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うたそらの短歌

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千原こはぎさん企画・編集の『うたそら』の「そらよみ一首評」コーナーで掲載された歌と評を公開します。(※ 編集人千原こはぎさんと歌の作者の許可を頂いています。)
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記事一覧

きらきらと薄き陽ざしにぬくむ猫冬の運河のほとりに眠る/小﨑ひろ子

「うたそら」第十二号掲載のテーマ詠「温」。 文法上、擬態語「きらきらと」は連用修飾語とし…

葡萄酒をください今夜ひとしきり 彼はフランスの風、乾杯。 /宮岡りょう

うたそら第十一号掲載のテーマ詠「果実」。 「ひとしきり」の不思議さが効いている。その後に…

スーパーの氷菓はすでに売り切れで冷凍ケースの底の金属/廣珍堂

「うたそら」10号のテーマ詠「涼」。作中主体はスーパーの店員か客か。ある氷菓の入っている冷…

真新しいチョークの角が粉になり校舎の脇にユキヤナギ咲く/佐藤氷魚

「うたそら」第八号掲載の一首。テーマ詠「新」。 あえて初句で字余りにして「真新しい」と表…

淡雪を踏みて駱駝はゆつくりとじつに駱駝はゆつくり沈む/宇祖田都子

「うたそら」第七号掲載のテーマ詠「淡」。 八十首の中で「淡雪」など雪を詠んだ歌は十首あっ…

「換気せよ」「黙浴せよ」の貼り紙にイエスも風呂で笑い給うや/chari

「うたそら」第六号のテーマ詠で、コロナ下の「暮らし」を詠んだ歌。 「せよ」という命令形の…

かげろふのごと入管に死せるをみな「たべたいです」とふ文を遺しき/紫苑

2021年11月1日発行「うたそら」第五号のテーマ詠の一首。 テーマは「食」なのに、「たべたい」というひらがな表記。出入国在留管理局にいた非漢字圏の女性のことだとわかる。 「かげろふ(蜉蝣)」と言えば、吉野弘の詩「I was born」。「或日 これが蜉蝣の雌だといって拡大鏡で見せてくれた。説明によると 口は全く退化して食物を摂るに適しない。胃の腑を開いても 入っているのは空気ばかり。」 彼女も胃の中には何もなく、残せたものは訴えの手紙だけだったのだろう。 2022年