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#3-2 顧客理解・ユーザ理解にサヨナラを(UX戦略の教科書)

昨今では、顧客理解 / ユーザ理解に取り組む必要性が様々な所で主張されており、一般常識になりつつある。そして「顧客のことを深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説が広く信じられており、マーケティング戦略を検討したり顧客体験をデザインするうえでの前提条件となっている。しかし、このような言説は本当に正しいのだろうか。

結論からいえば「顧客を深く理解すれば、良質な仮説を立案できる、という言説は間違っている」というのが本記事の主張である。この間違った言説が広く信じられてしまっていることが、ミクロな視点では「成果に繋がる施策仮説を立案できない」というビジネスパーソンの悩みの解消を阻んでおり、マクロな視点では企業の成長や競争力向上を阻む要因となっているのだ。

そこで本記事では、顧客理解の必要性・重要性を真っ向から否定することを試みる。「顧客を理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説が間違っていると考える理由を説明したうえで、仮説立案・UXデザインの方法論をアップデートするための指針を明らかにすることを目指す。

「顧客理解 / ユーザ理解の神話」を支えているロジック

まずは「顧客を深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説が、どのようなロジックに基づいて信じられているかを明らかにすることから始めたい。

マーケティングやUXデザインの教科書では、顧客理解から仮説の立案に至るプロセスとして、以下のような枠組みが提示されることが多い。(図表-1)

(図表-1)教科書的な思考プロセス(顧客理解→仮説立案)

顧客理解から仮説の立案に至る思考プロセスについて簡単に説明する。

STEP 1. ターゲット顧客の特定
具体的には、どのようなセグメントにおける、どのようなペルソナを有する顧客をターゲットとするのかを明確にする。

STEP 2.  顧客理解を深めることを通じたインサイトの発見
「なぜ?」を繰り返すことによって顧客の発言・行動の背景心理を探求し、表層的な心理状態に留まらず深層心理・潜在ニーズを把握しようと試みる。そうすることで「顧客が本当に求めているもの」を特定する。

STEP 3.  顧客インサイトを踏まえた仮説の立案
「顧客が本当に求めているもの」を提供するためにはどのような施策が必要であるかを考えることで、打ち手の仮説を立案する。

以上のような3つのSTEPによって構成される方法論が「顧客を深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説の信憑性を支えている。顧客理解の重要性はこのようなロジックに基づいて繰り返し主張されており、多くの人々に信じられている状況にある。


また「顧客を理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説の信憑性は教科書的な方法論・ロジックのみではなく、具体的な成功事例によっても支えられている。顧客理解の重要性を示す象徴的な事例としては、USJによるハロウィーン・ホラーナイトの取り組みが挙げられる。こちらの事例についても簡単に説明しておこう。

森岡 毅による『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方(角川文庫)』によると、USJの売上を大きく増加させることに成功したハロウィーン・ホラーナイトの施策アイデアは、深い顧客理解から生まれたものであるとされている。ハロウィーン・ホラーナイトとは、USJの特定エリアをゾンビが徘徊する空間に仕立てた屋外型アトラクションである。顧客は屋外の空間にて四方八方から迫りくるゾンビから逃げ惑う「リアル・バイオハザード」のような体験をすることができるのだ。

そして森岡によれば、この施策アイデアは以下のような顧客理解・洞察から発想されたものとされている。

  • 秋シーズンは、若い独身女性のレジャー需要が高まる

  • 日本人女性はストレスを抱えているが、うまく解消できずに困っている。本当は「素の自分をさらけ出して弾けたい」と思っている

つまり森岡はターゲットとして定めた「若い独身女性」の顧客理解を深めることを通じて、彼女らが「本当は素の自分をさらけ出したい」という潜在的なニーズを抱えていることを発見し、その洞察から「女性が安心して絶叫できる空間」を作るべきであると考え、ハロウィーン・ホラーナイトの施策を思いついたと主張しているのだ。そして、このような成功事例に基づいて顧客理解を深めることの重要性を説いているのである。

