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情報Ⅰ試作問題を分析!IT人材を育てる教育は小学校から始まっている④

情報I 試作問題の分析を続けます。
今回は『データ活用』です。
試作問題では大問4として出題されました。
スマホやパソコンの使用時間と、生活行動に費やす時間の関係について分析するものです。

問題の中身に入る以前に、、、驚きませんか?
いまの高1より下の世代はみな、こうしたことを"基本的なリテラシーとして"身につけた上で高校を卒業するのです。

もちろん、紙と鉛筆しかない60分間の試験の中で、分析自体をやるわけにはいきません。
それでも、データを見て仮説を立てる、できること/できないことを見極める、データの関係性をどんな手段で可視化(円グラフ、散布図、箱ひげ図など)すればよいか?ということを瞬時に見極めることが求められています。

これこそ、データサイエンスの入り口として求められるスキルそのものです。

こんな高度なことを高校生が学ぶようになったのか!
IT人材の育成とはこういったことなのか!
と驚かれるかもしれません。

でも実はこれ、情報Iという教科ができて初めて扱われるものではなくて、数学の中で既に学んでいるものなのです。
しかも、高校ではなく中学校でも学びます。
そしてもっと遡れば、小学校でもデータ活用という学習をやっているのです。
ご存知でしたか?

先日、小学5年生の子が宿題をやりながら、こんなサイトを見ていました。

統計局が運用している小学生向けのサイトです。
各地域の人口や、国内全体の実労働時間の年間推移などをグラフで簡単に表示することができます。

データの読み方やグラフを使った可視化の方法、そこから課題を発見するチカラというのは、小学校時代から身につけるのですね。
実際に、このサイトを使って発見したことを授業でプレゼンする準備をしている小学生を見て、国の施策が身近なところへしっかり浸透していることに気づいて驚きました。

時代は確実に変わっていますね。
私たち親世代はスマホはおろか、家庭にパソコンがあることすら珍しい時代で育ちましたから、そもそも「データ」という言葉自体に馴染みがないと思います。
お子さんのいる家庭は是非、ときどき子どもたちが使っている教科書を覗いてみることをオススメします。
たくさんの驚きがあると思います。

ところで、算数や数学の授業で学ぶデータ活用がなぜ、情報Iの試験に出てくるのでしょうか?
それは、学んだ知識を実社会で活かすことを重要視していることの現れだと考えられます。

数学の授業で学んだことが社会でどう活かされるのか?
イメージをもてないまま卒業した人は少なくないのではないでしょうか。
私自身もそうでした。
これでも一応理系でしたが、大学で少し続きをやったくらいでその後はさっぱり・・・ですね。
(IT業界も広いので、数学を使わなくても生きていけるのです)

この情報Iという科目があることによって、数学をはじめ各科目で学んだことを総合的に社会でどう活かしていくのか?
といったことを考え、実践できるようになっているのだと私は理解しています。
情報I=プログラミング教育、と捉えられることも多いのですが、そういうことではなく、学校での学びを社会に活かす人材、しかもIT"も"使って、という意味なのであれば、いま日本の教育が目指そうとしている未来は明るいと思いました。

高校までは、このようにデータを見る・解析する・分析する、というところまでですが、データ活用ではその次に「データから未来を予測する」というステップがあります。
Excelなどを使って数字を見てレポートする「データを見る」というステップと、データとデータの関係性を解き明かす「データを解析する・分析する」というところまでは、ある程度やり方が分ってツールを使いこなせれば誰でも出来るようになります。

問題は、「データから未来を予測する」というステップです。
ここからは、データサイエンスの専門スキルと、AIの技術を使いこなす必要が出てきます。

以前の記事で、国内の大学にデータサイエンスを学ぶ学部があちこちで新設されていると書きました。https://note.com/tanpro/n/n3e709d677bd3

いま、日本では国をあげてIT人材にチカラを入れています。
若者に対する教育もそうですし、社会人のリスキリングもそう。

IT 人材需給に関する調査によれば、2030年次点で最大14.5万人ものAI人材が不足すると報告されています。
未来においてAI人材が求められているとして、では皆がみな、数学や統計、技術を駆使する必要があるのかというと、実はそうではありません。

この14.5万人の中に実は、AI に関 する研究・開発やその導入を進める上で必要となる人材として、サイエンティスト、エンジニア以外にも、AIを活用するユーザや事業企画のできる人も含まれています。

経済産業省『IT 人材需給に関する調査』より抜粋

大手コンサルティング会社アクセンチュアのAIセンター長である著者はこの本の中で、大学でデータサイエンスを学ぶ学生に対して以下のように語っています。

データサイエンティストに必要な能力として、数学の知識、プログラミングスキル等は「基礎的な教養」として身につけてほしいのですが、より大事なのは、業務現場で発生している課題を正確に捉え、何がデータでかいけつできるのか、あるいは何がデータでは解決できないのかを見極めた上で課題解決の道筋を描き、それをどう業務現場に適応していくのか、そういった「コンサルタントとしての素養」が実際の現場では強く求められます。

前回までの記事でも書いているように、問題把握を間違えると、どんなに優れたサイエンティストを使っても、どんなに効果なAIシステムを使っても、何の意味もなくなってしまいます。
だから、データサイエンス以前に、問題を把握する、そして解くべき課題を設定することが重要である、ということはここでも変わらないのです。

そして、こう続きます。

いくら優れた理論や手法を知識として知っていても、業務現場で起きていることを正しく理解した上で現場に合わせた手法を選び出し、業務現場に適用できなければ、ビジネス現場では意味がありません。その際、高度なAIモデルよりも、解釈しやすいシンプルな統計モデルを適用する方が適切なケースも多々あります。
そしてその「適用」とは、多くの場合、現場の「業務改革」の実行を伴います。
つまり、ビジネス現場では、"理系的な"リテラシーだけでなく、多分に"文系的な"、非常に幅広いリテラシーがデータサイエンティストに求められるのです。理系、文系それぞれのバックグラウンドを活かしながら、それぞれに合わせたデータサイエンティスト教育が必要です。

小・中学校のプログラミング教育や、高校での情報科の授業は全て、こうしたビジネスの現場を踏まえた人材の定義に基づいています。
(そうした人材を大学が排出するために大学のカリキュラムができ、そうした大学が必要とする人材を高校が排出する、という関係性にある)
そう考えれば、理系と文系の垣根がなくなりつつあることや、情報Iの教科書に「データの活用」というテーマが大きく取り上げられていることの理由が分かると思います。

IT人材の育成の中身は、プログラマーやAIのスペシャリストを育成するということではなく、ITリテラシーをもった人材を広く育成すること、それを社会で活かすことのできる人材を育成する、という意味だと捉えれば、日本の教育も悪くない、と思いませんか?

私は、子どもたちの将来が楽しみで仕方がありません。
皆さんはどうですか?

さて試作問題の話はここまでにして、次回はとある企業が取り組んでいるIT人材の育成について深掘りしてみたいと思います。


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