本日のおすすめ本 内田樹『下流志向』

今日はちょっと硬めの評論をおすすめ。

札幌予備学院時代(予備校業界のジュラ紀ともいう)、この本を模試に使ったことがあります。

ちなみに使ったのは、小さいときから消費行動にならされた人は、本来等価交換の原則が成立しない労働においても等価交換を求めるため、仕事のきつさのわりに給料が不当に安いと感じられる、という部分。

アニメの『鋼の錬金術師』をみていた人なら、あまり苦戦はしなかったと思う(苦笑)。

労働において等価交換は成り立たない。私たちは、お時給だの、月々の給料だの、年棒だの、時間単位で労働を量り売りしているみたいに思っているけど、労働っていうのは、実はそうじゃないんだ、というのが、筆者の言いたいことの根幹にあるわけです。で、それが弊害を生んでいる。

ただし、本来等価交換の成り立たないところに等価交換の原則を持ちこんでしまう弊害は労働のみならず、教育でも同じ。それが「学びからの逃走」の根本にある、と筆者は述べています。

教育とは、それを受けているときはそのものの価値がわからず、価値がわかったときにはすでに学ぶことはできないという側面を持つもの。

(1ヶ月や2ヶ月の遅れなら取り戻せるんですよ〜! 不安にならないで!)

しかし、ヒトでいうと、2歳とか3歳くらいの言語習得期に、言語を習得できないような環境に長期間さらされていた場合、一生かけても取り戻せないような支障が起きることもある、ということが、狼に育てられた少年の事例などからも知られています。このようなケースでは、後で取り戻すなどということは非常に難しい。

「学びからの逃走」というのは、「学校の勉強なんか役に立たない」とか、「学校に行ったって仕方ない」とか、そういう感じで高校をドロップアウトしちゃう人をイメージすればわかりやすいんじゃないかと思います。

でも、40歳や50歳になって、やっぱり勉強しようかなーと思っても、それは難しい。不可能ではないかもしれないけれど、10代20代のころに比べると、比較にならないくらいハードルは高くなります。


さて、「ゆとり教育の時代」(別名、「失われた10年」ともいう)、教育の格差は大きく広がりました。一方で「教育熱心な家庭環境」、他方で「学びからの逃走」をする人たち。

コロナの時代は、それ以上に教育の格差が大きくなることになるでしょう。ただし今度は「学びからの逃走」ではなく、学びたくても学校に通えない、学びたくても経済的事情で無理になる、という形で。(とても残念なことですが・・・)

この「おすすめ本」を読む人は、「学びたい人」なのだと思います。学んでください。学校が休みでも、学ぶことはできる。学ぶ機会はいくらでもあります。

教育は等価交換じゃない。教育は、次の世代へ大切な文化や文明を渡すもの。

この本を読まなくてもかまわないので、そのことだけはしっかり覚えておいてください。


註:狼に育てられた少年やアマラ・カマラの話は、高校の社会科でも教えるところはありますが、主に大学の教育心理学とか発達教育学とかで学ぶことになると思います。
知らない言葉や興味のある事柄が出てきたら、ぜひネットや辞書で調べてみてください。「自分で調べる能力」は大学に入ってからも、社会に出てからも、めちゃくちゃ役に立ちますよ!

付記:個人の好みで作品を選んでいます。また、下記から購入する必要はまったくありません。便利かな〜と思って貼り付けているだけなので。図書館が再開されたら、たぶん図書館でも読めます。

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