ここで提示されている「顧客理解から仮説立案に至るプロセス」を視覚的に表現すると、図表-2のようになる。

(図表-2)顧客理解の重要性を示す象徴的な事例

この成功事例は、顧客理解の重要性を象徴するものとしてビジネスシーンで広く普及している。かくいう私も、クライアントから「USJの事例みたいな顧客理解がしたいんだよね」という要望をいただいた経験が何度かある。「ユーザ調査を通じて顧客理解を深め、我々が気づいていない顧客ニーズを明らかにして欲しい」という要望をクライアントからもらうケースは少なくない。このように、ハロウィーン・ホラーナイトのような象徴的な事例があることで、顧客理解の神話は信憑性を獲得しているのだ。

以上が「顧客を理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説・神話の信憑性を支えているロジックと象徴的な事例についての説明である。

しかし、ここで一度冷静になって考えて欲しい。
本当に顧客のことを深く理解すれば、優れた仮説を立案できるだろうか。
多くのビジネスパーソンが良質な仮説を立案できず困っているのは、本当に顧客理解が不足していることが原因なのだろうか。


顧客理解 / ユーザ理解のウソ と 不都合な真実

結論からいえば、ここまで説明してきた顧客理解の神話は間違っており、「顧客理解を深めても、優れた仮説を立案することは難しい」というのが本書の主張である。なぜなら、顧客理解のインプットから仮説立案に至るためには、大きく発想を飛躍させることが必要になるからだ。

先ほどのUSJの事例に基づいて説明しよう。ここで、いったん頭をリセットして考えて欲しい。下の図表-3のように、左側ボックスの「顧客理解のインプット」はそのままに、右側ボックスの「仮説立案のアウトプット」をブランク(空白)にしたとする。あなたは顧客理解のインプットから、優れた施策仮説を立案できるだろうか?

(図表-3)本当に、顧客理解から優れた仮説を立案できるか?

ほとんどの人は優れた仮説を立案することはできない。実際には、顧客理解のインプットからハロウィーン・ホラーナイトのような施策仮説を立案するためには、大きな発想の飛躍が求められる。このため、ほとんどのビジネスパーソンは顧客理解と仮説立案の間にあるロジック飛躍のカベを超えることはできないのだ。嘘だと思うなら、同じ顧客理解のインプットから、ディズニーランドに必要な新規アトラクションや新サービスの仮説を考えてみて欲しい。どれだけ顧客理解を深めたところで、そこから優れたアイデアを立案するのは難しいことを実感してもらえるのではないかと思う。

顧客理解と仮説立案の間には高いカベがある。どれだけ顧客を深く理解しても、優れた仮説を立案できるようになることは難しい。これが「顧客理解の神話がウソである」と本書が主張する理由である。


では、新たな顧客体験 / コンセプトを立案するのが得意な人は、本当の所はどのように仮説を考えていることが多いのだろうか。

実は、多くのデザイナーは顧客理解のインプットから新たな施策アイデアを立案・着想している訳ではない。「テーマパーク空間全体をお化け屋敷化すると良いのでは」や「リアル・バイオハザードのようなアトラクションがウケるのでは」などのような仮説は、海外の先進事例や別ジャンルの創造物に触れることなどを通じて、本当は顧客理解のプロセスとは関係ないところで着想されているケースが多いのだ。

では顧客理解のプロセスはどこで登場するのかというと、自らが思いついた仮説が本当に顧客に受容されるかを検証する場面で用いられる。つまり、リアル・バイオハザードのような施策仮説が顧客に受け入れられるかを検証したり、そういった施策を実行するべきであることを周囲に説得するために、顧客理解のインプットが後付けで用いられるに過ぎないということだ。

多くの人は「顧客理解のインプットから、施策仮説が立案・着想される」という因果関係であると信じている。「若い女性は素の自分をさらけ出したいという潜在ニーズを有している」という顧客理解のインプットから、施策のアイデアが着想されると信じている。しかし、実際は「施策仮説は顧客理解と関係ないところで先に思いついており、その仮説の有効性を検証したり、取り組む必要性を説得するために顧客理解のインプットが使用される」というケースが多い。一般的に信じられている思考プロセスとは、順序が異なるのである。(図表-4)

(図表-4)実際の思考プロセス(仮説立案→顧客理解)

言い換えると、顧客理解は「仮説立案シーン」で使われるものではなく、「仮説検証シーン」や「プレゼン資料の作成シーン」で使用されるプロセスということだ。このため、顧客理解を深めれば思いついた仮説の検証能力(セルフレビュー力)を高めることはできるかもしれないが、仮説そのものを立案・着想する能力を高めることには繋がらないのである。

