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【侍女の物語】(ネタバレあり)徹底的に不快で気持ち悪い世界

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆


〜吐き気がするディストピアの傑作〜

数年前にhuluでもドラマ化されていた本作(僕は未見)。
事前情報だと「『1984年』の姉妹小説」なんて文言も見かけたが、その内容は全く違うものであると言える。

本作に登場するギレアデという国は、内戦状態にあり国民は監視・管理された国家である。
国民は階級ごとに決まった色の制服の着用を義務づけられている。キリスト教原理に基づき全てが決定され、逆らえば即座に処刑または収容所送りとなる。
そして、この国家の最大の特徴が、国の深刻な出生率の低下を食い止めるために健康な女性を出産のための資源とみなし、国の司令官に仕える「侍女」として国家全体で管理している、というところだ。

「侍女」たちは、着飾ったり肌を露出したりする事を禁じられ、自由に結婚したり恋をしたりする自由は剥奪されている。支配者層や富裕層の男たちと性交し、出産するためだけに存在させられている。

吐き気すらするような支配体系である。

そして、物語はその国のとある1人の「侍女」(本名は明かされない)の視点から語られる形で進行していく。


〜現代でも根深い女性蔑視の問題〜

世界設定からもわかるように、本作は「社会における女性蔑視を批判する」のがテーマとなっている。1985年に発表された本作が近年ドラマ化された事は、女性蔑視の問題は現代においても根深い問題であると考えざるを得ない。

例えば、ギレアデでは司令官の子を産めば一生安泰の生活が保障されるが、出産できなかった場合には「不完全女性」という烙印をおされ、「コロニー」と呼ばれる収容所(らしき場所)に送られてしまう。
つまり、子を産めなかったり未熟児が産まれてしまうのは全て女性の身体に責任がある、という考え方を基にギレアデの仕組みが出来上がっている事が、この世界の悍ましさを表している。そして、このことについてはラストで衝撃的な事実が明かされる。
妊活だったり不妊治療などは女性側の問題であると考えている人は、今でも少なくない。男性が不妊治療を拒否する、というのはよく聞く話だ。
80年代の小説だからといって、人々の考え方は大きく変わっていないように思う。

また、ギレアデの世界設定についてさらに興味深いのは、「子を授かることは女性の使命だ」「子を産むことは女性にとって最大の幸福だ」と侍女たちを直接洗脳するのが女性である、という点だ。
この世界では女性の中にも階級があり、監視する者とされる者に分かれている。子を持つ事が出来なかった女性が、若くて妊娠の可能性のある女性を支配し、時には羨み、時には妬み…様々な感情を持ちながら監視している状況は読んでいてかなり息苦しい。

およそ40年前の小説とは思えないほど、その内容は今の社会の写像のように感じる。僕は結婚してから、この社会での女性の生きづらさというものを妻から学んでいるが、そこに追い討ちをかけるように本作は僕を圧倒した。
学生時代に読んでいても、ここまでの感覚は得られなかっただろうなと思う。

ここまで徹底的に不快な世界観のもつ小説を、僕は他には知らない。エンタメとは程遠い、ただひたすらに気分の悪い物語である。
が、間違いなく一度は読む価値はある、と言いたい。




〜(以下、ネタバレ)最後の一章が凄まじい〜

さて、最後に本作の構造的な話をさせていただく。

本作は、主人公の侍女の1人語りの形式で進んでいくのだが、実はこの話が歴史的な資料であった、という事実が最後の章でわかる。

「『侍女の物語』の歴史的背景に関する注釈」というタイトルである最後の章では、この主人公の語りがテープの録音で残っており、約200年後の世界で学者たちがそれらを文字に起こした文書である事が明かされるのだ。

そして、ギレアデを研究した学者の発表により様々な事実がわかる。

主人公の司令官であった男は実はギレアデの支配体系そのものを設計した人物であった(可能性が高い)ことや、作中に出てきたモイラやジャニーンという名前は録音の中で後々の証拠とならないように仮名であった事などが明らかとなる。

さらに、個人的に衝撃的だったのが、司令官や富裕層の男たちが生殖機能にダメージを与えるウイルスに感染していた可能性が高い、という事である。
これは作中においては、学者たちの推測ではあるものの、もしこれが事実であるとするならば、この悍ましい支配体系を創り出した張本人たち自身に出生率低下の原因があったのだ。そして、それを知ってか知らずか、「子どもが産まれないのは女性のせい」という国家の仕組みの中で、何の異常もない女性たちが何人も処刑または収容所送りにされていた事になる。

最後の章が、この小説の不快感をグッと深いものにした。
設定だけでなく、小説の構成としても凄い作品である。

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