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【マネジメント 基本と原則[エッセンシャル版]】経営論・組織論の原点

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

〜原点となる一冊は読むべきだ〜

一昔前に日本で流行ったドラッカー関連の本。
そのきっかけともなった「もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら」(以下、「もしドラ」。僕は未読)では、この本の内容が使われているそうだ。

「もしドラ」に限らず、経営論や組織論に関する書籍やネット記事では、ドラッカーの言葉を引用しているものをよく見かける。
しかし、あらゆる記事や本が引用している本を読んでおくのは大切だ、というのをこの一冊で感じた。

というのも、割とドラッカーを引用した文章には酷い解釈をしているものがあり、僕もこの「マネジメント」を読むまで、ドラッカーという人物が利益重視のゴリゴリビジネスマンだと思っていたのだが、実際にはビジネス思想家であり、社会を中心に考えていた人物であるということが、この本でなんとなくわかったのだ。


〜社会を中心に考えていたドラッカー〜

なんの記事か本か、誰が書いたかは忘れたが、ドラッカーを引用したこんな内容の記事を見たことがある。

ドラッカーは「企業の目的の定義は一つしかない。それは顧客を創造する事である」と「マネジメント」で書いています。つまり、ビジネスで成功するためには「価値を新しく創り出す」事が重要なのです。

細かいところは忘れたが、ざっくりと「誰も求めていないものにも価値を付ければ、ビジネスとして成り立つ」というような文章だった。
僕はこの文章に「何の価値もないものに無理矢理価値を付加して儲けるなんて、社会にとってマイナスじゃないか」と、ひどく嫌悪感を覚えた。そして、そんな事を言っているドラッカーという人物にも悪い印象を持ってしまった。

しかし、この「マネジメント」を読むと、ドラッカーは決してそんな事は言っていなかった、という事がわかる。
ドラッカーの言う「顧客の創造」とは、社会の欲求を見つけ出す事である。そして、その欲求は飢餓における食物への欲求のような生活を支配する欲求かもしれないし、まだ誰も気づいていない潜在的な欲求かもしれない。
ドラッカーのいう企業の目的は社会の欲求を満足させることである。ありもしない価値を作り出し顧客を創る、というのとは似ているようで考え方が全く違う。

というよりも、そもそも、ドラッカーが「マネジメント」の中で対象としている組織は企業だけではない。公的機関、学校、病院など、様々な組織が対象なのである。そして、それぞれの組織が「われわれの事業は何か、何になるか、何であるべきか」を考える事がマネジメントの第一歩である、としている。そこから見ても、ドラッカーがビジネスに対する思想家ではなく、社会全体に対する思想家である事がわかる。

ドラッカーは人々が幸福になるために社会には組織が必要であり、そのために組織はどうあるべきか、という事を考えた思想家なのである。

ビジネス関連の本や記事に度々出てきたドラッカーだが、それは決して金儲けのための思想ではなかった、と言う事を知れただけでもこの本を読む価値はあったと思う。


〜新しく得られるものは無いかもしれない〜

さて、では、この「マネジメント」を読んで何か新しい知見が得られるか?というと、これから経営論や組織論を学ぼうという人には良いかもしれないが、経営論や組織論の本をある程度読んでいる人にとってはあまり得られるものは無いかもしれない。

副題でもあるように、本書は組織マネジメントの「基本と原則」であり、最近の様々な本で割と引用されている内容である。

僕個人としては、ドラッカーという人物に対する誤解が無くなった事は大きな収穫だったが、広くオススメできるか、と言われれば微妙である。

実のところ、アメリカの大学では経営学を専攻する学生ですらドラッカー関連の本はあまり読まないらしい。
経済学においてはもはや基礎の基礎となっている内容が多く、また、「マネジメント」は経営学の本ではなく実践的な内容のため、科学的な観点からはあまり重要視されていないそうだ。
日本で流行した事が世界的に見ればちょっと珍しい事らしい。

人によって得られるものが違うかもしれない。しかし、ある種の古典を読む感覚で読めばそれなりに楽しめる内容なのではないかと思う。

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