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【言ってはいけない 残酷すぎる真実】本の内容を鵜呑みにして行動してはいけない

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆

〜正しい知識は良い知識とは限らない〜

タイトルからしてかなり攻撃的で刺激的な本書。
話半分の娯楽的な本かと思いきや、意外と科学実験や研究を引用した内容で、科学的根拠に基づいた「真実」が書かれている(やや、著者にとって都合の良い方向に結論を持っていきがちな面はあったが…)。

犯罪を犯す可能性の高い人間の科学的な見つけ方や、知能や気質には遺伝的な人種の差異がある、などなど、たしかに読んでいて気分が悪くなるような内容だった。
科学的な根拠のある話であるという事なので、別に内容がウソであるとは思っていないし、著者自身も冒頭に「これは不愉快な本である」と前置きしているため、書かれている事そのものにどうこう言うつもりは無い。

本書を読んで思ったことは、「正しい知識だからといって、それが社会にとって良い知識であるとは限らない」ということだ。


〜科学的事実は使う人間次第〜

本書では、全体として遺伝に関する話が多かったように思う。最近読んだ「遺伝子 親密なる人類史」(以下、「遺伝子」)にも書かれていたような話もあった。

引用された話は同じであっても、本書と「遺伝子」とではかなり扱い方が違っていた。
というのも、「遺伝子」の著者は「遺伝学は"科学の歴史上最も強力かつ危険な概念のひとつ"」としていた。つまりは、遺伝学は悪用すれば人類にとって容易に悪影響を及ぼすし、大規模な争いのもとになると危険視していた。

一方、本書の著者は「科学的事実に基づき、それに合わせた制度や政策を社会に反映させる方が良い」という場面が多かった。

著者は、「みんな見たいものだけを見て、気分の良いことだけを聞きたいのだから、賢い人たちが知らないふりをするのは、正しい大人の態度なのだろう」「憲法に表現の自由が定められているのは、人が嫌がる言論を弾圧しようとした過去の反省によるものだと思っていたが、"リベラル"を自称するひとたちの考えはちがうらしい」と書いており、さも、知識人は批判を受けたくないから不愉快な真実を黙っているかのように受け取れる。

でも、それは違う。
残酷すぎる真実を知識人が公にしないのは、その真実が即座に争いや差別に発展する危険があるからなのだ、と僕は思う。

科学的事実は正しい知識ではあるけれど、それを公にする事が決して社会にとって良いこととは限らない。
なのに、「事実だからハッキリ言えばいいじゃないか」というのは(本書の著者に限らず、周りの人でもこういう事言う人はいるが…)、少し先を見る考えが足りないように思う。


〜距離を置いた楽しみ方を〜

書かれている内容は、非常に興味深いし、話のタネになりそうな話題もあり(不謹慎な話題ではあるが)、娯楽本として楽しむ分には面白い。

ただし、まえがきとあとがきに書かれている「不愉快な現実」対する著者の意見には全く同意出来ない。

この本をこれから読もうとしている方は、決して本の内容を重く受け止めたり真剣に考えてしまってはいけない、ということをお伝えしておきたい。本の内容をそのまま正面から受け取ってしまえば、あなた自身が不愉快な人間になり得る。
適度な距離感で楽しむ事をオススメする。

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