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谷にひびく言葉

このnoteは『文藝春秋digital』2020/02/08の記事(以下のリンク)に関連して書きました。#みんなの文藝春秋



私は宮崎県に住んでいます。宮崎県には神話の里と呼ばれる高千穂町があります。九州山脈のちょうど背の部分、谷の深い地域です。

そこに当時、地方創生担当大臣だった石破茂さんと、先日、強い思いの半ばで亡くなった中村哲さんの同時にお二人の話が聞ける講演会がありました。

高千穂町の人口は12,000人くらいです。この山奥の町に同時にお二人のお話が聞ける機会があるなんて、すごくないですか? 私は妻と一緒に出かけました。会場についたのは一番乗りで、係りの人がまだ駐車場の看板を立てている最中でした。

石破茂さんは、思ったよりも小柄な方でした。分厚い大きな手帳を抱えて現れました。簡単なあいさつの後、石破さんの口からは高千穂町に関する統計数字がポンポンと出てきました。その間、抱えてきた分厚い手帳はいっさい開きませんでした。ノートを開けば、きっとこの町に関するデータを書いた資料がたくさんは入っているのでしょう。しかし、講演の前に充分に準備して、きっちりと覚えているのです。

聞いている人は高齢の方も多かったし、もちろん自民党支持者もたくさんいたでしょう。頭で覚えていることを実際に声に出して語ることは、実はとても危険なことなのです。石破さんは大臣の地位にある方です。気楽な講演会ではありません。数字の言い間違いはこれまでに築き上げてきた信用を瞬間に落としてしまう危険があります。政治が怖いのは、こんな瞬間を狙っている人がいることです。その緊張度は私たちの想像を超えたものがあります。

もちろん人間ですから、言い間違えはあります。間違えた場合はその場で訂正することが大事です。講演が終了した後、聴衆は三三五五帰りながら、今聞いた話を話題にするに決まっています。数字が間違えていると、

「おいおい、失礼だよな。おれ、絶対にあの統計は間違っていると思うぜ」

と自分の主張を伝えます。主張は噂となり、講演者の人格の問題にまで発展します。ですから、国会の大臣答弁でもそうですが、閣僚の書いた文章を、言い間違えないように一言一句ていねいに答弁する大臣が多いのです。

石破さんも抱えてきた資料を演台の上に開いて、確認しながら話せばいいのです。その方が確実で簡単なのです。しかし、そんなことが地方創生担当大臣に許されますか? 新米の若い代議士ではないのです。総理を狙おうかと意気込む石破さんは、自分の信条としても、一言一句確認しながら話すなんて死んでもできないことなのです。

以下の迫力ある国会での質問をぜひご覧ください。これは8年も前の自民党が野党だった時代の国会質問ですが、見てみると石破さんの信条が良くわかり、さらには現政権に対する姿勢が明確に出ています。

H23/7/06 衆院予算委・石破茂ラスト3分の神演説【想定外でしたで済むか!】(開始時間:1分39秒)







もちろん講演会でこの動画のように迫力で話すことはありでしたが、誠意と熱意は充分に伝わってきました。

途中からは「日本の企業の生産性の低さ」に内容が変わってきました。高千穂町の統計数字は実は

みなさんはこんなに素晴らしい地域に住んでいるのですよ。

と、地域の良さに気づいてもらうために必要だったのです。政治家ですから、時には国民に対して苦労を伴うことも言わなければなりません。甘い言葉だけでは人も地域も国も良くなりません。

それに、これは日本人の悪い点ですが、最初にしょげてしまったら最後までそのままの雰囲気になります。それに自分たちの良さに気づくことも少ないのです。ですから、今おかれた境遇を理解し、気づかない良さを気づかせてもらえると、そのために少々の苦労は厭わないと思うようになります。

最後に石破さんは

子どもたちのため、日本の未来のために必要です!

と力強く講演を終えました。

講演の内容は? あいまいな記憶のままでここに書くことはそれこそ読んでいる人に失礼なのであえて書きませんが、石破茂という人物の印象を強く心にとどめておけば、機会があればいつだって確認することができるのが現代です。

石破さんは1957年生まれですから、現在63歳。次期総裁選にも出馬されることでしょう。誠実さは時として疎んじられます。でも、自身の青臭さを恥ずかしいものと考えるのは思春期の屈折した思いから抜け出せないままの人です。

政治家ですよ。国民を導く人ですよ。

詭弁や薄ら笑いを、何の恥ずかしさも感じないで、公にさらけ出している政治家が

石破は、青臭い!

と批判する時、その批判者の精神は成熟した大人のものではなく、自分を飾り付け大きく見せようとする若者の域を出ていないことを、九州の山奥の谷深いところに住む背が曲がりかけた白髪の老婦人や、節が太い浅黒い指を持つ苦労人が、知らないわけがないのです。


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