまうことを避けたかった私は、まず前任者のGPM様にお伺いを立てる必要がありました。

 結果、GPM様は快諾して下さり、『テロメニア魔導記』後任のイラストレーターは相方のAzuに決定。キャラクターデザインとしてGPM様の名前を残した上で、私は企画立案・構図指定、そして背景と修正を受け持つアシスタント兼アートディレクターとして、Azuをサポートすることになりました。まさかこの歳になって、漫画家のアシスタント経験が活きるとは思ってもいませんでしたが、今までGPM様が描いて下さったイメージを踏襲し、出来るだけその絵柄に寄せた新しいイラスト制作に今、取り組んでいます。

左はGPM様がデザインしたマーヤ、右はAzuが描いたマーヤ

必ず最後まで書き切ります

 もちろん相方も私も、技術的にはGPM様に遠く及びません。正直、執筆とイラストの両方を進めるのは大変で、その分時間も掛かってしまいますが、それでも私は相方と協力して、『テロメニア魔導記』を必ず最後まで完結させたい。私としてはイラストは専門の人に任せて、本当は執筆に専念したいのですが、こうなってしまった以上背に腹は代えられません。よく漫画やライトノベルでは、雑な結末を迎えて批判を浴びてしまっている作品が散見されますが、私は自分の作品を、そんな終わり方にしたくありません。作者は物語をしっかり閉じる使命を負っているのです。

 こうして生まれたテロメニア魔導記 4巻『目覚めし竜の女王』は、2025年1月1日、出版予定です。どうぞご期待ください!

テロメニア魔導記 4巻『目覚めし竜の女王』

「世界はどうしてこうなってしまったの?」
カータ達は強力な仲間を新たに加え、祖父ラーダの行方を追って探求の旅に出た。天狼座の賢者から授かった『テロメニア魔導記』を読み解きながら、氷の都を目指した冒険者達は、図らずもその地で竜の女王の目覚めに立ち会う。古典的な作風を現代的な価値観で描く、新時代の長編ファンタジー小説、第四弾。
(19.3万文字 文庫本396ページ相当)

クレジット

『テロメニア魔導記』第4巻『目覚めし竜の女王』
配信日:2025年1月1日
価 格:1080円(Kindle Unlimited 読み放題対応)
文字数:19.3万文字
挿 絵:25枚(差分込み)
著 者:守下 尚暉
発行所:パブフル
地 図:トレジャーポット
イラスト:Azu
アートディレクター:守下 尚暉
キャラクターデザイン:GPM
表紙デザイン:波野 發作

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