しかし、現状ではこのような事実は隠匿されているため、ビジネスパーソンは仮説を立案するために一生懸命に顧客理解を深めようとしている。人間の心理・内面を探求して「顧客が本当に求めるもの」を探ろうとしている。しかし、実際には顧客の心の中に答えは眠っていないため、どれだけ努力しても優れた仮説を立案することは難しい。その結果、多くのビジネスパーソンは「仮説の立案能力を高められない」という課題意識を抱え続けることになるのだ。

「顧客を深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という間違った言説が広く信じられてしまっていることが、ミクロな視点では「優れた仮説を立案できない」というビジネスパーソンの悩み解消を阻んでおり、マクロな視点では企業の成長・競争力向上を阻む要因となっている。もっと言えば、この社会から創造性を奪う原因の1つになっているとさえ考える。


「顧客理解の神話」が信じられてしまうメカニズム

「顧客を深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という言説は、なぜ間違っているにも関わらずこれほど普及してしまったのだろうか。次は、顧客理解の神話が広く信じられてしまったメカニズムについて考えていきたい。

様々な要因・メカニズムが挙げられるが、ここではもっとも重要な理由のみを説明する。それは「プレゼンテーションで提示されるロジックを多くの人が信じてしまう」という理由である。

前項でも述べたように、仮説立案が得意な人は「施策仮説の立案→顧客理解による検証」という順序で思考しているケースが多い。ただし、思いついた施策仮説を実行する意義・必要性を他メンバーに対してプレゼンする際は、必ず「顧客理解→施策仮説」という順序で説明する。つまり、思いついた施策仮説が、あたかも顧客理解のインプットから論理的に導かれたかのように説明するということだ。(図表-5)

(図表-5)思考プロセス と プレゼン時の説明プロセス

なぜこのような手順でプレゼンするのかというと、最初に施策仮説から説明すると、自らの提言がただの思いつきのように捉えられてしまう恐れがあるためである。「リアル・バイオハザードのようなアトラクションを作ろう」という施策の中身から説明すると、ジャストアイデアのように軽く扱われてしまう可能性がある。それを避けるために、プレゼンの際には最初にターゲット顧客をどのように定めるべきかを説明し、ターゲット顧客の心理・潜在ニーズを解説したうえで、顧客が本当に求めているものを満たすために必要なソリューションとして自らが考えた施策仮説を紹介する…という説明順序が採用されることになる。自らの仮説を実行するべき必然性を高い説得力で伝えるために、ロジックの後付けを行うということだ。

しかし、ここで問題が発生する。
プレゼンテーションを聴く側の人間が、報告会でのプレゼンを聞いたり書籍を購読した結果、「仮説の立案能力を高めるためには、顧客理解が重要だ」と勘違いしてしまうのだ。プレゼンテーションの際に提示されるロジックは後付けで生まれた虚構の物語なのだが、そのことが十分に理解されないために顧客理解の重要性が過大評価されてしまうのである。これが、顧客理解の神話が多くの人に信じられてしまう現象が発生するメカニズムである。


「顧客理解」から「顧客体験(UX)の理解」へ

ここまで顧客理解と仮説立案の間には大きなカベがあり、「どれだけ顧客のことを深く理解しても、優れた仮説を立案できるようにはならない」ことを説明してきた。

では、我々はどうすれば良いのだろうか。
どのような考え方・方法論を採用すれば、ビジネスパーソンは優れた仮説を立案できるようになるのだろうか。ここからは、これまでの仮説立案 / デザインの方法論をどのように進化させるべきかについて考えていきたい。

新たな方法論を提示するうえで最初に説明しなくてはならないのは、良質な施策仮説を立案するために我々が理解するべきは「顧客そのもの」ではなく「顧客体験(UX)」であるということだ。

まずは「顧客理解」と「顧客体験の理解」の違いについて説明しよう。
顧客理解というと、ほとんどの人は「顧客の行動・発言の背景にある心理を探求する行為」のことを想起する。ターゲットとする顧客がどのような潜在ニーズ・深層心理を有しており、顧客が本当に求めているものは何なのかを明らかにしようとする行為を想起する傾向にある。

