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京都で現代版の寺子屋に行った話

昨日までの2日間、京都の西本願寺で開かれたイベントのことを話したいと思う。
その名も、「スクール・ナーランダ」。

浄土真宗 本願寺派が主催するこのイベントは、10代から20代の若者を対象に、仏教・科学・芸術・哲学など多様な分野の最前線にいる大人を講師として招き、一緒にディスカッションをしたり、所縁のある場所を訪れたり、何かを作ったりするもの。
今回が4回目の開催になる(自分が参加するのは3回目)。

過去に2度参加してどちらもすごく濃くて楽しかったので、今回も案内のメールが来たときに速攻で申し込みをした。

ちなみに、今回のゲスト講師は以下の方々。

皆川 明さん(mina perhonen代表・デザイナー)
島地 保武さん(ダンサー・振付師)
藤丸 智雄さん(僧侶)
佐倉 統さん(科学論研究者)
夏生さえりさん(ライター)
武田 正文さん(僧侶・臨床心理士)

…毎回、ゲストの人選が素晴らしいなと思ってます(ほんとうに!)
各日のプログラムの中にゲスト3人による鼎談があって、いつも異業種すぎて「この3人で話、合うのかな…」って要らん心配したりするんだけれども、まじで要らん心配なのよね。
もうメモを取っても言葉を拾いきれないし、ほんとに頭のスペックが足りない。終わった後は絞りきったスポンジ状態です。

講師陣が話したあと、他の参加者との小グループで行うディスカッションの時間があるのだけど、その内容をメインに印象に残ったことを書き留めておきたい。

 1. 本題

今回のテーマは、「十人十色の価値観が表現できる社会を真剣に想像してみる。」です。
こういうテーマを、10代の中高生から30手前の社会人までごった混ぜで一緒に考えさせるって、なかなかだなって思ってるんですけど(笑)
でも普通の学校教育で大学とかまで行っても、年代の違う人たちと真面目に議論をする機会って、本当にないんですよね。少なくとも私にはなかった。
だから現代版の「寺子屋」なんだなと思った次第。

「自分らしさ」と他人/社会
1日目のディスカッションで、私のチームでは「自分らしさって何?」を考えることに割と専念した。
比較的自由に生きてきたタイプから、親や先生や友だちから直接的もしくは暗にいろいろ言われてきたタイプまで、まあいろんな人がいる。
「なぜみんなと同じことができないのか」という同調圧力は昔から認知されていたはずだけど、最近は「自分らしさ/個性を出していかないとダメだ」という逆のベクトルの圧力が存在している、という意見には心から同意。
その点で、好きなことや一生やっていこうと決意したことが気づいたらそのまま仕事(ひいては個性)になったという島地さんや皆川さんのお話や、他者との違いがたまたまネガティブに表出しているだけで、違うと認識できることがそのまま自分の個性なんだ、という藤丸先生のお話には救いがあるなあと思った。

生物学的には、脳をふくめ私たちの身体の細胞は一時も休まず破壊と再生をくり返しており、いまこの瞬間の私は数ヶ月前の自分とはまったく異なる存在なのだという。(このへんは福岡先生の本で知ったこと)
「自分らしさ」が不変のものだと考えること自体がナンセンスだということ。
何者でもいいじゃん、とある意味開き直ることが、少しは現代人の心を楽にするんではなかろうかという結論に至った。

無数のレイヤーで無数のコミュニティが生まれている
2日目は、テクノロジーの発展によって生じている「社会との関わり方」に関する課題について話した。
ネットを使いこなすことによって自分を安定させてきたというさえりさんのお話に触発されて、ネットとその向こうにあるはずの「世界」について考えざるをえない世代の私たちは熱くなりましたよねー。
個人的には、リアルだろうがオンラインのアカウントだろうが(「私=私以外」というさえりさんの言葉が表現するように)それぞれのレイヤーで違う自分が出てくることは当然なんじゃないかと思う。そういうふうに割り切ったほうが楽じゃないかなあ。でないと、現実世界で出会う以上の人と接するオンラインの世界まで含めたら、アカウント=個性の管理が大変になってしまう。
多数のコミュニティで自分の個性が分断される、という意見があったのでそれに対してみんなで意見を出しました。面白かった。

テクノロジーとの関わり方=Situated Knowledge
科学論についての佐倉先生の講義。最近理系本を読み始めた文系人間にとっては非常に面白く、かつ分かりやすかった。
シンギュラリティがそのうち来る(私としては、想定されているよりもっと早く来るんじゃないかと思っているのだけど)らしいが、人類が望まない結果を人類自身が招くことを避けるためには、上記の考え方をみんなで身につけなくてはならないと。
加速度的に増大するエネルギーやデータを、人間以外の知能が掌握して今よりも大きな影響力を持ったときには、誰も暴走を止められなくなる、と感じている人は多いと思う。要は科学リテラシーを身につけようねということだと認識している。難しいなあ…でも私たちがやらなきゃなあ…。

