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「政策が政治を決める」と説明するロウィの政治過程論の紹介

タイトルは「政治が政策を決める」の間違いではありません。政治学では「政策が政治を決める」という命題があり、政治過程論の基本的な研究成果として参照されているのです。

アメリカの政治学者セオドア・ロウィ(1931~2017)が1964年に『ワールド・ポリティクス』に掲載した「アメリカのビジネス、公共政策、事例研究、そして政治理論(American Business, Public Policy, Case-Studies, and Political Theory)」と題する論文で、彼は政治過程論における政策の意義を主張しました。彼は政策を社会に与える影響で分類すると、それぞれの政策領域で異なった政治過程のパターンが出現する傾向があると指摘しました。

ロウィはあらゆる政策を、社会に与える影響の範囲や性質に応じて(1)分配政策、(2)再分配政策、(3)規制政策に分けました。

最初の分配政策(distributive policies)は、特定の少数に限定された個人や組織、企業を対象とする政策です。この用語はもともと19世紀の土地政策で使われていたものですが、現在では利益誘導(pork barrel)の手段と位置付けられます。分配政策は受益者を小さな単位ごとに分けた上で利益を分配することができるので、選択的、選別的な利益誘導を実施することが可能です(Lowi 1964: 690)。

これに対して再分配政策(redistributive policies)は大きな単位にまとめられた不特定の人々が幅広く影響を受ける政策です。例えば社会保障のように、ある特定の所得階層の人々が一律に影響を受けるような政策がこれに該当します(Ibid.: 691)。分配政策よりも、公共性が強い政策だといえるでしょう。

分配政策や再分配政策に該当しない第三の政策類型が規制政策(regulatory policies)です。最低賃金や労働条件をめぐる労働政策は、この規制政策の典型といえます。規制政策も裁量的な判断によって、影響を及ぼす対象者を細かく細分化することができる場合もありますが、分配政策ほど選別を徹底できない性質があるとロウィは述べています。なぜなら、規制政策の根拠となる法令は一般的に適用されるべき規則という形式で与えられるので、特定の個人や特定の企業だけを標的にしずらいためです(Ibid.: 690-1)。

ロウィは、これらの政策類型を踏まえると、それぞれの政策ごとに異なったパターンの政治過程にパターンが発生すると論じています。分配政策については、多数の利害関係者がそれぞれ独自に政治活動を展開する動機を持っているので、その政治過程は著しく多元的、個人的なものに分解される傾向があります。

しかし、再分配政策をめぐる政治過程では、エリートが中心的な役割を果たす傾向にあります。この政策類型に該当する政策として社会保障の事例を上げましたが、1930年代のアメリカで社会保障の充実を求める運動が起こった際にも、エリート中心の政治過程が見られました。1934年にフランクリン・ルーズベルト大統領の下で、経済保障委員会(Committee on Economic Security)が設置されると、経済団体、労働組合、高級官吏などのエリートが参加し、実質的な審議は委員会の内部で粛々と進められました。上下両院の公聴会に呼ばれた証人もわずかで、大きな混乱もなく立法の手続きが進められています(Ibid.: 703-4)。

規制政策をめぐる政治過程の重要な特徴は、その利害関係者が組織化される度合いというよりも、その政策の受益者と負担者が直接的に対決することだとロウィは論じています。最低賃金の規制のように、使用者と労働者の利害がはっきり対立する場面が現れるのは、規制政策の典型的な特徴です。

規制政策をめぐる政治過程では、あらゆる産業部門を横断するように形成される利害関係が浮き彫りになり、業界、分野ごとに組織化された団体が交渉を推進します。個人の政治活動を団体の内部に閉じ込めることによって、集団として行動する能力を高め、政治的交渉を有利に進めることが可能になるためです(Ibid.: 695-7)。

以上がロウィの政策類型論ですが、後にロウィは新たな類型を追加しています。それが構成政策(constituent policy)であり、新省庁を設置するといった政府の機能を強化する政策がこれに該当します(Lowi 1972)。このような政策領域では、政治過程で政党が重要な役割を果たすと考えられています。

このようなロウィの政策類型の議論を知っておくと、政治過程で争点となる政策の機能と構造を理解しておくことの意義が分かります。争点になっている政策の機能や構造を先立って理解しておくことができれば、どのような利害関係を持つ主体が交渉に参加してくるのか、どのような仕方で政治過程が形成されるのかを、ある程度予測することができると考えられます。

参考文献

Lowi, T. J. (1964). American Business, Public Policy, Case-Studies, and Political Theory. World Politics, 16(04), 677–715. doi:10.2307/2009452
Lowi, T. J. (1972). Four Systems of Policy, Politics, and Choice. Public Administration Review, 32(4), 298-310. doi:10.2307/974990

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