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【日本社会のしくみ】日本型雇用の成り立ちを知る

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆☆☆


非常に興味深く面白い本だった。
約580ページの分厚い本だったが、書かれている言葉もわかりやすく、最後までストレス無く読み終える事が出来た。

本書で書かれているのは、日本の慣行ともいえる「年功序列」や「長期雇用」の成り立ちである。100年遡り、どのような経緯でこれらの慣行が構築されたのか、また簡単にではあるが他国との比較も交え、膨大な資料やデータを基に分析・解説している。


〜日本人の約3割の状況は80年代から大きく変化していない〜

まず、この本の冒頭で大変興味深いのが、日本人の約3割の状況はほとんど変わっていない、という事である。

この本では日本社会を「大企業型」「地元型」「残余型」という分類に分けている。
「大企業型」はその名の通り、都心に位置する大企業に勤める人々の分類だ。他の分類と比べて所得は高いが、地方から出てきている場合が多く長年の定住者ではない。後述するが、「地元型」と比べ出費が大きい。
「地元型」は、生まれた土地にそのまま定住し、地元で暮らし続ける人々の分類だ。地元企業に勤める人も多いが、ほとんどは自営業である。「大企業型」と比べ、所得は低いがいわゆる「近所付き合い」で出費がある程度抑えられる面がある。「地元型」は持ち家を親から受け継いでいるケースが多く、地方から都心に出てそこに持ち家を購入しなければならない「大企業型」と比べ、そういう意味でも出費は抑えられる。
「残余型」は上の2つの分類の悪い面だけを持ったような分類だ。その地の定住者ではなく周りからの助けは期待できず、かと言って所得は高くない。非正規雇用者やアルバイト従事者などが想定される。


さて、80年代の日本の一般的な人生といえば、企業に勤め、結婚し、マイホームを買い、子どもを作り、老後は年金で悠々自適な生活、というイメージがあった。しかし、そんな生活が出来ていたのは3つの分類のうちの「大企業型」の人々だけなのだ。
そして、80年代のデータを見ると、「大企業型」に分類されたのは、日本全体で約3割しかいなかったのだという。

そして、その割合は2010年代になっても変わっていない。「地元型」が減少し、「残余型」が増加したものの「大企業型」の割合は2010年代においても約3割なのであるという。

つまりは、大企業における長期雇用の慣行が、長い期間、他の2つの分類から「大企業型」への流動を止めている、という事が見えてくる。

〜日本の働き方、海外の働き方〜

次に、この本を読んでいて驚いたのは、自分の仕事に対する認識が日本と海外では異なる、と言う事だ。
例を挙げると、アメリカやドイツなどの人々は「何の仕事をしていますか?」と聞かれた時に、「製造業です」だとか「トレーダーです」など、"職種"を答える。しかし、日本人に同じ質問をすると「トヨタで働いています」など、"企業名"で答える。
これは、アメリカやドイツなどでは、"仕事"というものが"職種"に結びつくものと考えているのに対して、日本では"企業"に結びつくものと考えていることに起因する。


アメリカやドイツなどでは"職種"毎の労働組合が結成されており、労使交渉も企業と同一職種で構成された労働組合とで行われる。同じ職種でキャリアを積む、というのが慣行となっているアメリカとドイツでは、同一職種の別企業への転職は慣行として一般的なのである。
一方、日本の場合は労働組合は企業毎となっている。労使交渉は企業と企業内で結成された労働組合とで行われる。その企業への貢献度が「キャリアを積む」という事を意味し、他企業へ転職するとそのキャリアが白紙になってしまう、というのが日本の慣行のため、転職等はしにくい。

日本型雇用の特徴は年功序列や長期雇用だけではない(日本以外の国でも年功序列、長期雇用の慣行はある)。著者によると、日本型雇用の大きな特徴は企業によるタテの繋がりが強く、職種毎によるヨコの繋がりが弱い点である、というのだ。



〜100か0か、ではない〜

さて、本書は決して日本の年功序列や長期雇用をこき下ろすような内容の本ではない。あくまで、その慣行がなぜ作られたかというのを膨大な資料とデータで冷静に分析しているだけである。その時代において、合理的であったり政治的な運動が働き、今の形になっているだけなのである。そして、それは海外の働き方も同じである。

今の日本の慣行はたしかに時代に合っていない。しかし、日本の働き方も海外の働き方もメリットデメリットがあり、ただ単純に海外の働き方の良い面を取り入れようとしても、それは必ず失敗する。何より長い期間をかけて成り立ってきたものを変えることは容易ではない。

日本を変えるために、その根底となっている歴史を知ることは重要だ。目先の問題ばかりに目を取られ、安易な方法で改善しようと無理に舵をとっても、不安定な時代の波の中で転覆してしまうことは十分あり得る。
何が今の日本にとって良いのか。本当の問題点はどこにあるのか。それを冷静に考えるべきだろう。

今の日本の見え方が大きく変わる一冊になった。

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