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40代サラリーマン、アメリカMBAに行く vol. 4

起業家が語る
2つ目のN

12月14日、2回目の新規事業案のプレゼンを終え、無事に第1セメスターが終了。9月5日からまだ3ヶ月ちょっとしか経っていないことが信じられないくらい、ここまで本当にきつい日々だった。毎朝5時半起き。ここ最近はマイナス3℃~プラス5℃くらいの気温の中、合計8科目の受講と新規事業案のプレゼンが2回。それらもようやく終わった。時間が空いてしまったが前回書ききれなかった2つ目のN、Number(数字)について紹介したい。

数字で語れとは色々なところで言われてきたが、やはりバブソンでも同じように数字の大切さを思い知らされる。まずはストラテジーのクラスから。毎回平均して15ページくらいのケーススタディを事前に読み込んで授業に参加する。授業開始とともに教授からは質問が次々と出てきて学生は挙手をして発言し、議論が進んでいく。発言しなければ成績が低くなるので、皆が一斉に挙手をする。しかし、せっかく挙手して当ててもらっても、数字を抑えた内容が言えなければ教授は満足しない。

例えばウォルマートの初期の成長戦略。ウォルマートは当時どうして本当に強かったのかを議論したのだが、Every Day Low Prices が念頭にあるので、値段の安さで集客し収益を伸ばしていると考えがち。値段の安さを述べた学生に対して、教授は「しかしそれでは収益がただ下がるだけでは?」と聞き返す。学生は「多くの人を集客できる店なので購買力があり、その力を生かして商品の仕入れ原価を下げているのかと」と発言したものの、教授からはウォルマートの損益計算書の売上原価が業界平均よりも2.3%高いと指摘(1993年データ)。他社よりも原価は下げられていないと、追い込まれる。

粗利益は2.3%低いが、ウォルマートの営業利益は当時業界平均よりも4%以上も高い。営業利益=粗利益ー販管費なので、つまり販管費が他社よりもかなり安いということになる。実際、販管費が6.5%も低く抑えられていたことがケースの財務データを基に少し自分で計算すると見えてくるのだが、そこを抑えた上で、なぜこんなことがウォルマートにできるのかをケーススタディの情報を基に回答していかなければならない。例えば「ウォルマートはEvery Day Low Prices (EDLP)という販売戦略により定期的な安売りキャンペーンなどをする必要がなくなり広告宣伝費を下げることができるため、業界平均よりも6.5%も販管費を抑えられ、収益性の高いビジネスを行うことができた」といった具合。実際に私はこう発言したものの、「たしかにそうだが、他社も同じようにチラシ広告などをやめてEDLPができるのではないか?」とつっこまれる。ここから更に議論が発展し、なぜウォルマートだけが販管費を下げられるのかを話し合っていく。結局はウォルマートの出店計画に肝があるということになっていった。たしかにケースを読み返すと、ウォルマートの出店計画に関する記述があり、配送費は3.7%で、競合の4.8%より低いという記載があった。「ウォルマートの初期の成長戦略は配送費を低く抑えることのできる出店計画にあり、それにより配送費を3.7%程度に抑え、EDLPもあり結果的に販管費が競合他社よりも6.5%低い収益性あるビジネスをすることができた」といった形での発言が求められた。数字が入ることで発言内容がより確かなものとなる。

TAM、SAM、SOMじゃダメ
1日にどこで何個売れるのか

戦略を議論するストラテジーの授業で数字の洗礼を受けていたら、当たり前だが今度はアカウンティングでも数字の話になる。ある日の授業では、起業家に資金を貸してくれる企業の方が登壇。教授が起業家役になり、その方に対して資金調達のロールプレイングをしてくれた。

二人の会話中、登壇された企業の方からは、キャッシュコンバージョンサイクルは何日なのか、売掛金はいくらでそのうち何社が資金回収できないリスクがあるのか、買掛金の支払いサイクルは何日なのか、フリーキャッシュフローはいくらかといった質問が次々と飛んだ。

ロープレの後、起業家が資金調達する際に資金を貸す側はいったい何を見ているのか、どのようなことを知りたいのかを自由に質問できるQAセッションとなった。結局はロープレにあったように、いかに自社の財務状況に関する数字を把握しているかだった。もちろんどんな事業を行うのか/行っているのかというストーリー(Narrative)をまずは話すこと。しかし同時に数字も知らないといけないと念を押された。

アカウンティングの教授からは特に、新規事業の提案において数字の説得力を教えられた。前回も触れたがバブソンでは入学後ランダムに5、6人のチームに振り分けられ、そのチームで新規事業を教授たちにプレゼンしないといけない。プレゼンでは財務データを含まなければならない。いくらの売上が見込めて、どのようなコスト構造か、1回目のプレゼンでは3年分の損益計算書とキャッシュフロー計算書を提出する。

