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P3 窓外のハイエナ

がやがやと甲高い女性の話声が聞こえる。

どうやらそれは薄いカーテンと窓で仕切られた家の外からから聞こえてくるようだ。


家の外で誰かが会話をしている、それ自体はなんら可笑しいことではない。

けれどその会話は私にとって十分に警戒心を刺激させるものがあった。

問題は会話の内容ではない、”聞こえてくる場所”だ。


その話し声は田舎町のごくありふれた風景を彩るサウンドというよりは、
他人の秘密を聞いているような密やかな雰囲気があった。

そう、彼女らは”すぐそこ”にいるのだ。


「こんな近くまできても大丈夫なの?」


声色から一人は隣人のおばさんであることは理解できた。

その事から私は直感的に彼女達の目的を察した。

彼女達は匂いに釣られてやってきたのだ。

類い稀な人々がもつ、陰鬱の”におい”を


「聞こえていてもどうせ出てこないわよ…」


その予測は虚しくも当たっていた。

私は天敵から身を守る動物のように、出来るだけ自分の気配を押し殺していたのだ。

手足を止め、視線の動きを止め、呼吸すらも止めようとした。

なぜそうする必要があるのか、それは蓄積された経験に基づいたうえでの結論だった。

この場で彼女達と接触したところで、良い未来が訪れることがないことは分かっていた。


「どうせいるんでしょ?」

その声は私に向けられたのか、会話相手に向けられたのか、それとも彼女自身に向けられたか理解できずにいた。


その後も一言、二言、言葉が発せられた後、少しの間沈黙が訪れた。

話す言葉が見つからないのか、私からの反応がないからなのか、それともその異様な空気に居心地が悪くなったのか

なんにせよ、私にとってその異様な沈黙は警戒心をさらに刺激させた。

今にも彼女達が窓を覗き込み、そっと我が家に侵入してくるかもしれないからだ。


腹を空かせたハイエナの群が獲物にそっと近づいていくように…







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