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1マイクロメートルの小宇宙

『生物と無生物のあいだ』福岡伸一、講談社現代新書1891

誰かが何かで書いていた。図書館や本屋の棚の前に立つ時、人は無意識に一番必要とする本を選んでいる。

図書館で偶然見つけた一冊。生物と無生物のあいだ?あぁ、ウィルスのことか。ふむふむ…

読み終わって、はたと気づいた。これは生物学における偉人たちの歴史ではなく、分子細胞学の入門書でもなく、ましてやウィルスの研究論文でもない。

一つの偉大な物語である。それほど美しい。

生命は一つの流れであり、生物は無数の奇蹟の集合体であるということを強く感じさせる内容だった。一個体、一器官、一細胞の中でも、機械のように精緻な仕組みが絶妙な均衡の中で動いている。でも決して本物の「機械」にはなりえず、DNAという不可逆的な台本に書かれた「ふるまい」が、破壊と構築が、たえず進行していく。

それを観察して、美しいとか奇蹟だとか感じているのはヒトの脳みその一部の細胞のしわざというのも面白い。もはや奇蹟が当たり前に起きすぎて、奇蹟がなんなのか分からなくなってきた。でもなんとなく、生きてるってすごいことなんだって思う。

ミクロコスモスという言葉があるけれど、顕微鏡の精度が極限まで高くなって人間が最後に発見できたのは、無音の闇に浮かぶ碧い惑星だったってことじゃないんだろうか。

陽に透ける愛すべき人たちの瞳、街路樹の葉脈、蝶の羽にも、それぞれの宇宙が広がっている。

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