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拙さの象徴

年に何度か見る夢があり、時々うなされたように起き上がることがある。
夢の中で僕はまだステージに立っていて、ギターを鳴らしたりスタジオで練習したりしている。
ドラムのTがいつもの口調でこう言う。

「次の練習どうする?」

その言葉を聞き、考えているうちに夢が覚める。

僕がバンドで色んな場所のライブハウスをドサ回りしていたのはもう十数年以上も前の話だ。
ドラムのTはその後プロのドラマーとして活躍していたが、今は結婚をして一児の父となり、ドラムを引退している。
他のメンバーに関しては今何処で何をしているのかさえ分からない。

解散してから数年後の秋に、たった一度だけメンバーで集まって自宅スタジオで再結成をしたことがあった。
ライブに向けてとかそういうことではなく、ただ単純に音を出して遊ぼうぜという誘いに僕は乗った。
ドラムのTと二人きりだった予定がいざ訪れてみると元のメンバーがいて、数年ぶりに自分達の曲を弾いてみたら全然弾けなくて笑い転げたりもした。

時間はただただ楽しく過ぎて、途中からセッションで新曲まで作り始める勢いだった。

あー。こんな風にして楽しかったからずっと続けてたんだよな。

そんな風に思いながらアンプに圧を掛け続けていたら機材が壊れた。
久しぶりのセッションはそこで終了になったものの、楽しかった僕らは

「また合宿するかぁ!」

と大盛り上がりして解散した。
けど、それから二度とセッションすることはなかった。

その頃より前から僕はソロで音楽活動をしていて、何度かドラムのTに相談に乗ってもらったりしていた。
初めて僕の音源を聴いた彼は、こう一刀両断した。

「ちゃんとしろよ。甘いんだよ」

熱を込めきれなかった音を一瞬で見抜かれ、指摘された。
それから練習を重ねたりどうしたら奥行のある音が作れるのか色々と研究や工夫を重ねてみた。

その後にたった一度だけ再結成して伝えた音はしっかりと伝わり、そして音となって返って来た。
やめなくて良かったと、本気で感じていた。

今はどうだろう。僕は自分で音楽を辞めたとも言ってないし、辞めてないとも言ってはいない。
楽器自体は今でも弾いたりするので別にどちらでもいいような気もするけれど、創作としての活動はもう何年も行ってない。

音楽、やめようかな。
よし、やめた。

たったそれだけのことが言えなくて、今でもギターを鳴らしてみたりスティックを握ったりしている。

これから先、誰かと音楽をやることはもしかしたら無いかもしれない。昨年くらいまでは声を掛けてくれる人もあったけど、いよいよ再開しないんだなと思われたのか、そんな声も聞こえて来なくなった。

そのくせ、たまにバンド時代の夢を見てうなされるように起き上がることがまだあるのだ。

青春という物の言い方は好きではないけれど、若い頃に全力で心血を注いだものは何かと問われたら間違いなく音楽活動だった。
プロの世界に憧れたし、音だけではなく生きる上で必要たことを色んなミュージシャン達から教わった。

ある時、ライブハウスへ友人のライブを観に行った。
自分のバンドが解散してからもう何年も経った頃の話だ。
対バン相手は割と有名な関西のスカバンドで、昔一度だけ対バンしたことがあった。
久しぶりに観るそのスカバンドの演奏は文句なしでカッコ良かった。

良いライブだったなぁ。そう思いながら箱を出ようとすると、スカバンドのベースの人に肩を掴まれた。

「おい! 昔一緒にやったやんなぁ!? 覚えてるで! 元気しとったんかい!」
「え、覚えててくれたんすか?」
「当たり前やろ! あんなキャラの濃い人間忘れるかい!」

恥ずかしい話だが、僕は打ち上げや楽屋などでしょっちゅうフザケ倒した物真似や発言を繰り返していた。
そんなこともあったねぇ、なんて話をして別れたけれど、そんな風に覚えていてもらえたことが単純に嬉しかったりもした。
それも音楽が繋いだ縁のひとつだろうか。

僕は今のところ白でも黒でもない状態で音楽と向き合っている。
一応目だけは逸らしてはいないので、いつかそれなりの答えが出るのかなーなんて、気軽に考えてみることにした。

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