小説「クラバート」
ドイツの一地方に伝わるクラバート伝説をもとにしたプロイスラーの長編小説「クラバート」。荒地の水車場で働くこととなったクラバート少年は親方から魔法をならうが、三年後、自由と愛を得るために生死をかけて親方と対峙する。
クラバートに助力する友人が出てくるのだが、親方に勝つには自分の意志力が必要だと説く。意志力をきたえるためにふたりは特訓をする。そうして自分の意志がいかに重要なのかを度々こちらに教えてくれるわけだが、ふたりの特訓が描かれるくだりには「ほねのおれる仕事」というタイトルがついている。それがまさにそうで、簡単とは言い難く、とても地道な訓練なのである。実は私も意志力をきたえるために日々特訓中のひとりだ。幼い頃から長い間、自分の意思を抑え込み続け、いつの間にか意志の力も弱ってしまったのだった。
ほねのおれる仕事を始める前に友人はクラバートにこのような意のことも話した。まだ決心はしなくても大丈夫。だけど今やれるかぎりのことはしようと。
生死をかけた親方との対峙は、自分だけではなく愛する人も命がけになる条件付きだった。簡単に決心できるはずもない。友人はクラバートの意思を尊重し、やるもやらないも意志の機が熟するのを待とう、そのうえで今やれる最善のことはやっておこうよという姿勢なのだ。私自身、訓練を積む中で意志を探してみたりした。何がやりたいんだ?などとむやみに。だけど見つからない。意思を無視して意志などなかった。まずは自分の意思の声を聞いて対話すること。意志はそのあとにうまれてくる。だけどあらゆるエゴに飲まれて、そのことを忘れがちになってしまう。そして焦らず機が熟するのを待つ姿勢も時に必要で、今を何より大切にすることも。だからクラバートに贈られた言葉は、最近ちょうど決心したいことのある私にとっても、つまった胸に通る涼やかな風のようだった。
そしてクラバートの意志力を特別に強化したものがあった。それは愛する人がクラバートを想う愛だった。私は私にとってのクラバートの友人であり、愛する人でありたいと思う。自分を大切にしていきたくて試行錯誤して時に疲れて、あれ?大切にしたいはずがまた追い込んでる?と不器用でもやっぱり自分を大切にしてあげたいと意志を持つ今の私に、クラバートを読ませてあげられて良かった。
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