一方で顧客体験(UX)の理解とは、「顧客から見える認知世界・心象風景を把握する行為」のことを指す。つまり、顧客の心理・内面を理解しようとするのではなく、顧客が対象物(プロダクト・サービス)に触れたり、使用したりしたときに、外的な世界をどのように認知・体験するかを把握しようとする行為を指すということだ。

両者の違いをまとめると、人間の内面を探求するのが「顧客理解」であり、人間から見える外側の世界を把握するのが「顧客体験の理解」となる。人間の内側に着目するか、外側に着目するかの違いとして捉えると、両者の違いを捉えやすいかもしれない。視覚的に表現すると、図表-6のようになる。

(図表-6)「顧客理解」と「顧客体験理解」の違い

概念的な説明だけでは分かりづらいので、顧客理解と顧客体験理解の違いについて具体例を用いて説明しよう。例えば、あなたが酒類メーカーに勤めており、「新しいプレミアム缶ビールの商品企画を立案せよ」というミッションを与えられたとする。

このとき顧客理解とは、プレミアム缶ビールがターゲットとする顧客の心理的な特性を、例えば下記のようなかたちで把握することを指す。このようなペルソナ設定に基づいて、新たな商品企画を検討することになる。

それに対して顧客体験の理解とは、ターゲット顧客が対象物(=プレミアム缶ビール)を使用したときに生じる体験を、例えば下記のようなかたちで把握することを指す。

このように、顧客が外的な世界にある対象物(プロダクト・サービス)に触れたり使ったりする際に、それをどのように認知・体験するのかを把握することが顧客体験の理解となる。

以上が「顧客理解」と「顧客体験の理解」の相違点である。これらは混同されていることが多いが、顧客の心理・内面を探求しようとする行為と、顧客が対象物に触れたり使ったりする際に生じる体験を把握しようとする行為は似て非なるものであり、明確に区別して捉えることが重要である。


両者の違いが明確になったところで、次は仮説の立案プロセスとの繋がりについて説明したい。前項でも説明した通り、顧客理解と仮説立案の間には高い壁があるため、どれだけ顧客を深く理解しても優れた仮説を立案することは難しい。先ほどのプレミアム缶ビールの事例を振り返っても、顧客理解のインプットから新たな商品企画を着想することは難しいのではないだろうか。

一方で、顧客体験理解のインプットに着目してほしい。顧客が対象物(プロダクト・サービス)を使用する際における体験を把握すれば、顧客が抱えているペインポイント(=顧客が不自由や貧しさを感じる瞬間)を明らかにすることができる。先ほどの例ならば「350mlの缶ビールを飲み切ると、酔っぱらったり眠くなってしまい、余暇活動を十分に楽しめなくなる」や「自分だけ高級ビールを飲んでいると配偶者から白い目で見られる」といった不快な情動を感じる瞬間が存在していることが分かる。このようなインプットが得られれば、例えば「炭酸水で割ることで、アルコール度数を自在に調整できるビール」や「ジュースと混ぜて苦味をなくすことで配偶者と一緒に楽しめるビール」といった商品企画を着想できるのではないだろうか。

なぜ顧客体験(ペインポイント)を理解すれば施策仮説を立案できるのかというと、それらの間に論理的な繋がりが存在するからだ。「350mlの缶ビールを飲み切ると、酔っぱらって余暇活動を十分に楽しめなくなる」という顧客が抱えるペインポイントと「炭酸水で割る事でアルコール度数を自在に調整できるビール」という施策アイデアの間には『Aを解決するためにBする』という論理的な繋がりが存在する。このため、顧客が抱えるペインポイントを解決するためのソリューションを論理的に考えるプロセスを通じて、施策仮説を導出することが可能になる。

一方で、顧客理解と施策仮説の間には論理的な繋がりが存在しない。このため、ターゲット顧客の深層心理・潜在ニーズ(自分にご褒美をあげるときは出し惜しみしない性格・価値観であるなど)が分かったとして、そこから新たな商品コンセプトを論理的な思考に基づいて導き出すことは難しい。顧客理解のインプットから優れた施策仮説を立案するためには、論理的なつながりを超えて、大きく発想を飛躍させることがどうしても必要になってしまうのである。(図表-7)

(図表-7)概念間の関係性まとめ

もしかすると、顧客理解の神話に囚われていない人にとっては当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれない。「そんなの当然じゃないか」と感じる人もいると思う。

