📗なぜ君は友達を殺そうとしたんだ?
塾では生徒という「なま物」を扱っているので、経験値がゼロの出来事にしばしば出会う。
「今日は、なんかノリがいいな。」という日が、私といえども、時々ある。その日の理科の授業で、生物の進化について説明していたとき、少し脱線が過ぎて、「バカっぱなし」になってしまった。
みんなバカ笑いで、「まぁ収まるまで待とう」などと考えていたとき、急に「どすっ!」という音とともに、Kさんという女の子がイスから転げ落ちた。
息が荒く、かなり苦しそうな表情だ。「・・・!!!!!」
正直かなりアタフタしてしまった。生徒たちも、Kさんの周りを取り囲むように集まってきた。やっと、救急車を呼ぶことに気付き、職員室へ行こうとしたら、Kさんの女友達二人が駆け寄ってきた。
その一人がどこから持ってきたのか、ビニール袋でKさんの口を覆ったのだ。私はとっさに「殺そうとしている!」と、思った。やめさせようとビニール袋を取り上げようとしたら、もう一人の女の子が私を手で制した。
「先生、任せといて!」「大丈夫か?おーぃ、戻って来てー!聞こえるかー!」と、ほっぺたを叩き始めた。
彼女らは何をしているんだ?宗教の儀式のような異様な光景だ。一人は、ほっぺたを叩いている、もう一人はあろうことか、ビニール袋で口を覆い、殺そうとしている。
私は気が気でなく、彼女らのやっていることをやめさせようかと、何度もためらってウロウロしているうちに、Kさんは少しずつ落ち着いてきた。呼吸も通常の速さに戻り、「恥ずかしげではあるが」、穏やかな表情になった。いったい、何が起こったのだろう?祈りの儀式が効いたのだろうか?
私にはまったく知識がなかったのだが、「過換気症候群(過呼吸症候群)」というKさんの持病らしい。精神的なストレスが原因の過呼吸が慢性化した病気だと、二人の女友達から聞いた。
人間、いや私は、経験値ゼロの出来事の前では、何の役にも立たない。
女友達の二人は、何度かKさんの発作に立ち会ったことがあったのだ。袋で口をふさいだり、大きな声でこちらの世界に呼び戻そうとしたりすると、症状が軽くなることを知っていたのだ。
Kさんの発作は、塾の勉強のストレスが原因なのか、笑い過ぎて過呼吸になったのかは、今となっては分からないが、バッド・エンドにならなくて、本当に良かった。(take_futa)
※ 「過換気症候群」は死に至る病ではないので、心配し過ぎることはないそうだ。ただ、口を袋で覆うのは窒息の可能性があるため、今の医学では、あまりお勧めではないらしい。
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