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非営利ビジネスを成立させる必須条件は何か?

こんにちは!NEWhで新規事業の伴走支援をしている谷口です。
日頃私たちが多く目にする新規事業は、顧客の課題をユニークな価値をもって解決し、その対価を得ることで収益を上げる純粋なビジネスの形態ですが、近年では社会課題解決を目的としたソーシャルビジネスや、事業収入が主な収入源となっている事業型NPOなど、新しい新規事業の在り方も確立されてきました。

そこで今回は新規事業を「営利」以外の面から成功させるための条件について、今回は公益財団法人である日本デザイン振興会主催で、実に60年以上続く「グッドデザイン賞」をビジネスの視点から、バリューデザイン・シンタックスのフレームワークで深堀り分析しながら、考察してみたいと思います。ソーシャルビジネスやNPOでの起業を考えられている方や、社会活動を通して価値を世の中に届けたい方にとってもヒントになれば幸いです。

そもそも公益財団法人とは?

公益財団法人は、公益を目的とし、不特定多数の人々の利益につながる事業活動を行う民間の非営利組織です。特定の個人や企業の利益ではなく、社会全体への貢献を目指しています。

この設立には、まず一般財団法人を設立した上で、定められた23種類の公益事業に該当することや、収支相償であること、特定の者に利益を与えないことなどの基準を満たし、所管行政庁の公益認定を受ける必要があります。この認定を受けることで、税制上の優遇措置を受けられます。

これと似た存在にNPO法人がありますが、こちらは市民が主体となり社会貢献活動を行う団体で、対象分野は20種類と公益財団法人とは異なります。また、公益社団法人は「人の集まり」が法人格を持つのに対し、公益財団法人は「財産そのもの」が法人格を持つ点で大きく異なります。

公益財団法人の収入源は会費や寄付が中心で、財団の活動を支える重要な柱となっています。財団法人は社会貢献を目的とした純粋な非営利組織であり、多くの人々からの支援によって活動が支えられています。公益性の高い活動を通じて、社会に様々な好影響を与えることを目指すものです。

グッドデザイン賞とは?

沿革と運営

グッドデザイン賞は、1957年に通商産業省(現経済産業省)によって創設された、日本で最も歴史あるデザイン賞です。現在は公益財団法人日本デザイン振興会が主催し、毎年、各分野の優れたデザインを選定・表彰しています。

審査の対象と基準

審査対象は、工業製品、建築・インテリア、ソフトウェア、ビジネスモデル、コミュニケーションなど多岐にわたります。審査の視点としては次の5つ、それぞれ各分野で活躍する専門家や有識者によって審査が行われます。
・人間的視点
使いやすさ・分かりやすさ・親切さなど、ユーザーに対してしかるべき配慮が行われているか、など
・産業的視点
新技術・新素材などを利用または創意工夫によりたくみに課題を解決しているか、など
・社会的視点
新しい作法、ライフスタイル、コミュニケーションなど、新たな文化の創出に貢献しているか、など
・時間的視点
過去の文脈や蓄積を活かし、新たな価値を提案しているか、など

審査員の顔ぶれには、クリエイティブディレクターの齋藤精一氏をはじめ、倉本仁氏(プロダクトデザイナー)、永山祐子氏(建築家)、日本を代表するデザイナーが名を連ねています。海外の審査員も招聘されており、デザインの可能性を多角的に評価しようとする姿勢がうかがえます。

特に近年は、SDGsの達成に寄与するサステナブルなデザインや、AIやIoTを活用した革新的なデザインが注目を集めています。グッドデザイン賞は、単なるプロダクトデザインの賞ではなく、社会の変化を先導し、未来を切り拓くデザインを評価する賞として進化を遂げています。

過去の受賞作品

過去の受賞作品を分析すると、時代の変化を捉えた革新的な提案と、社会課題の解決に寄与する点が高く評価される傾向が見られます。2023年度の大賞を受賞した「老人デイサービスセンター 52間の縁側」(有限会社オールフォアワン)は、地域の人たちが気軽に立ち寄ることができる縁側のような老人デイサービス。制度に頼るのではなく、地域で助け合う共生型デイサービスという「仕組み」が高く評価されました。

また2014年の「光触媒タイル キラテックタイル EXスクエア」(パナホーム株式会社)は、大気中の排気ガスなどの有害汚染物質(窒素酸化物)を分解し、浄化するだけでなく、雨水がかかると親水性と分解力によるセルフクリーニング効果で汚れを落とし、メンテナンスの手間を軽減利便性を両立する優れたデザインを持つプロダクトでした。

グッドデザイン賞が提供する価値

グッドデザイン賞を「ビジネス」として捉えてみたときに、どのような価値がもたらされるのか、応募者の目線と寄付者の目線、それぞれから考えてみたいと思います。

応募者の視点から

まず、受賞によるブランド価値の向上が挙げられます。グッドデザイン賞のロゴマークは、商品の魅力や信頼性を高めるシンボルとして広く認知されています。受賞対象に贈られる「Gマーク」は、そのデザインの質の高さを証明する"お墨付き"なのです。

