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おはなし保管庫

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現実に重なる不思議なおはなし(小説、フィクション、言い伝え)保管庫
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#山

陽の光に向けて

陽の光に向けて

真っ白に花が浮かぶ、真っ暗な山道を。ひとり、歩く。

空の向こうに、ぽこっと見えるまん丸な月。その光を吸いこんだように、白く光る花。

風がふっと通り過ぎたら、小さな光たちがふわふわと目の前をこぼれて、落ちる。

夜の山を歩くのは怖い。けれど、この桜の花が咲いている時だけは好き。

怖いけれど、好き。
そんな春の夜。

耳の奥で、じいじいと音が鳴る。静かすぎる山の中で、山神さんが人の世界をみつめて

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繁忙期の出張先でのふたり。女は強い……らしい

3月は年度末。その後半の2週間は、身体が2つか3つ欲しいと思うほどに忙しい。納品した資料の検査や現場確認への立ち合いで、業務担当者や責任者はあちこちの現場へと出ていくことになる。

担当していた仕事が、異なる県にあるときは大変。移動時間も考えながら、パズルのように予定を組み込んでいく。打合せや立ち合いの時間が予定からくずれるとまた大変。あとの予定を変更しながら、移動途中でホテル泊をいれて、電話やメ

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山であったおはなし.

山であったおはなし.

腰のあたりから、ざぁざぁと音が漏れる。背中に担いだバッテリーや機材の重みが気になり、レシーバーの位置を整える余裕がない。次の地点で、機材を配り終えたら、一度、レシーバーの様子を確認した方がいいかもしれない。

足元は、ぬるっと滑る土の上。もう少し上がると、ざりざりとした小石たちがたまる谷に着く。そこからは、急な岩場を上がっていくことになる。待ち合わせは、その岩場の途中。何事もなければ、あと20分で

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