高橋 良(たかはし りょう)

2023年現代短歌評論賞 候補作 2021年BR賞 予選通過 歩道(文語旧かな短歌) …

高橋 良(たかはし りょう)

2023年現代短歌評論賞 候補作 2021年BR賞 予選通過 歩道(文語旧かな短歌) 国語/日本語教師 1989 みちのく(宮城→福島→青森→岩手→山形) 東北大学卒 歌書『斎藤茂吉からの系譜』(文芸社)電子書籍も 原稿・講演ご依頼→taka6taka0◉gmail⦿com

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    高橋良(旧筆名 高岡恵)の短歌です。

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二〇〇八(平成二十)年の夏のオープンキャンパス。特に弓道部として何か高校生向けのブースを設けていたわけではない。個人練習で道場に部員が何人かいたのだったか。私は…

氷山も水に還りしこの星に残りて犬と方舟(ふね)見送れり/お犬

2024年2月23日にお犬 @oinuchan_a のXのポストとして投稿された一首。 「氷山も水に還りしこの星」とは地球のことだ。ここで「も」という係助詞は類推の意味で「…でも」…

現代における近代短歌の読み ―斎藤茂吉短歌を例に―

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カーテンにつかまり立ちをした君が羽化をしたての夏と思えた/伊東 美穂

2023(令和5)年10月1日に行われた第50回東北短歌大会において入賞歌10首に選ばれた一首。 「つかまり立ち」から1歳ごろの子のことだとわかる。夏ごろの生ま…

きらきらと薄き陽ざしにぬくむ猫冬の運河のほとりに眠る/小﨑ひろ子

「うたそら」第十二号掲載のテーマ詠「温」。 文法上、擬態語「きらきらと」は連用修飾語として「ぬくむ」にかかっている。それに加えて「眠る」にもかかる。いずれも「き…

名残惜しく秋を摘めば犬蓼の赤ほろほろと解けゆきたり/塩本抄

2022年11月11日(金)のうたの日7時部屋の「犬」で次席となった短歌。 立冬を過ぎたが秋を名残惜しく思っている作中主体。秋に咲く「犬蓼」を摘んだのだろうが、スケール…

葡萄酒をください今夜ひとしきり 彼はフランスの風、乾杯。 /宮岡りょう

うたそら第十一号掲載のテーマ詠「果実」。 「ひとしきり」の不思議さが効いている。その後に三人称「彼」が出てくる。乾杯をする場にいる人物だろうか。下句をフランス語…

回遊魚みたいに街を歩きたい終バスが何時かなんて忘れて/西鎮

2022年11月16日(水)のうたの日7時部屋の題「何時」で次席となった短歌。 「回遊魚」とは、定まった季節または時期に、広い範囲のほぼ一定の経路を移動する魚のこと。サ…

あの日々の断片のごと降りしまく銀杏並木をゆく車椅子/六厩めれう

2022年11月15日(火)のうたの日13時部屋の「断」の短歌。 作中主体は「車椅子」に乗っている者とも取れるし、乗っていない者とも取れる。「車椅子」に乗っている者が作中…

トーストの余白が多く見える日のとっぷりのせる有塩バター/鈴木ベルキ

2022年11月13日(日)のうたの日7時部屋の「トースト」の短歌。 「トースト」とは、切って軽く焼いた食パンのこと。その「余白」とはなんだろうか。焼き目の付いていない…

真夜中の砕氷船のように行く一瞬みえた愛に向かって/鹿ヶ谷街庵

2022年11月12日(土)のうたの日7時部屋の「愛」で次席となった短歌。 上句の直喩の持つ壮大な物語に圧倒された。「砕氷船」には、小型の河川・港湾用と、大型の海洋航行…

しなやかな生命線を背に添えて水筒は子の旅を見守る/ナイコ

2022年11月10日(木)のうたの日13時部屋の「自由詠」で首席(薔薇)を取った短歌。 「しなやかな生命線を背に添えて」いるのは、「子」の家族だろう。「生命線」のしなや…

