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しなやかな生命線を背に添えて水筒は子の旅を見守る/ナイコ

2022年11月10日(木)のうたの日13時部屋の「自由詠」で首席(薔薇)を取った短歌。

「しなやかな生命線を背に添えて」いるのは、「子」の家族だろう。「生命線」のしなやかさを詠み込むことで、「子」の家族のこれまでとこれからとを想像させる。その「生命線」の一部にあたる年月のあいだ「子」と生きてきた。その手を「背に添え」つつ、「いってらっしゃい」と言葉をかけたのだろう。

「子」は文字通り「旅」に出るのかもしれないが、普段から水筒を持ち歩いているのならば人生という「旅」のこととも取れる。児童の水筒なら首からかけられる紐のついたものもあるし、紐のついていない水筒もある。いずれにせよ水分補給のために携帯していく。その水筒が「子」の家族からすれば、自分の代わりに「子」を見守ってくれるものなのだ。

上句末の接続助詞「て」が面白い。「て」は、ある動作・作用から、次の動作・作用へと推移・連続するという「継起」の意味を表す助詞である。この場合、上句の従属節と下句の主節の主語は一致するというのが考えやすい。しかし、この歌の上句の主語は「子」の家族で、下句の主語は「水筒」である。この「水筒」は、「子」の家族の代わりに「見守る」のだ。そう考えれば、上句も下句も「子」を見守るものが主語ということになる。一見屈折しているかのように見える助詞「て」がこの一首を歌として際立たせている。
(高橋良)

〈補足〉
生命線というのは斜めがけした水筒の紐が手のひらの生命線のように見えたこと、水分補給を担う(子にとっての)命綱であるように感じたことから浮かんだ言葉でした。生命線を親と子を繋ぐものであるように読んでいただけたのが嬉しかったです。
(ナイコ)

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