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【みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史】システムの故障は単なる機械の故障では無い。

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

正直なところ、僕は本書で紹介されているようなみずほ銀行の新しい勘定系システム「MINORI」のことや、みずほ銀行が過去に大規模障害を起こしたことや、システム統合まで長い期間と費用をかけ「IT業界のサグラダファミリア」と揶揄されていたことも、全く知らなかった。「なんか話題になってる本らしいな」ぐらいの気持ちで、この本を手にとった。

コンピュータやシステム、情報系の専門用語が頻出するので、馴染みのない人にはやや読みにくいかもしれないが、それでも"ノンフィクション小説"を読むような感覚で読めば、なかなか面白い本だと思う。

〜時系列を遡る構成の妙〜

第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行の3行が統合したみずほFGが悲願であった「勘定系システム」の刷新・統合プロジェクトが2019年7月、ついに完了した。

完了までに8年もの年月と、35万人月、4000億円を、かけた一大プロジェクトはどのような経緯で完了したのか。

本書の流れとして、まず勘定系システムのプロジェクト完了の流れが書かれ、時系列を逆にたどり2002年と2011年に発生した大規模なシステム障害について書かれる。

時系列を逆にすることで、これはみずほFGの成功譚ではなく、プロジェクト完了までに多くの時間と費用をかけたみずほFGの経営や計画の問題点を浮き彫りにする、という意図であることを明示する構成になっている点が非常に面白い。

業務の根幹を担うシステムの刷新がどれほど困難であり、かつ甘く見ているとどれほど痛い目にあうのか、という事を突きつけられる。
情報技術の進化の早さは誰の目から見ても明らかである。システム技術者でなくとも、社会人として生きていく人々にとっては意識すべき問題だろう。

〜システムを理解していないトップたちと伝えられないシステム部門〜

さて、本書の中で僕が特に気になったのは、勘定系システムのプロジェクトを進めるにあたり、過去の経営者達が大掛かりなシステムの刷新や開発に関する認識があまりにも無かった事だ。
経営者は技術屋ではないので、システムやプログラムに関する知識が無いのは仕方ないとしても、システム刷新のハードルの高さや難しさを理解していなかったことが、大きな問題点だろう。

記者会見では金融機関のIT化の重要性を強調しながらも、「三行のシステム統合は比較的容易だろう」「システム部門の部長に滞りなく進めるよう言ってきた」などと、業務の基幹となるシステム統合をさもパソコンを入れ替えるぐらいの感覚にでも思っているような言いぶりだ(言い過ぎか)。

本書では経営者のシステムに対する認識不足や判断の遅さなどに重きを置いて書かれているが、一方でシステム部門がシステム統合の難しさなどをトップに伝えられていない事も大きな問題だと思う。

僕自身、かつて会社の基幹系システムを保守管理する部署にいたことがあるが、システムに詳しい部署の職員達は上司に対して、ワザと難しい専門用語を使ったり、「言ってもわかんねぇよ」と重要な話を上司にあげなかったりして、自分たちの都合の良いようにシステム管理保守を行ってきた、という場面を目の当たりにしている。
システム部門の部署の役割は、本書でも語られるように、専門ではない上司や他の職員にわかりやすくシステムの構造について伝えることも含まれている。みずほFGがそうだったというわけではないが、システム部門がトップにあえて情報をあげない、という事も起こりうるのだ。

システム統合のプロジェクトにおいては、トップとシステム部門との時間をかけた深いコミュニケーションが重要なのだ、と思わせられる。

〜基幹系システムの重要性〜

今では僕は基幹系システムを担当する部署から離れている。申し訳ないけど、うちの会社は組織の業務の根幹となる基幹系システムに対する意識が低い。他の会社ではどうかわからないが、基幹系システムの良し悪しはその組織全体のコミュニケーションが円滑かどうかの指標になる、といっても僕は過言では無いと思う。

今後、IT化や情報技術の革新により、世の中にはシステムが溢れ返る。いくらシステムがルーティンを担う時代が来たとしても、そのシステムを構築し動かすのは人だ。技術屋だけでなく、それ以外の人たちも一体になり作り上げなければ、顧客を満足させられる基幹系システムは生まれないだろう。
システムの異常は、単なる故障ではなく、コミュニケーションや課題、計画を疎かにした人間が要因となるのだ。

これから、大規模なシステム構築に関わる人にとっては、実例から考える貴重な資料となるだろう。

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