スマフォのみいじりたる手にひとひらの秋を知らする文が届きぬ/青井力

2022年11月3日(木)のうたの日21時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。 心温まる文語新仮名短歌。旧仮名(歴史的仮名遣い)なら「いぢり」だが、新仮名(現代仮名遣い…

久方の朝日を受くる海鳥のかな文字のごと空へひらけり/ぷくぷく

2022年11月3日(木)のうたの日19時部屋の題「題『文』を文語で」で首席(薔薇)を取った短歌。 「久方の」は、「日」を導く枕詞。「海鳥」の種類はわからないが、朝日の…

ミサイルの影は見えざりスマホには上空通過の文字が残りぬ/蒼音

2022年11月3日(木)のうたの日17時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。 昨今続く北朝鮮によるミサイル発射。日本の国土を飛び越すようなミサイルが発射されたとわかる…

遺されし小さき文机 母の日に我の描きし花の絵のあり/安原健一郎

※ 小=ち、描=えが 2022年11月3日(木)のうたの日15時部屋の題「題『文』を文語で」で首席(薔薇)を取った短歌。 愛おしい愁いを帯びた文語新仮名短歌。「描き」は…

夏光さす弓道場の君はまだオープンキャンパスに来し二年生/高橋良

夏光さす弓道場の君はまだオープンキャンパスに来し二年生/高橋良

二〇〇八(平成二十)年の夏のオープンキャンパス。特に弓道部として何か高校生向けのブースを設けていたわけではない。個人練習で道場に部員が何人かいたのだったか。私は大学一年で、高校での経験者ではあったが、基礎からもう一度叩き直したいとの思いで、練習に励んでいた。そこに隣県の高校から部活見学に来た女子が二人。高校二年でオープンキャンパスに来ていたわけだ。私は二年生の男子の先輩、三年生と四年生の女子の先輩

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氷山も水に還りしこの星に残りて犬と方舟(ふね)見送れり/お犬

氷山も水に還りしこの星に残りて犬と方舟(ふね)見送れり/お犬

2024年2月23日にお犬 @oinuchan_a のXのポストとして投稿された一首。

「氷山も水に還りしこの星」とは地球のことだ。ここで「も」という係助詞は類推の意味で「…でも」「…さえも」といった意味に取れる。南極大陸の氷山という壮大な自然さえも、現代の地球環境下では、溶けていってしまい海面上昇につながっている。「還り」という表現には、氷山の成り立ちに思いを馳せさせる効果がある。

「方舟」

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現代における近代短歌の読み  ―斎藤茂吉短歌を例に―

現代における近代短歌の読み ―斎藤茂吉短歌を例に―

第41回現代短歌評論賞応募論文

課題:「〈現代短歌の当面する問題〉に関し論題自由」

現代における近代短歌の読み
―斎藤茂吉短歌を例に― / 高橋 良

第41回現代短歌評論賞候補作(三枝昻之◯)

※ 公開にあたっては、Microsoft Wordの縦書き形式(メール応募時はPDF形式)から、noteの横書きの形式(Androidスマートフォン編集)に切り替えている。空白行はnoteの

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カーテンにつかまり立ちをした君が羽化をしたての夏と思えた/伊東 美穂

カーテンにつかまり立ちをした君が羽化をしたての夏と思えた/伊東 美穂

2023(令和5)年10月1日に行われた第50回東北短歌大会において入賞歌10首に選ばれた一首。



「つかまり立ち」から1歳ごろの子のことだとわかる。夏ごろの生まれだろうか。テーブルなどのしっかりしたものではなく、柔らかく頼りない「カーテン」につかまったところに作者は目を向けた。「君」は、作者の身近にいる子のことだ。



ここでの「羽化」は、「昆虫が、蛹さなぎや幼虫から、成虫になること」

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きらきらと薄き陽ざしにぬくむ猫冬の運河のほとりに眠る/小﨑ひろ子

