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【教育格差】見えない日本の教育格差

オススメ度(最大☆5つ)

☆☆☆☆

以前、「ケーキの切れない非行少年たち」という本を読んでから、少し"教育"というものに対して興味を持ち始めた。
そんな中で、この本にも思わず目がいってしまった。

本のタイトルからして、今の日本の教育実態に問題提起する内容である事は明らかだ。
期待しながら読み始めてみたが、かなりボリュームのある内容で、かなり読み応えのある本で、読後の疲労感はかなり大きい。

〜膨大なデータに裏づけされた「教育格差」〜

まず、覚悟していただきたいのは、本書の約7割が膨大なデータの解説になっている。

本の冒頭で「FACT FULLNESS(ファクトフルネス」の引用があるのだが、この著者がファクトフルネスの影響を受けている事がよくわかる。

本書全体が、データを分析する事で事実を見つめる、というファクトフルネスの理念そのものなのだ。

したがって、数字やグラフが山のように出てきて、このパートはかなり読み進めるのが辛い。

しかし、このパートを読み終える頃には、著者の主張したい「緩やかな教育格差」の意味が重くのしかかるだろう。

〜「生まれ」による格差は埋まらない〜

膨大なデータの中で、著者が気づいた事は大きく3つだ。

①「生まれ」により、小学校入学時点から教育格差はある
②「緩やかな教育格差」は中学・高校と進んでも並行して縮小はしない
③「緩やかな教育格差」は、今も昔も存在する

本書の冒頭でまず衝撃的なのが、①の小学校入学時点から教育格差がある、という事実だ。
小学校中学校は義務教育であり、日本全国同じカリキュラムで勉強していく、というのが一般的な認識であるが、出生から小学校入学までの間で、(便宜上の表現として)親の育て方や地域により、義務教育のスタート地点で既に格差が生じているのだ。

そして、親が大卒者であったり、収入の多い家庭で育つ子の方が(これも便宜上の表現として)「能力」が高くなる。
もちろん、大卒者の親であれば自分の子に対して教育熱心になるし、収入の多い家庭であれば教育にかけるお金も増えるので、想像するのは容易だろう。

しかし、原因はそれだけではない。
住んでいる地域の保護者たちがどれだけ教育に熱心になるか、学校にどれだけ介入するか、進学を意図した教育をする意識があるか、という地域格差や意識の格差も原因なのだ。
地域全体として、「子どもは大学まで行くのが普通だ」と考える人が多い地域なのか、「子どもは放っておいても勝手に育つ」と考える人が多い地域なのか、も大いに影響する。そして、同じ意識を持つ家庭は、所得などに起因して、自然と分離していく。
大都市か、地方かという単純な地域格差だけでなく、地域により、教育に対する意識の格差があるのだ。

そして、みんなが平等に受けている義務教育という世界では、その格差が見えにくいのである。

高校に進めば、学力により選抜され、その格差はさらに縮小を難しくする。
進学に力を入れている高校に入学するのか、そうでない高校に入学するのか、それによりその後の人生の選択肢は決まってしまう。

もちろん、そういった格差を苦にせず、トップクラスの大学に行く人もいるが、そういった人はごく稀だ。
著者はそういった人にスポットを当てて「貧困な家庭に育ったとしても、大学に行けるかどうかは個人の実力次第だ」と考えてしまう事は、格差をさらに見えにくくしてしまう要因となり危険視している。

著者はデータを基に、一貫して、日本のどの時代においても「教育格差」は存在する、ということを強く唱えている。

〜著者の提言する具体的な提案〜

膨大なデータから見える教育格差を示された後に、終盤には著者の提案が書かれている。

大きく2つだ。

①分析可能なデータを蓄積していくこと
②教員免許を取るための必修科目に"教育格差"について取り入れること

いずれも、著者は、まず世の中が教育格差が存在することを認識することが重要である、と考えているのだ。

様々な教育政策が実施されてきたものの、それでも並行して教育格差があるのは、元となるデータが蓄積されていないことが原因であること。
また、教育の現場にいる教師たちも潜在する教育格差を認識していないことも、教育格差が縮小しない原因となっている(教師になる人々は得てして高学歴の者が多く、勉強しない生徒については「やる気がない」と判断してしまい、潜在的な"意識の格差"を理解・認識することができない)こと。
これらの原因を取り除く事が、格差を取り除く第一歩なのだろう。

本書の存在もそうである。
日本には緩やかな教育格差が存在しているという事実を多くの人に伝えることが、著者自身の使命であると考えているのだ。

教育に関わる人たちは、一度この本を読むべきだ。そして、多くの人が共通認識として教育格差を理解すれば、並行線だった格差社会に大きな変化が生まれる事だろう。

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