しかし、実際のマーケティングやUXデザインの現場では、ターゲット顧客のペルソナを設定したり、顧客の心理・内面を探求して本当に求めていることを明らかにする作業に多くの工数が割かれている。ターゲット顧客はどのようなセグメントの、どのような潜在ニーズを有する人なのかを明らかにすることに多くのリソースが割かれている。そして、顧客理解のインプットから施策仮説を(無理やり)立案しようしているケースが散見されるのだ。これでは良質な仮説を立案することは難しい。

我々は顧客理解 / ユーザ理解にサヨナラする必要がある。
そして「顧客そのもの」ではなく「顧客体験(ペインポイント)」を理解するプロセスを起点とした方法論を、代替案として確立する必要があるのだ。


まとめと次回予告

本記事では「顧客のことを深く理解すれば、良質な仮説を立案できる」という広く信じられている言説が間違っていることを示したうえで、我々が理解するべきは「顧客そのもの」ではなく「顧客体験」であることを主張した。そして、ビジネスパーソンが良質な仮説を立案できるようにするためには、顧客体験(ペインポイント)の理解を起点とした新たな方法論を確立する必要があることを示した。

ただし、顧客体験(ペインポイント)さえ理解できれば、優れた施策仮説を次々と立案できるようになるのかといえば、必ずしもそうではない。ウェブサイトのユーザビリティ上の課題であれば、ペインポイントを把握できれば改善案を導出するのは比較的容易であるが、新たな顧客体験・サービスコンセプトをペインポイントからダイレクトに発想することは難しい。例えば、「施設内を回遊すると徐々に疲労がたまり、歩くのがしんどくなる」というペインポイントがあることが分かったとしても、そこからハロウィーン・ホラーナイトのような施策仮説を立案することは難しい。「顧客体験の理解」と「施策仮説の立案」の間には、まだまだ高い壁がある。

この壁をどうすれば超えられるかを明らかにすることが次なる論点となる。
結論から言ってしまうと、「顧客体験の理解」と「施策仮説の立案」の間にある壁を超えるためには『ペインポイントのゲインポイント化』という思考プロセス・方法論を採用する必要がある。

そこで次節では『ペインポイントのゲインポイント化』について解説する。この思考プロセスを解説することを通じて、新たな仮説立案/デザイン方法論の全体像を提示することを目指す。

隔週くらいの頻度で投稿する予定である。更新情報はTwitter(@takashikoshiro)でお知らせするので、必要に応じてフォローしてもらえると嬉しい。

また、beBitでは本記事で紹介したような知見をベースにした「UX人材研修サービス」も提供している。もしご興味あれば、ディスカッションだけでもお気軽に声を掛けていただけると有難い。


補足コラム

上記の文章を読んで「顧客理解」と「顧客体験理解」の違いが分かるようで分からない、という方もいるのではないかと思う。ここからは、そういったモヤモヤを抱えている方に向けた補足の文章となる。

上のような説明で「顧客理解」と「顧客体験理解」の違いがよく分からないという方は、図表-8の左側のようなフレームワークに基づいてUX概念を捉えていることが多い。すなわち人間と対象物(プロダクト・サービス)を二項対立的なものとして捉えて、UXを「人間・ユーザの内部に発生するもの」として捉えているということだ。このように世界を捉えていると、確かに顧客理解と顧客体験理解の相違点は理解しにくい。

一方で、図表-8の右側のようなフレームワークに基づいてUX概念を捉えると、両者の違いを理解しやすくなる。すなわち、UXを「人間・ユーザと対象物(プロダクト・サービス)の境目・結節点に発生するもの」として捉えるということだ。(やや難解な言い回しをすると「現象学的にUXを捉える」ということ)

(図表-8)UX概念の捉え方をアップデートする

UX概念をこのように捉えると、顧客理解とは「顧客が対象物 (プロダクト・サービス)を使用する際の心象風景や意味合いを明らかにする行為」であり、「顧客の内面に眠る潜在ニーズを探求する行為」ではないことを理解しやすくなる。

究極的には、UXの定義・捉え方をアップデートすることが、仮説立案スキルを高めるための近道であると考えている。UXの定義・捉え方については『「闇堕ち」してしまったUX概念を再定義する』という記事で詳しく書いたので、必要に応じて参照してもらえると嬉しい。

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