きらきらと薄き陽ざしにぬくむ猫冬の運河のほとりに眠る/小﨑ひろ子

「うたそら」第十二号掲載のテーマ詠「温」。

文法上、擬態語「きらきらと」は連用修飾語として「ぬくむ」にかかっている。それに加えて「眠る」にもかかる。いずれも「きらきらと」によって修飾されることで撞着語法のような効果が生じている。「ぬくむ(温む)」は、あたたまるという意味。

「運河」という動きを思わせる具体により、猫が眠って見る夢や眠った猫の周囲で展開する物語を想像させる。句切れのないこともその

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名残惜しく秋を摘めば犬蓼の赤ほろほろと解けゆきたり/塩本抄

名残惜しく秋を摘めば犬蓼の赤ほろほろと解けゆきたり/塩本抄

2022年11月11日(金)のうたの日7時部屋の「犬」で次席となった短歌。

立冬を過ぎたが秋を名残惜しく思っている作中主体。秋に咲く「犬蓼」を摘んだのだろうが、スケールの大きな提喩で「秋」を摘んだと表現したところにうまさが出ている。「摘めば」は、「摘むと」ということ。

「犬蓼の赤」という提喩は、赤い花穂を示しているのだろう。この粒状の花をしごき取っているところを「ほろほろと解けゆきたり」とオノ

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葡萄酒をください今夜ひとしきり 彼はフランスの風、乾杯。 /宮岡りょう

葡萄酒をください今夜ひとしきり 彼はフランスの風、乾杯。 /宮岡りょう

うたそら第十一号掲載のテーマ詠「果実」。

「ひとしきり」の不思議さが効いている。その後に三人称「彼」が出てくる。乾杯をする場にいる人物だろうか。下句をフランス語にすると、"Il est le vent français, santé!"である。'le vent'(風)は、'le vin'(葡萄酒)と音が似ている。葡萄酒のことを彼と表現しているのか。

「ひとしきり」は「風」の吹きゆくさまを修飾し

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回遊魚みたいに街を歩きたい終バスが何時かなんて忘れて/西鎮

回遊魚みたいに街を歩きたい終バスが何時かなんて忘れて/西鎮

2022年11月16日(水)のうたの日7時部屋の題「何時」で次席となった短歌。

「回遊魚」とは、定まった季節または時期に、広い範囲のほぼ一定の経路を移動する魚のこと。サンマ・イワシ・マグロ・サケなどが代表的。「回遊魚みたいに」という直喩は、群がって移動するさまも想像させる。ある季節になると、そのように街を歩きたくなるのか。行きつけの店や公園があるのか。

「町」ではなく「街」という表記であると、

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あの日々の断片のごと降りしまく銀杏並木をゆく車椅子/六厩めれう

あの日々の断片のごと降りしまく銀杏並木をゆく車椅子/六厩めれう

2022年11月15日(火)のうたの日13時部屋の「断」の短歌。

作中主体は「車椅子」に乗っている者とも取れるし、乗っていない者とも取れる。「車椅子」に乗っている者が作中主体である場合、自らの乗る「車椅子」をあえて客観的に見つめているように読める。「車椅子」に乗っていない者が作中主体である場合、「車椅子」に乗っている者のことを思っているように読める。

前者の読みにおいては、「降りしまく」中で舞

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トーストの余白が多く見える日のとっぷりのせる有塩バター/鈴木ベルキ

トーストの余白が多く見える日のとっぷりのせる有塩バター/鈴木ベルキ

2022年11月13日(日)のうたの日7時部屋の「トースト」の短歌。

「トースト」とは、切って軽く焼いた食パンのこと。その「余白」とはなんだろうか。焼き目の付いていない部分のことか。平置きのオーブントースター使っているのなら、食パンの置き場所によって焼き目の付き方が変わってくる。普段からトーストを食べているので、「今日は白い部分が多いな」と感じたのだろう。また、「余白」は物足りなさに通じるので、

