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【宇宙(そら)へ】読みたかったのはこういうのじゃなかった…

オススメ度(最大☆5つ)
☆☆☆


〜SF賞を総ナメした作品〜

僕は映画で見るSFは好きなのだが、小説でSFを読む事はあまり無い。
過去に小説で読んだSFも「2001年宇宙の旅」ぐらいで、「2001年」は面白かったのだけど、それ以降SFの小説はあまり読んでこなかった。理由は別に無いのだけど。

さて、読書をしている中で久しぶりにSF小説を読みたいと思い検索していたところ「ヒューゴー賞」というSF小説の賞がある事を知った。そして、2019年に「ヒューゴー賞」を受賞した本作「宇宙へ」は、同じくSF小説の賞であるネビュラ賞、ローカス賞を制しており、主要SF賞三賞を獲得しているというとんでもない偉業を成し遂げた作品なのである。

あらすじを読んでみると、

舞台は1950年代。1952年にワシントンD.C.近海に巨大隕石が落下したことで、歴史は史実と異なる道を歩み始める。主人公のエルマは、第二次世界大戦で従軍した元パイロット。エルマは夫のナサニエルと共にこの災厄を生き延びるが、数学の博士号を持っているエルマは、この隕石落下が劇的な環境の変化を引き起こすということを突き止める。

人類が生き延びる方法は、宇宙開発を進め、地球に代わる人類の居住地を見つけだすこと。初の有人宇宙飛行、そして月面探査へ……。『宇宙【そら】へ』は、宇宙開発において女性たちが活躍した世界線を描く歴史改変宇宙開発SF。

という、なんともSF心をくすぐるお話である。
久しぶりに読むSF小説としても申し分ないだろうと思い、本作を手に取った。


〜壮大な宇宙開発物語…と思いきや…〜

さて、期待に胸を膨らませながら本作を読み進めていったものの、中盤あたりからなんだか単調になりスケールの小さい物語になっていくように感じられた。

というのも、歴史改変、と銘打っているが、隕石が落下した事で地球上が人類が住めなくなる環境になっていく、というのは、実際の歴史よりも宇宙開発が早く進行するためのきっかけであり、物語の主題は別のところにある。
著者が1番書きたかったのは、宇宙飛行士に女性が選ばれなかった歴史である。宇宙開発が盛んだった1950〜60年代には優秀な女性パイロットが大勢いたにも関わらず、アメリカの宇宙開発は男性のものだった(物理学者サリー・ライドが初の女性宇宙飛行士としてスペースシャトルに搭乗したのは1983年。なお、ソ連ではその20年前にワレンチナ・テレシコワという女性宇宙飛行士が存在しており、歴史上は女性初の女性宇宙飛行士は彼女になる)。
本作では、さらに女性だけでなく人種も宇宙飛行士選定に大きな影響を与えており、宇宙開発の物語の中で女性差別や人種差別を主題として盛り込んでいる

もちろん「SF読みたかったのに差別問題なんてどうでもいいよ!」なんて言うつもりはない。
でも、読みたかったのはこういうのじゃなかった…という気持ちは、正直なところ拭えない。


〜期待していたSFではなかった〜

しかしながら、架空の宇宙開発と性差別や人種差別に対する問題提起を「歴史改変SF」という形で描いている点は切り口としては非常に面白いと思うし、宇宙開発に関する知識や背景なども緻密に描かれていて読み応えは大いにある。

しかしながら、前述した「期待したSF感」があまり無かった事や、地球に落ちた隕石に関する話があまり無いところ、また(個人的な意見だが)主人公のエルマをあまり好きになれない点など様々気になる点があり、一概に面白かったと言えないのが素直な感想だ。

物語や設定は非常に巧みなのに、なぜかモヤモヤした気持ちで読み終えてしまった。その原因は、久しぶりに読んだSF小説という事で何か壮大なスペクタクルを期待してしまっていた僕自身にあるのだと思う。

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