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【実力も運のうち 能力主義は正義か?】考える要素が多すぎる一冊

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆

最初に白状しておくと、非常にまとまっていない文章を書いてしまった。というのも、あまりにも刺激的な題材で書こうと思う事があまりにも多くなり、まとめられなくなってしまったのが実際のところだ。
この一冊で、世の中の見え方が大きく変わるかもしれない。疑いもしなかった命題に真っ向から批判を投げかける本書は、誰もが読む価値のある一冊だと思う。

〜能力主義が生み出す不平等と分断〜

タイトルからしてかなり刺激的な一冊である。

「能力のある人は報われる」
「努力して功績をあげた人は相応の報酬を受ける」

そんな、民主主義社会において、多くの人が異論の無いこの意見について、著者マイケル・サンデルは真っ向から批判する。

「能力主義」「功績主義」という考え方は、本人の能力や努力次第で良い生活ができるようになる、という平等な社会を表現しているように思えるが、著者に言わせれば、裏を返せば、「生活に困窮している人は努力不足であり、自業自得である」と言っている事になる。そして、その考え方が社会における勝者と敗者を生み出し、さらなる不平等を生み出している、と言うのだ。

歴史上、貴族社会においては「生まれ」が貧富を分ける大きな要素だった。位の高い生まれの人はその子孫も裕福な生活が出来る一方で、貧困家庭に生まれた人はその子孫まで貧しい生活を強いられる事となる。
能力主義や功績主義は、そんな「生まれ」の違いで生じる不平等を無くして、一人一人が自分の望む人生を送れるような社会を目指した考え方であった。しかし、そんな考え方のもと、生活に困窮してしまった人々は苦しい生活に迫られるだけでなく、「生活が苦しいのは本人の努力が足りなかったからだ」という「自己責任」を負わされ、恥や屈辱も味わってしまう。その一方で、成功した人々は「自分が良い生活が出来るのは、努力をしてきたからだ」という驕りと慢心を持ち、敗者を馬鹿にして嘲る。

能力主義と功績主義が社会に生み出すのは、決して平等な社会ではない。勝者と敗者の不平等を広げ、分断の溝を深める。

著者は、そんな社会は道徳的に間違っているし、"社会正義"とは決して呼べない、と批判する。

本書は、行き過ぎた能力主義から生まれた現代社会の不満を洗い出し、能力主義が生まれたプロセスを歴史的・宗教的観点から明らかにして、人々が気づいていない社会に潜在する差別や不平等を浮き彫りにする。


〜エリートは一方的に悪か?〜

能力主義・功利主義の社会におけるエリート達について、著者は以下のように批判する。

・エリート達は、自分の成功は自らの努力の成果だと考える。
・成功の要因として運や偶然や家庭環境などの要素は考えず、あくまで自分の能力のおかげだと思い込む。
・低所得者を「努力が足りないからだ」と軽蔑視し、唯一の解決策として「大学に行く事だ」と強いる。
・かつて労働者中心だった政党にもエリート層が加わり、能力主義・功利主義を加速させている。

しかしながら、本書のエリート層に対する人物像がやや偏って描かれている面も否めない。
大学への不正入学から始まる本書は、エリート層をあたかも「金にモノを言わせて学位を取る」「恵まれた環境で努力もせず自分には能力があると勘違いしている」というような風に読み取れてしまう。
言うまでもないことだが、いわゆる高学歴の人は大半は努力をしている人たちだ。学生時代に遊ぶ時間を削って必死に勉強してきた人々が、「努力をしなかったのなら、苦しい生活をしていても自業自得だ」と考えるのは仕方ないのかもしれない、と僕は思う。
その考え方こそ、マイケル・サンデルは「能力主義・功利主義に毒された発想だ」と言うだろう。
しかし、今の社会ではそのように生きるしかない、と考える事はそんなに悪なのだろうか?とも思う。

この本を誤って解釈して、エリートや高学歴が一方的に悪であると、考えてしまうのは注意したい。マイケル・サンデル自身も、能力を発揮して成功する事を否定しているわけではない。


〜共通善は資本主義では実現できない…?〜

さて、本書において著者が頻繁に用いる言葉に"共通善"というものがある。
詳しい意味は、著者の他の書籍を読まないとわからないかもしれないが、文脈から察するに、個人にとっての正義や善ではなく、集団や社会にとっての正義や善を追求する、という考え方なのだと思う。

著者の推し進める共通善のためには、能力の高い人々はそれを個人のために用いるのではなく、環境や周りの人々に感謝し、社会に分配し還元する、という気持ちが必要なのだ、と説く。

これは理想的な社会ではあるが、どう考えても資本主義と両立する世の中が想像できない。
成長する事が命題となる社会の中では、自分のために稼ぐ事が原動力となるという事実は否定出来ない。

結局のところ、他の本でも見られる意見だが、資本主義は限界に来ている、という事なのだろうか。


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