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真夜中の砕氷船のように行く一瞬みえた愛に向かって/鹿ヶ谷街庵

真夜中の砕氷船のように行く一瞬みえた愛に向かって/鹿ヶ谷街庵

2022年11月12日(土)のうたの日7時部屋の「愛」で次席となった短歌。

上句の直喩の持つ壮大な物語に圧倒された。「砕氷船」には、小型の河川・港湾用と、大型の海洋航行用がある。また、後続の輸送船団などを誘導する誘導型砕氷船と、自船のみの航行を目的とした独航型砕氷船に大別される。外洋砕氷船では、海洋観測、極地基地などの支援、氷海での救難などを目的とする船が多い。観光目的のものもある。「真夜中」に

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しなやかな生命線を背に添えて水筒は子の旅を見守る/ナイコ

しなやかな生命線を背に添えて水筒は子の旅を見守る/ナイコ

2022年11月10日(木)のうたの日13時部屋の「自由詠」で首席(薔薇)を取った短歌。

「しなやかな生命線を背に添えて」いるのは、「子」の家族だろう。「生命線」のしなやかさを詠み込むことで、「子」の家族のこれまでとこれからとを想像させる。その「生命線」の一部にあたる年月のあいだ「子」と生きてきた。その手を「背に添え」つつ、「いってらっしゃい」と言葉をかけたのだろう。

「子」は文字通り「旅」に

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スマフォのみいじりたる手にひとひらの秋を知らする文が届きぬ/青井力

2022年11月3日(木)のうたの日21時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。

心温まる文語新仮名短歌。旧仮名(歴史的仮名遣い)なら「いぢり」だが、新仮名(現代仮名遣い)なら「いじり」でよい。「たる」は存続の助動詞で「ている」という意味。「する」は使役の助動詞で「せる」という意味。「ぬ」は完了の助動詞で「た」という意味。

第三句「ひとひらの」がおもしろい。構造を見れば「文」を修飾する語だとわか

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久方の朝日を受くる海鳥のかな文字のごと空へひらけり/ぷくぷく

久方の朝日を受くる海鳥のかな文字のごと空へひらけり/ぷくぷく

2022年11月3日(木)のうたの日19時部屋の題「題『文』を文語で」で首席(薔薇)を取った短歌。

「久方の」は、「日」を導く枕詞。「海鳥」の種類はわからないが、朝日の光を受けて、海の上を飛んで漂っているのだろう。ウミネコやカモメが飛翔する姿は、平仮名で言えば、「ひ」や「へ」のように見える。そのため、「かな文字」というのは平仮名ということだろう。結句「空へひらけり」で「ひらく」という動詞を用いて

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ミサイルの影は見えざりスマホには上空通過の文字が残りぬ/蒼音

ミサイルの影は見えざりスマホには上空通過の文字が残りぬ/蒼音

2022年11月3日(木)のうたの日17時部屋の題「題『文』を文語で」の短歌。

昨今続く北朝鮮によるミサイル発射。日本の国土を飛び越すようなミサイルが発射されたとわかると、Jアラートが該当地域の人々に発せられる。そのとき、スマホや緊急告知ラジオが鳴る。さらに、「上空通過」がわかるともう一度鳴る。

避難を勧告する通知だが、やはり空を見たくなるのが人間の性。そこに「ミサイルの影」は見えない。しかし

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遺されし小さき文机 母の日に我の描きし花の絵のあり/安原健一郎

遺されし小さき文机 母の日に我の描きし花の絵のあり/安原健一郎

※ 小=ち、描=えが

2022年11月3日(木)のうたの日15時部屋の題「題『文』を文語で」で首席(薔薇)を取った短歌。

愛おしい愁いを帯びた文語新仮名短歌。「描き」は、歴史的仮名遣いなら「ゑがき」だが、現代仮名遣いなら「えがき」でよい。

亡き母の使っていた文机だろう。「小さき」にその母の様子が見える。遺品整理をしている時だろうか、その文机に入っているものを見てみた。すると、見たことのある

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