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【読書感想】三浦しをん『月魚』

2018/08/12 初めて読む本、読了。

三浦しをん『月魚』

冒頭の数行、瀬名垣が無窮堂へ向かう道の描写で、この小説は自分にとって特別な1冊になるという確信があった。

生涯でどれくらい本を読んでいるか分からないけれど、ここではないどこか、現実から離れすぎていないどこかに連れて行ってくれる小説はそう多くない。『チルドレン』の陣内。『ゴールデンスランバー』の青柳と晴子。脳に居付いてしまった小説世界とキャラクター。自分と彼らの世界は繋がっている。助けられている、といつも思う。

結論から言うと、『月魚』の瀬名垣と真志喜はもう私の頭の中にいて、私は時々ふと2人を想い出して頬を弛めている。

この小説は、闇と光が絶妙に配置されている。眩しい煌めきと湿度ある文章。古書店の黴くさい匂いも立ち上がってくる。

幼き頃より古書業界で鍛錬してきた、瀬名垣と真志喜。本に対する知識と熱意も読んでいて面白い。2人の関係性の匂わせ方は巧すぎて苦しい。

書物としての命を保ち続けるために、本を流通にのせる。

いま私の手元にある本たちも、いずれ誰かの手に渡るのだろうか。寂しいけれど何だかそれも楽しそうだ。




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