私は以前から、テクノロジーは自分たちが幸せになるために生み出されたツールだと考えている。なんなら、宗教や学問だってそういうものの一種。
会場の西本願寺に祀られていた親鸞上人は「欲望を肥大化させるのが人間」だと言っていたそうだけど、宗教って、自身の欲望を認めて、向き合うための手段なんじゃないかな。

あと最近、「持続可能性 sustainability」を気にするようになった。企業活動は基本的に拡大・成長を前提とするもので、なんだかそういう社会通念にすら一抹の不安を覚える始末。
とはいえ、現状を正しく把握するために世の中の動きやテクノロジーのことは知っていかなくてはならない。と決意を新たにした。

生きがい=めざすべき日常とは。
今回参加してよかった、ハイライトのひとつ。
皆川さんが、スポーツの道を諦めバックパックで向かったパリでファッションに出会い、20代半ばでその業界での仕事というものに対して考えたこと。「一生の仕事にするのであれば、苦手なことをやめないということが大切」という言葉。初っ端から衝撃でした。
仕事って、得意なこととか好きなことを極めてできるものだと思っていた。もちろんそれは間違いではないんだろう。でも皆川さんは、なじみのないファッション業界で、興味というか日々の労働というアクションの延長として捉える感覚で職人になってしまった、みたいなことをおっしゃっていたような気がする。
手が不器用でも、ファッションという世界で人や物事の縁を切らさなかったこと。そして「せめて100年」、残るブランドをつくろうとしたこと。買い手はもちろん、作り手も売り手もみんなが幸せになるプロダクトをつくるということ。
このあたりのお話を聴いて、ここのところ自分が考えていたもやもやにすっと光が差した気がした。要は、私が思う幸福が具体的なステータスでもお金でもなく「なんとなく幸せな状態がなるべくたくさん訪れること」なんだなと認識できたことは大きい。

あとはさえりさんが挙げていた4か条に関連して、「自分にとっては普通・簡単なことだけど人にとってはそうではないこと」こそが才能であり個性であるというお話。
SNSで別の人が同じようなことを言っていたりして最近この考え方に触れる機会が多いので、今の自分にものすごく必要な考え方だと思うことにしました(単純)。

2. このイベントについて、個人的に思うこと。

・バックグラウンドの多様性。
10代から20代の若者といっても本当に様々。東京からの人もけっこういたけど、中には北海道や熊本から来ているメンバーもいた。
浄土真宗が運営していることもあって、お寺関係の家の子も多かった印象。ほとんど全員初対面だけど、ディスカッションやアクティビティ(なんか身体を動かしたりして心もほぐしたりした)を通して終了時間にはかなり打ち解けられたかなと思う。
(あと企画側に同年代のスタッフが入っているのはつくづく大きい。)
ディスカッションでは高校生も一人前に意見を求められるので、もし自分が高校生だったらめちゃくちゃ緊張するだろうなと思う。えらいなあ。
社会人のメンバーとは、名刺交換したり実際の仕事に関連する話をしたりしたけど、これまた勉強になった。いろんなコミュニティと関わるの、ほんと大事だ。10代の子たちも、そう感じられるディスカッションにできていたらいいのだけど。

・宗教のポジショニング
本願寺が主催しているからといって、僧侶の方々のお話があることと、始まりと終わりに念仏を唱えること以外、イベントに宗教色は出てこない。
このイベントのことを知人に紹介したくてもなんだか説明しづらいんだけど、宗教に対して、自分の中にまだ伝えるための言葉が不足しているなと実感。これは今後の課題。

3. これから学びたいこと

・科学とテクノロジー
まずは以前から気になっていた『さよなら未来』(若林 恵)を読もうと思う。タイミングよく、ナーランダ帰りに寄った知人の家にあったので借りた。読むぞー。

・ファシリテーション
仕事上、ディスカッションの進め方、モデレーションという仕事に興味があった。今回グループディスカッションの場で書記と発表をやらせてもらい、与えられた時間で、ある程度自分で納得のいく形にできたことはかなりよかった。それでもまだ不十分だし、超苦手なテーマもあると体感できたことも、よかった。
また今回、ディスカッションの場をいかに盛り上げられるかは、良い質問を設定できるかにかかっていると実感したので、今後の自分のお仕事にどう取り入れていくかを考えて、実践していく所存。

4. スクール・ナーランダと私

初めて4000字以上のエントリを書いたのですが(笑)、得たものはこれだけじゃないしまだまだ頭が余熱で回転している感覚なので、次回があれば当然参加するつもり。
ありがたい&恐れ多いことに、企画側に入れていただけることになったので、自分にも参加者にも運営側にもなんらかのプラスな効果を発生させられるようにがんばる。

まずは関係者のみなさん、参加者のみなさん、お疲れ様でした&ありがとうございました。
またどこかでお会いしましょう!

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あんまり写真撮れなかったけど…何枚か残しておく。トップ画はワークショップで作ったお数珠。

▼お数珠づくりワークショップの模様。

▼匂い袋づくりワークショップ

▼ランチは精進料理。味うすいイメージだったけど、普通にめちゃ美味しかったです。

▼京都の町並み。次きたときはもっと観光したい

▼夜の京都。ええ感じですな

▼おでん

▼締めの喫茶店。コーヒー美味しかった…


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