まずは予測売上を算出。私はこれまでのマーケティングの経験から、想定顧客数 x 購入頻度 x 購入金額の計算式を使用。何人の人が一回当たりいくらで年間どのくらい購入してくれるかを計算した。同時にTAM、SAM、SOMも添える。TAM(Total Addressable Market)は、その事業が獲得できる可能性のある、代替品も含んだ全ての市場規模。SAM(Serviceable Available Market)は、その事業が直接関わる市場で獲得できる最大の規模。そしてSOM(Serviceable Obtainable Market)は、その事業が実際にアプローチできる市場規模。

これらの数字を揃えてアカウンティングの教授と事前面談するも、「1日にいくつ売れるの?」と聞かれ、言葉に詰まる。「あなたたちが出した数字が間違っているとは言わないが、よく分からない。もっと直感で分かるような、1日にどこで何個売れると、この売上になるという数字を持ってきなさい」

そこから自分たちの提案する商品がアメリカのどの流通チェーンの何店舗に配荷できる可能性があるのかを想定し、店舗数を数える。配荷する店舗数を算出した後、想定した売上をその店舗数で割り、さらに360(365日ー5日)で割り算する。すると2に近い数字となった。アメリカのどこどこの流通チェーンに配荷し、3年目には各店で1日に2個売れることを目指す。簡単な目標値ではないかもしれないが、非現実的な数字でもない。10月21日に1回目のプレゼンをした際、「1日2個売ることでこの売上を達成する」というチームメイトの言葉は教授たちに刺さった。

自分たちの事業の価値も投資リスクも
全て数字で説明できる

10月25日から第1セメスターの後半になり、ファイナンスの授業が始まる。基本的なファイナンスの理解を終えた後、企業価値評価のDCF法を学ぶ。これは企業の将来のフリーキャッシュフロー(企業が自由に使用できる現金の額)を予想した上で、その数字をリスクを踏まえた数値(WACC:投資家を満足させるだけの利回り%)を使って現在価値を算出するというもの。この方法によって、どこどこの企業は現在いくらの価値があるという数値を出すことができる。ゴールドマンサックスやモルガンスタンレーからバブソンに来た学生に聞けば、M&Aの時などに使っていたと言っていた。この算出法をベースに、資本予算技法(Capital Budgeting Techniques)というのも学ぶ。これは企業価値を算出するのと同じようなやり方で、新規事業などのプロジェクトの価値を数字で算出し、投資すべきかを判断するもの。投資することで得られる利益の大きさを現在価値(NPV: Net Present Value)として数字で示す。この算出方法を使えば、自分たちが提案する事業の価値を数字で示すことができ、投資家が投資の可否を判断する手助けになる。新規事業の向こう5年分のフリーキャッシュフローを計算し、WACCを使って、いったいいくらのNPVが見込めるのか。なんとなくうまくいきそうな新規事業といった印象論の話ではなく、現在価値としていくらの利益になる新規事業を提案しているのかを数字で示し、投資を判断してもらうのだ。12月14日に行った2回目のプレゼンでは、この数字の提示が求められた。

しかしこうした数字をどこまで信頼してよいものか。数字はあくまで様々な仮説の元に作り上げられている。5年分のフリーキャッシュフローはいくらか、WACCは何%を適用したのか。アメリカの人口は今後どのくらい増加するのか、何店舗の流通に商品を配荷できるのか、1年目は何人のお客様に購入してもらえるのか、商品の1個あたりの製造原価はいくらなのか、研究開発費はいくらか、配送費はいくらなのか、一般管理費はいくらなのか。数え上げればキリがないが、これらは全て仮の数字。本当の値は実際にやってみないと分からない。そのためこうした不確実な要素の1つ1つが、投資家にとってリスクにつながる。このリスクすらも数字で示せと言われる。

自分たちが提案する事業の現在価値(NPV)を算出する上で使用した様々な仮の数字を全てまとめ、項目ごとに見込み数字と、経験値や業界水準などから振れ幅を予想する。例えば一般管理費の見込みが売上に対する14%で、最低値が12%、最大値が16%といった具合だ。これらを準備したら、リスク分析に進む。具体的にはエクセル拡張ソフトの@RISKを使用し、最も期待できるNPVの値はいくらか(平均値)、振れ幅はどのくらいか(標準偏差)、どの不確実な要素がNPVの結果に大きな影響を及ぼすのか、それはどのくらいかを明らかにしていく。言葉だけではイメージしづらいが、要はこうした項目が数字で表せてしまえるということ。分析手法はビジネスアナリティクスという授業で学んだのだが、こんなことまで数字で示せることに本当に驚いてしまった。もちろんこうした数字もどこまで行っても仮であることは間違いない。ただ、これから資金や人を集めなければならない起業家にとって、説得力ある話ができるようになることは間違いない。

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著作者・出典:Freepik

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