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谷郁雄の詩のノート33

いつものように、ランチのあとの高円寺散歩。長い夏がやっと終わり、街には秋風がやさしく吹いていました。こんな日には、この世の何もかもが、美しく愛おしく思えます。狭い裏通りを歩きながらきょろきょろしていたら、この居酒屋の看板を見つけました。高円寺には面白い名前のお店がたくさんあります。カフェの「ハティフナット」や「エセルの中庭」、古着&アクセサリーの「ひらる」など、散歩の楽しさは、変わった名前のお店を見つける楽しさでもあります。さて、今日は3連休の真ん中の日曜日。良い一日をお過ごしください。(詩集「詩を読みたくなる日」他、好評発売中)



「回り道」

きらいな人と
歩くときは
近道を選ぶ

好きな人と
歩くときは
わざと
回り道

きらいな人を
好きになりそうなときは
途中から
回り道



「カタチ」

女の人は
一人ひとり
やさしさの
カタチがちがう

寂しさの
カタチも
悲しみの
カタチも

たぶん
喜びの
カタチも 

何を
大切に
思うかも



「肌」

暑さも
寒さも
この肌で感じてきた

人の
やさしさも
世間の
厳しさも

恋の
せつなさも
愛の
深さも

お肌の
曲がり角も
とっくに
通り越して

ぼくの肌には
無数の
美しいシワ

その
シワの下に
少年の心が
隠れていることを
若い君は
まだ知らない



「池」

机の上に
小さな
池があり

その池の
ほとりで
君は
今日も
釣りを楽しむ

釣れても
釣れなくても
毎日
釣糸を垂らし
浮きを見つめて
時を数える

やがて
今日も
夕暮れが
やってきて
あたりが
しーんと
静まり返り
浮きも
見えなくなる頃
はじめての
当たりがあって
君は手際よく
魚を釣り上げ
池に
別れを告げて
家路を急ぐ

釣れるのは
いつも
小魚ばかり
どれも
名も無き
魚たちの仲間

ほら
こんなのが
釣れたよと
妻に見せると
困り顔で
黙って
うんとうなずく

©Ikuo  Tani  2023


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