空想お散歩紀行 花火職人の流儀
花火職人の朝は早い。今日も夏に向けた作業が山ほどある。
準備は冬の時期から始まり、今は夏の本番に向けて最後の仕上げに大忙しの毎日だ。
夏の夜空を彩る打ち上げ花火には大まかに分けて二つの流派がある。
一つはマテリアル式。
こちらの方が歴史は古い。様々な材料を組み合わせて作る方式で、火吹き竜の火炎袋、発光石、火炎蛙の油等々、火と光にまつわる植物や鉱石、魔物たちを素材とする。
その採取のために、時に冒険者を雇い、時に職人自ら危険な土地に足を踏み入れ、材料を仕入れてくる。
それらの材料を調合し、組み合わせるのだが、その技術は長年の経験と勘によるところが大きく、師から弟子へと代々受け継がれてきた。
そしてもう一つは、マジカ式。
魔術というこれもまた昔からあるものを利用した方法で、炎や光の精霊の力を借りた術式を組み込むことで花火を作る。
マテリアル式との大きな違いは、そのバリエーションの多さである。
何せほんの僅かな術式の組み方の違いで、傑作と駄作に別れることも珍しくない。
マテリアル式同様、経験と勘も必要であるが、それ以上に数学的、パズル的な考え方が重要な作業である。
どちらの流派も共に、夏の夜空に咲く一輪の花に職人は自らの魂を懸ける。
正直この二つは仲が良いわけではない。だからこそ、互いに対する対抗心が技術の向上を育んだとも言える。
だが、考え方や価値観が違う彼らに共通しているのは、どちらも自分が作る花火が一番美しいと信じて疑わないことだ。
彼らの意地と執念が、かくも美しい形と色を生み出すとは、本当に人とは不思議なものである。
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