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家族ホラー2作品

『ホール・イン・ザ・グラウンド』と『The boogeyman』を続けて観た素敵な土曜日。ららら。本理想ですね。

ホール・イン・ザ・グラウンド("The Hole in the Ground"、2019年、アイルランド・ベルギー・フィンランド合作)

本作は『Evil dead rise』のリー・クローニン監督作品。長編は本作と『EDR』だけらしいけど、陰鬱な空気がとてもうまい。光の使い方と影の使い方も好き。純ホラーとホラーコメディを使い分ける匙加減ができるなんてすごい。キャスティングも陰気で最高です。

あらすじ:息子クリス(ジェームス・クイン・マーキー)を連れて夫の元を去ったサラ(ショーナ・カースレイク)は、田舎の家に引っ越す。何とか新しい生活を始めるが、息子の様子に異変を感じる。正気を失ったとされる近所の女性ノレーン(カティ・オウティネン)が「あの子はあなたの息子じゃないわ!」と繰り返す。やがて怪異がじんわりとサラの日常を侵食し始める…。

感想:ポイント①
こういう、あまり話題になってなかったが観るとはっとさせられるホラー映画、好きですね。本作の設定の面白いところは、①『ババドック』のようなシングルマザーと息子の関係性を中心に、家族空間に潜む不安が、怪異によって最大限に引き出されていること、②アイルランド的妖怪の発想がベースにあることであろうか。

既に大変なシングルマザー(及び母親)をここまで虐待するような映画なんか嫌いよ!という意見が出て来るくらい、確かにこういう母親を追い詰めておいて彼女自身に問題解決をさせるホラー映画は多い。女性のおかれた状況に対する批判が全体的に高まっている中でそれが表象されるのがまた興味深い。「女性には自分で問題を解決する能力がある」と描くことが却って「この作品は女性に特定の役割を押し付けている」と取られてしまうというジレンマ。「自分はどう生きたいか」ということを自分で選んだ気持ちでいる人と、「選ばされたんだ」という形で現状に納得してない人との間には亀裂があるのだ。ツイッターでの罵倒の嵐を見ていれば分かることだが。

私には、米映画『ハスラーズ』には、「選択的に状況を利用しているが全体としては選ばされた」という物語を生きる、サバイバーとしての開き直り欲が読める。

感想(YAYAネタバレあり)ポイント②
アイルランド人の撮ったホラー映画ってあんまり目にすることが無いんだけど、邦題が酷い『ドント・イット』(男性シャーマンがうさん臭くて◎)、イギリス映画だが監督がアイルランド人の『CITADEL』だけは観たことがある。前者は意外な展開で面白かったような、でも最後の方眠くなって寝ちゃったような…しかし一風変わっていた。後者の方が『ホール・イン・ザ・グラウンド』に似ているかも。そこに、澤村伊智さんや朱雀門出さんの小説に出てくるような、妖怪のテイストがあるの。妖怪というのは、妖怪だけに分かるルールに基づいて生きており、特に悪意とか害意はないのに人間に害をなす。シンプルに非常に困ってしまう存在である。ある程度の知的思考も可能だ。だからこそ、怪談によって人間はコミュニティに警告を発し、妖怪を撃退する方法を教え伝えようとしてきたのであろう。なので、本作を、そうした妖怪に関する警告と撃退体験記の妖怪映画なのだと思って観ると、また別の面白さがある。アイルランドのホラーって、アメリカのと全然違うんだよねって。

そして、そんな背景を持つリー・クローニンが『Evil dead rise』をあの形に仕上げたということは、新しいホラー悪役クイーンであるエリーには、妖怪のニュアンスが漂っており、彼女のキャラをよりスムーズに受け入れたということなのかもしれない。

妖怪というのは大体どこかユーモラスなのである。

『The boogeyman』(2023年、アメリカ)

https://www.youtube.com/watch?v=cFqCmIU0-_M&t=6s

本作は、スティーブン・キング原作だけど、原作の中身知らなくても大丈夫、家族のもののあはれ、近親者の喪失というテーマを扱っている一方でめちゃくちゃ怖くて口が乾いた、これも妖怪映画的な作品ね。『Stranger things』のダファー兄弟の製作だそうで。

あらすじ:
母親が事故で亡くなった失意の中にある、精神科医のウィル(クリス・メッシーナ。気がつかなかったが『パーフェクトケア』の悪徳弁護士役だった!)、長女セイディ(ソフィー・サッチャー)、二女ソーヤー(ヴィヴィアン・ライラ・ブレア)一家に、子供を狙って殺す「ブギーマン」が忍び寄る…。

感想:
私の好きなタイプの映画。モンスターに対峙し、それをやっつけることが、過去の中に生きることを止めて前へ進む禊として機能するという、性格のいいホラー。大きな悲惨の後にはある意味でそれをかく乱するようなもっと理解不能なことが起こることも、もしかしたら救済へのドアなのかも…まあでも本作観たら半開きのドアはことごとく閉じたくなるでしょうが…。

母親不在の家族がいかに難しいのか、ということを描くことも、上記の「女性に役割を押し付けやがって」派から言えば非難の対象となり得るのだろうが、逆説的に女性の方がそういう状況への対応が上手いのではないかとも暗示している。怪異なんかなくても乗り越えてしまうかもしれない。『レリック 遺物』における父親不在、『ダーク・アンド・ウィケッド』における「父親が生きながらえる程崩壊していく家族」の表象、そもそも夫の元を離れた理由が夫の暴力だったことを息子に分かって欲しいがその方法に悩むシングルマザー(『ホール・イン・ザ・グラウンド』上記)等、男性の方に問題が多いということは、女性が自分の力で困難を克服するというストーリーによって指摘されているのである。

一方で、必ずしも男性がそれを求められているわけではないのだが、男性が「男性というのは体を張って家族のために犠牲になるべきだ」という気持ちの方に振れていくと、『NY心霊捜査官』や『エクソシスト』『エクソシスト3』『ムナフィク2』等の宗教保守ホラーに辿り着くしかない。夫婦の愛で悪魔を祓うとする『死霊館』シリーズは、女性をどう描いているかという意味ではリアルなのかもしれない。

女性を母親として表象するという意味で、ジェームズ・キャメロン映画の女性像は今のところ及第点の妥協点なのではないかとも思う。女性しか母親を描いてはいけないというのでもないし。

尚、『The boogeyman』では怪異を祓ったあと何とか3人で生きていこうとする…ということは母親は不要だと言っているのだろうか?むろん冗談だが、その方がある意味では女性の解放思想には近いのかもしれない。

二つの作品を観ていて、家族ホラーの中の母親というのは、どう描いてもああいう形に収れんしていく。そして非難を免れ得ない。非難というのはもう聞かなくてもいいのかもしれないが、そうもいくまい。ならば、もはや最初から最後まで母親不在のゲイカップル+養子の一家を描くことの方が無難なのでは。Mナイトシャマランは、まさかそれを考えてあの映画(未見なのが非常に悔しい)を作ったのではあるまいな…?

本作はインド公開されたにも関わらず、ホラー作品の常で、深夜枠等にしかやってくれず鑑賞できなかった。1日に8回もやった『Evil dead rise』がいかに例外的だったかが分かるね。

今インドではハリウッドの伊藤順二、アリ・アスターさんの『Beau is afraid』が上映されているが、案の定観られるかどうかは不明。日本で日本語字幕で観られる日を待つ。

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