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旅する土鍋2018 -遥かなる時の旅-

2018/08 カラブリア州 コリリアーノカラブロ

ワレモノである同行者は、焼しめられた大きく頑丈な図体でありながら繊細な心の持ち主なのだ。移動が多い「旅する土鍋」は体力勝負であり、梱包しっかり丁寧に、忍耐強く彼とつきあわなくてはならない。

去年にひきつづき、今年も「旅する土鍋」と一緒に15時間強バスに乗ってミラノからカラブリアへ。車内では、運転手がダンボールから無造作にタラッリ小袋を配り、プラコップが渡され一杯の水が注がれて乗車客の「グラッツィエ」が小さくこだまする。

20時を過ぎると誰からともなくカシャリカシャカシャッとパニーノのアルミ箔をむく音がして、車内には一気に芳ばしいパンにしみるハムの脂や塩気を含むチーズの匂いが漂う。「旅は長いぞ、まだ早い」と腕を組む人々。いじわるだからフェイントで桃をじゅるじゅる言わせながらかじってみたら腕時計を見つめる人やら増えて、20時半には学校の遠足みたいに一斉にがまんしていた人たちがパニーノや乾いたパンや果物を食べる。爆音で映画が映され、音に負けじと電話で話す声。音の拷問に近いが、パニーノを食べることに集中する。あとは、動けぬ座席にじーっと座り、時に眠ったり。

写真:カッチョカバッロ・シラーノ
(パニーノに挟んで食べても美味!)

イタリアのココが好くて日本のココが悪いなど、お国に良し悪しはない。絵本のようなもので、左と右のページが見事につながっていることもあれば、対比したページに刺激をうけたり。夜行バスのページは、見事に「喧騒」と「静寂」。もちろんどちらがどっちかお判りであろう。

そして、ヘッダーの写真も、良し悪しを言ったら、遥かなる時が泣くだろう。カラブリア滞在「20年前」と「現在」。滞在先の息子は立派な歯科医になった。さて、みなさま気を取り直して。次回からはカラブリアのおいしい土鍋料理を中心にページを進めて行きたいと思っている。


我妻珠美 展-秋を炊く-

2018年 11月16日~11月24日 
東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル4F
Ecru+HM(エクリュ+エイチエム)
※かれこれ10年以上企画してくださっている老舗ギャラリーです


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