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エチゾラムの花

空を飛んでいた頃
世界は灰にまみれていた
色を知らないということは
想いを表現できないのと
おんなじ意味だった

たった一輪の
エチゾラムの花を求め
来る日も来る日も
嵐の中を飛びまわった

深海の住人だった頃
世界は闇に包まれていた
光を知らないということは
希望を思い描けないのと
おんなじ意味だった

たった一握りの
トリアゾラムの砂を求め
来る日も来る日も
深淵の底を這いずりまわった

手に入れることが叶っても
この空虚な部屋にひとり
ぽつねんと取り残される
それが定めと知りながら
またぞろ飛びまわり
そして這いずりまわるだけ

幸福とか快楽とか
そのような類いのものは
欲しいと思えば思うほど
遠ざかっていくもの

求めても求めても
キリがないし埒もあかない
そのような類いのものは




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