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Yさん ショートショート 短編小説🖋
2020年6月29日 14:58
ビルの屋上で青年は嬉々とした表情で全身に風を受けていた。彼はこの世に生を受けてから20年のこの短く長い人生に終止符を打とうとしている。彼の一番最初の記憶は真っ暗な世界である。そこでは軽い身動きしかできず、そもそもしたいという感情があったとも言えなかった。しばらくすると急に光を感じた、初めて彼は外というものに触れたのである。そして当然のごとく泣いた。これを彼が出産であったと認識するのは少し先のこ
2020年6月15日 20:15
暗闇は自分までもを深く深く暗く染め上げてしまう、Nはそう思った。Nは暗闇が好きだ。あの自分を包み込んでくれる静かな闇が好きだ。昔からそうだった、Nは小さい頃には靴箱によく隠れてそのまま眠ってしまったり、押し入れで寝るんだといって母を困らせたこともあった。さすがに大きくなってからはわきまえることを覚えたが、Nの中では暗闇への憧れは何ら変わっていない。 今の生活もそうだ。Nは昼のあの日差しの輝き
2020年6月2日 14:47
この惑星は争いで満ちている。もう何千年も前から争いが世界から消えた日は存在しない。指導者は口をそろえて「平和」というが誰も完璧に実現できるなんて思っていない。裁判所なんていかにも「平和」な顔をして人を言葉や文書で裁いているが、そもそも裁判所自体が争いの象徴みたいなものだ。だから人々はせめて自分の周りだけでも争いが起こらないように毎日神経をすり減らして暮らしている。だが確かに皆どこかで世界の平和を