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【他者と働く】すべての働く人が読むべき一冊

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆

〜自分だけでは解決できない「適応課題」〜

僕らは、日々仕事をする上で様々な課題が目の前に立ちはだかる。
そして、それらの課題や問題に対して頭を使い、解決策を探す。
本書では、まずそれらの課題や問題を2種類に分けて考えている。新しいシステムを導入する、業務をマニュアル化して統一するなど、既存の知識や方法で解決できる問題は「技術的問題」というのに対して、会議での提案に反対を受ける、正しいハズの理屈が相手に通用しない、など、人と人、組織と組織の関係性の中で生じる問題を「適応課題」という。
そして、往々にして、僕らが組織の中で頭を悩ませるのが「適応課題」の方であるのは、想像に難くないだろう。

関係性の中で生じる問題は、当然自分の中だけでは解決出来ない。
本書では、他者と働く中で発生する「適応課題」を解決する実践として、「対話」と「ナラティヴ・アプローチ」という方法を解説している。

〜相手の「ナラティヴ」をよく観察する〜

では、分かり合えない他者と働くためにどのようなアプローチが必要となるのか。

この本に書かれている事は、ものすごくかいつまんでざっくりというと、「相手の立場と自分の立場を俯瞰で見て、互いに良い結論を出せるように働きかける」方法である。
それは、決して一方的に相手を打ち負かす方法でもなく、長いものに巻かれるように自分を押さえ込む方法でもない。

本書における「対話」というのは、集会やワークショップのようなコミュニケーションのことではなく、「新しい関係性を構築すること」である。溝のある人と人または組織と組織の間に橋をかける、とも表現される。
そして、もう一つのキーワード「ナラティヴ」とは、日本語では「語り」と訳されるので何か言語的な解釈だと思われるがそうではなく、立場・役割・専門性などによって生まれる「解釈の枠組み」、つまり、その人が置かれた環境における「一般常識」のようなものである。

まとめると、関係性の中で生まれる「適応課題」は、それぞれの持つ「ナラティヴ」の違いにより溝が出来ることから発生する。その課題解決のため「対話」により、溝に橋をかけ新しい関係性を構築する。
というのが本書のテーマとなる。

〜人に優しくなり、自分に誇りを持つ〜

さて、本書は経営学の本であり、組織論の本である。
しかし、それ以上に人と人の関係性の本質をついた本である、と僕は思う。

「ナラティヴ」という言葉で専門的な話のように感じるかもしれないが、それぞれの人がもつ「ナラティヴ」が違う、というのは、簡単に言えば、常識って人によって違うよね、事情は人によって違うよね、何をどう感じるかは人によって違うよね、考え方は立場によって違うよね、という事だ。

そして、「対話」は、自分の言いたいことだけ言うんじゃなくて相手の立場になって考えましょう、という事だ。

これって、いわば、小学校の道徳で習うような事である。

複雑な人間関係や早く成果を求められる企業社会の中で、大人が忘れてしまってることなのかもしれない。相手の事を考える、理解するという事を蔑ろにしがちだ。

それに加えて、相手に忖度したり自分が折れたりするのではなく、相手と自分、双方にとって好ましい結果を考える。それこそが働く大人の対話、そしてコミュニケーションだろう。

相手を理解して、自分に誇りを持つ。
「ナラティヴ・アプローチ」に関する事も有益だったが、最後の「おわりに」で書かれている著者の思いに強く胸を打たれる。


これは、すべての働く大人が読むべき一冊である。


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