次に応募プロセスを通じた社内のデザイン力強化も大きな価値と言えるでしょう。グッドデザイン賞の審査基準は、デザイン経営の考え方と深く結びついています。応募を機に、審査基準を社内の開発プロセスに落とし込むことで、デザイン思考が組織に浸透し、ユーザー視点でのものづくりが加速するのです。

デザインコンサルタントからは、グッドデザイン賞の審査基準がデザイン経営の羅針盤となり、応募企業の開発プロセスやマネジメントのあり方そのものに変革をもたらす可能性を指摘する声もあります。

3つ目としては、受賞対象が注目を集めることで、新たなビジネスチャンスが創出されます。メディア露出の増加や、他社とのコラボレーションなど、受賞を機に事業の可能性が大きく広がるのです。実際、受賞が新たなビジネスチャンスを切り拓く原動力になったと実感する企業は少なくありません。

寄付者の視点から

まず第一に、言わずもがな社会貢献の方法としての価値があります。企業であればCSRの一環として、利益や収益の追求だけでなくグッドデザイン賞の支援を通して優れたデザインの普及が成され、人々の豊かな生活に寄与できる、ということは大きな意味を持ちます。

次に、より現実的な目的としてのデザインに関する情報収集や、関係者とのネットワーキングが挙げられます。公的な側面の強いグッドデザイン賞を通して、ビジネスでは得難い情報や人脈の構築ができることは大きなメリットと言えます。

また、権威と歴史あるアワードの賛助会員に並ぶことによる、イメージアップやプレステージの獲得、ということも少なくないメリットです。

グッドデザイン賞はどのように運営されているのか?

さて、次に視点を大きく移して、グッドデザイン賞はどのように運営されているのか?を見てみたいと思います。

22年度の決算報告書によると、主な収入はグッドデザイン賞の応募者、受賞者から得られる審査料や受賞料、「Gマーク」の年間利用料収入のほか、賛助会員からの会費など、年間約5.8億円があります。一方支出としては、人件費のほか、グッドデザイン賞運営にかかる事業費用として7.8億円と、2億円の赤字計上となっていました。

出処:22年度決算報告書より

運営する公益財団法人日本デザイン振興会は、グッドデザイン賞の運営をはじめ、国内外のデザイン交流事業やデザイン教育支援など、幅広い活動を展開しており、全体として年間1600万円の黒字としています。

VDSで分析してみると

バリューデザイン・シンタックス分析(筆者作成)

コンセプト面

応募者は審査料を支払ってまでなぜ応募するのか、そこにあるのは多くの人に知ってほしいプロダクトやサービスとその価値、2024年の受賞作品を例に取ると活動そのものを世の中に伝えたいという純粋な気持ちが動機となっています。伝えること、広めることは他にも方法はあるわけですが、権威あるアワードでしか得られない栄誉、非連続な拡散はユニークな魅力です。

コンセプト面分析

戦略面

こうしたアワードについても「他よりも抜きんでた優位性」が必要になります。ユニークな存在に見えるグッドデザイン賞は総合デザインアワードですが、知名度や権威を得るための方法、アワードは数多く存在します。

60年を超えて続いた背景には決して公の側面が強いから、といった安易な理由ではなく、先見性や斬新さを世の中に与える選考をし続ける、また応募者が期待する価値を届け続けるための「ブランドや権威を維持するための仕組み」が欠かせません。

戦略部分分析

収支面

収支面は先に見た通り、グッドデザイン賞単体では赤字計上となっていますが、審査料、受賞料、Gマーク利用料から大きな事業収入が実際に得られていることには注目したいところです。ただ、一方で法人体を維持するための、周辺事業の実施と収益確保という、別手段の拡充はリスクの回避のためには必要なのかもしれません。この点については、非営利と言えども一般企業と通底していますね。

収益部分分析

さいごに

いかがでしたでしょうか?
いつもとはやや視点を変えて、今回は公益財団法人のアワード運営を通して、非営利ビジネスのなかで価値を伝え、持続的に運営するための要素を見てみました。

優遇税制が受けられるという利点や、財団法人の名の通り所有財産の運用益などの違いはありますが、今回のケースでいえば、その割合は予想した以上に限られたもので、営利企業と同様に、ターゲットとする収益源である応募者や寄付者に対して、期待される具体的な価値を常に高く保ち続けるための仕組みにポイントがありました。

営利、非営利に限らず、ターゲット顧客が抱える課題をいかにして解決するか、そして競合よりもどう抜きんでるか、その状態を維持し続けられるかを考え抜くことが重要と改めて感じました。







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