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台湾ひとり研究室:映像編

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台湾ドキュメンタリー映画を中心に、中華圏の映画やドラマについての記事をお届けしています。
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2024年5月の記事一覧

台湾ひとり研究室:台所編「ドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』に見るおいしい記憶の束の奥にあるもの。」

台湾ひとり研究室:台所編「ドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』に見るおいしい記憶の束の奥にあるもの。」

画面越しなのになぜだか(あ、これ、絶対おいしい)とわかる。食べたことないくせに、映し出されるお料理の姿、慣れた手つき、そして自分が食べてきた味の記憶と照らし合わせると、どう考えてもおいしい、しか出てこないのである。味も香りもないのに、不思議。

そんな画面越しの「おいしい」から始まるドキュメンタリー映画『キッチンから花束を』の舞台は、南青山にある中華風家庭料理「ふーみん」。ふーみんと、ふーみんの生

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蕭美玲《並行世界》」

台湾国際ドキュメンタリー映画祭TIDF2024で、個人的には最後の鑑賞作品となったのが、この《平行世界》である。

いわゆる映画祭でがっつり参加したことがあるのはTIDFと山形で、あとはドキュメンタリー作品だけ見て全体のスケジュールを把握しようとしたことがないのでよく知らないのだけれど、その2つの映画祭では、最終日に受賞作が一気に上映される。その最終日に本作を観る機会を得た。

フランス人夫の間に

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-蔡崇隆《九槍》」

はじめて鑑賞中に目を閉じた。観ていられなかった。「しっかり観ろ」と迫りくる映像に抗うには、それしかなかった。

本作は、昨年の映画アワード「金馬賞」でドキュメンタリー部門の最優秀賞を獲得した1本。

2017年8月31日、川べりに集まっていた人たちのもとに、パトカーに乗った複数の警官がやってきた。彼らは全員、外国人労働者で、不法滞在だった。ベトナム出身の阮國非は、タイトルにあるように「9発」の実弾

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-藤野知明《我們到底做了什麼?》」

2023年の山形国際ドキュメンタリー映画祭でも上映された藤野知明監督の「どうすればよかったか?」 は、今回見た中でもTIDF2024の個人的衝撃作となった1本である。監督からは、今年の冬に日本で劇場公開予定だと伺ったので、以下、ネタバレしない形で紹介していきたい。

1983年、姉が統合失調症を発症した。医者であり、医学の基礎研究に携わる両親の下、家族はどんな25年を過ごしてきたのか。予告映像だけ

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-上映作3本、一挙紹介。」

小田香《GAMA》
ー同時代の情景部門ノミネート作品

第二次大戦時、日本で唯一、上陸戦が行われたのが沖縄だ。隠れ場所になった洞窟では集団自殺になったものもあった。本作では、当時を伝える語り部、松永光雄さんの語りを中心に、洞窟での語り、遺骨収集の姿を伝える。沖縄で「ガマ」と呼ばれる洞窟は、いわゆる本土の防空壕とは違って、自然にできたものだそう。松永さんの語る声、水滴の落ちる音、海辺で珊瑚のカケラが

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-廖克發《由島至島》」

「これまで、台湾人に戦争責任はない、当時はともかく今の世代に戦争責任はない、という言い方を聞いてきました。けれども、私たちには、少なくとも次の世代に何があったかを伝える責任、何をどう伝えるかを決める責任はあるはずだ、と考えています」

290分という超長尺の上映時間を終え、あいさつに立った廖克發監督は、ほとばしるように、そう口にした。本作のテーマは「戦争の記憶とその継承」である。

「ある日、息子

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-趙德胤《診所》」

今週15日、クローズアップ現代で「ミャンマー潜伏1000日の記録 “見えない戦場”はいま」が放送された。アウン・サン・スーチー氏が政権を握り、2010年代中盤からの民主化が軍によるクーデターで一気に暗転したのは2021年、3年前のことだ。民主化を求めて行動する映画監督によって撮影され、先月日本で公開されたドキュメンタリー映画『夜明けへの道』を軸に、ミャンマーの現状を伝える内容だった。

5/10か

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台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-張照堂《紀念.陳達》《王船祭典》」

台湾ひとり研究室:映像編「TIDF2024鑑賞録-張照堂《紀念.陳達》《王船祭典》」

台湾国際ドキュメンタリー映画祭(TIDF)、2024年は5/10-5/19で開催されている。

2年に1度開かれる祭典のオープニング作品は、張照堂監督の《紀念.陳達》《王船祭典》だった。

張照堂監督は、スチールも映像も撮るカメラマンだ。今回、TIDFで「傑出貢獻獎 Outstanding contribution award」、つまりは卓越貢献賞を受賞した。ただ、TIDFプログラムディレクター・

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