もっと早く知りたかった
ずっと知らなかった。
もっと早く知っていれば、
君を傷つけることもなかった。
もっと早く知っていれば、
俺たちの未来は、変わっていたのかもしれないね。
いきなりですけど、
鼻毛って何て読みます?
はなげ。
はなげやん。
絶対ハナゲ。
そう思うやん?
でも本当に正しい読み方、医学的な正式名称は
「びもう」なんやで!
び、びもうッ!
俺はまったく知らなかったぜ。
もしはなげがびもうだったのなら!
ひらがなばっかりで読みにくいな!
ところで俺は、鼻毛を出ている人を見ると、それを教えてあげないと気がすまない。
なぜならそのままにしておいたら、ずっと周りの人に「あの人鼻毛出てる」って思われ続けるからだ。
だから俺が丁寧に、被害を最小限にするために、そしてなるべくダメージが少ないように、あえて憎まれ役を買って出て、教えて差し上げているのだ。
「あの鼻に、ちょっと毛が、えっと、ちょっとだけ、ついてます。っていうかちょっと出てますよ?ほんのちょっとだけね。あぁ遠くから見たらわからないから、全然大丈夫ですよハハハ」
ハァハァハァ
デリケートな内容なので、伝えるこちらも細心の注意を払わねばならない。
ちなみに1年中、いついかなる時も、鼻毛が出ている後輩に伝えた時は、
「え!右っすか?左っすか!?」
と聞いてくる剛の者だった。
そこで俺は言ったんだ。
両方や!ってね。
話を戻そう。
もしはなげじゃなく、びもうと読むのなら、
「あの、びもう出てますよ?」
って、とてもさわやかに伝えられたのに!
いや、違うな。
「びもう、そよいでいますよ?風が、吹いてきましたね」
この方が、さわやかかもしれない。
待てよ?
いっそ、びもうの発音を変えてみてはどうだろうか?
ヴィモウ
ヴィモフ
フは小さい「フ」でお願いします。
言ったか言ってないぐらいの感じで「フ」をつければ、それはもう「ヴィモ」「ビモ」「ビム」
もはやハナゲの原型をとどめていないので、言われた方もすんなりと受け入れることができるだろう。
ニンジン嫌いのお子さんも、キャロットケーキなら喜んで食べるのと同じことだ。
もしあの時、君に「ヴィンテージモウフ出てるよ」って伝えていたら、俺たちの未来は変わっていたのかな?
俺がハナゲ出てるよって伝えたばっかりに、君はその場でハナゲを携帯ハサミで切って、鼻の粘膜を傷つけてしまった。
だから俺は君の誕生日に、最新の鼻毛カッターをプレゼントした。
だがその鼻毛カッターは、君には合わなかった。
君は少し照れながら、そしてすまなさそうに言った。
「ごめんね…これ私には合わないから、たかやんさんが使って?」
実は俺、その高級鼻毛カッターが欲しかったから「プレゼントを返品するんかい!」ってつっこみながらも、嬉しかったんだよね。
その後、数回使用した後、最新の鼻毛カッターをもってしても、俺は鼻の粘膜を傷つけてしまい、鼻の穴が腫れた。めっちゃ腫れた。
洗顔をする度に痛くて泣いた。
深夜のこむら返りで、また泣いた。
結局3日ほど、俺はマスクを絶対に外せなかった。鼻がアンパンマンだったからだ。
その数ヶ月後、俺たちは別々の人生を歩むことになった。
今気付いた。
もっと早く知りたかったよ。
鼻毛関係ないやん。
そうさ、何も関係ない。
呼び方がはなげだろうが、びもうだろうが、何も関係ない。
あるのは
壊れて動かなくなった
君と俺の、鼻毛カッターだけさ。
ここだけの話ですが、現在タイムマシンを作っているので、その資金に使わせて頂きますね。サポートして頂けたら過去のあなたに大事な何かをお伝えしてくることをお約束します。私はとりあえず私が14歳の時の「ママチャリで崖から田んぼにダイブして顔面めり込み事件」を阻止したいと思います。