内部留保

企業の内部留保を投資に回す環境を整えるための税制とは。内部留保は「取り崩せる」のか?

今年末までに来年度の税制をどう変えるかを決める議論が始まった。今年の議論で、1つの焦点になろうとしているのが、企業の内部留保を投資に回す環境を整えるための税制であるという。

その背景には、最近20年間、日本の企業が内部留保を増やしてきたという経緯がある。日本の民間企業は内部留保を増やしてばかりで、従業員給与を増やさないとか、設備投資を増やさないとかという批判につながっている。

では、そもそも内部留保とは何か。内部留保とは、本来、貸借対照表(B/S)上にある企業の利益剰余金を指す(ただ、内部留保の増加を批判する側は、資本剰余金や各種引当金も内部留保に含め、広い範囲の定義を使うこともある)。

内部留保が増加した背景で、何が起きていたか。

確かに、これまで日本の企業がすべて最善の経営を続け、不必要な内部留保を一切ため込んでいなかった、というわけではない。しかし、内部留保は、そもそも企業の金庫の中にお金を寝かせているというものではない。貸借対照表に現れているように、内部留保に相当するお金は、資金調達手段の1つであり、何らかの形で企業が持つ資産として運用されている。だから、もし内部留保を取り崩すならば、持っている資産の一部を取り崩さなければならない。

内部留保が増えたとしても、それは様々な理由があって積み上げてきたものであって、容易に取り崩せるものではないのが実情だ。

内部留保は、現金や換金可能な有価証券として保持されているから取り崩せる、との見方がある。しかし、すぐに換金できる形で持つ有価証券と現金は、内部留保の増え方ほどには増えていない。つまり、内部留保は確かに増えたが、それを現金など容易に換金可能な金融資産として多くを保持していたわけではなかった。

むしろ、日本の企業全体で資金調達の変化を見ると、負債を減らし、投資その他の資産(投資有価証券・関連会社株式・出資金)を増やしている。投資その他の資産として代表的なものは、M&A等で取得した子会社・関連会社の株式である。

内部留保は増えているのに、設備投資が低迷していることに批判的な目を向けがちだが、企業は怠惰にそうしているわけではない。国内外の企業を支配下に置くべく子会社・関連会社の株式取得に、内部留保を(陰に陽に)用いているといえる。

その上、不適切に内部留保を持っていれば、株主から配当で支払うように要求されることになるだろう。それでもなお、これだけの内部留保を持つことになったということは、株主もそれなりに是認しているものだ。しかも、何らかの理由で、仮に内部留保を減らすべきとの経営判断がなされたとしたなら、貸借対照表上の関係から見て、資産を減らすか負債を減らさないと、内部留保を減らすことはできない。

例えば、投資有価証券として持っている株を売却するなどすれば、確かに、分配可能なお金が得られ、それがまさに「内部留保の取崩し」という現象にはなる。

しかし、本当にここで株を売却してよいかという判断は、株価や資本関係など、分配面以外の諸般の事情を考慮しなければならないから、単に内部留保が多いから取り崩せ、という話にはならない。

しかも、税制優遇を与えて、内部留保(が原資となった投資有価証券)を取り崩して、設備投資(工場建設や機械類の増設等)に回すのが、当該企業ひいては日本経済にとって、収益率をより高める方策なのか、慎重に検討する必要がある。

では、「投資」といっても、設備投資ではなく、まさに「国内外の企業を支配下に置くべく子会社・関連会社の株式取得」という意味での「投資」を促すということならどうか。確かに、それを促すことを意図したことを報じる記事がある。

「大企業が(内部留保を)ベンチャー企業などに投資した際の税制上の優遇措置」を法人税制の中で検討するという。

最近、ベンチャー企業の育成において、大企業のオープンイノベーションを踏まえた新しい流れであるコーポレート・ベンチャー・キャピタル(CVC)が増えている。その勢いを加速させて定着させるために、この税制措置が有効に講じられれば、わが国でのイノベーションの加速に役立てられる可能性がある。

ただ、繰り返しになるが、既存のストック(貸借対照表上)にある「内部留保」を上述のような「投資」に回すなら、既存の関連会社株式よりも(期待値の意味で)収益率が高いベンチャー支援ができる目算がないと、税制で支援しても「投資」促進は容易ではない。

あり得るとすれば、税制措置を何もしなければさらに増えることになるストックの内部留保、つまり来年度以降のフローの内部留保を、従来のような関連会社株式の取得に回すのではなく、新規のベンチャー支援に充てるように誘導する、という発想だろう。

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