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(9) 脱北? 取り敢えず、撤退(2024.2改)

「明日、撤退しましょう」行為の後で彼は告げた。
2人きりの時間が終わってしまう事に戸惑いながらも頷く。無意識の内に厚い胸板に頬を摺りつけているので自分でも驚いた。40を過ぎてるのに、小娘のような仕草をしちゃってるじゃないの、と自分を諌める。

「あの、創作された動画で世界は騙されてくれるでしょうか?」

「アメリカの3大疑惑映像って、ご存知です?」

「疑惑映像って、当社が先駆けなのでは?」

「いえいえ。少なくとも私達より先にテレビ局各社が大なり小なりやっています。
「ヤラセ映像」っていうのは昔からありますよね?街頭インタビューの相手がサクラで、売れない役者さんだったり、与党推しの宗教信者だったり。一番怪しいのは公共放送で、与党と自分達に都合の悪いニュースは伝えません。かなり騒ぎになってから本の僅か程度触れるだけです。
だから、ASIA Visonを開局したっていうのも有りますが・・ 
すみません、アメリカの映像でしたね。真実は今でも闇の中なのですが、後世になればなるほど次第に見えてくるものがあるのです。歴史の謎解きに似ている様な気がします。
最初の疑惑映像は、ケネディ大統領の暗殺の映像です。大統領の映像って複数のテレビ局が撮影しますよね、しかもオープンカーに乗ってパレード状態なのに、何故か一つの映像しか出てきません。各テレビ局はパレードの終着地で待機していたそうです。
あの映像ですが、実は市民が8ミリカメラで写したものなんです。だから非常に荒い映像になっています」

「そうなんですか!」

「はい、そうなんです。日本でビデオカメラが普及して、僕がデジタルビデオを初めて購入したのが子供たちの誕生に備えてだったので18年前位なんですが、動画を撮影していて気がついたんです。火垂はおっぱい嫌いで・・って鮎さんが歳行ってたからかもしれませんが、あいつがミルクを飲んでて吹き出すと、慌てて手がブレました。
あゆみが道路の側溝にハマった時も物凄く慌てました。圭吾がパパって初めて言ったら、映像はブレまくりました。
ところが、あの映像は大統領が撃たれてもブレずにそのままなんです。しかも30秒に満たない、僅かな時間しか撮影していないんです。たった30秒の撮影で、撮れたのが狙撃の映像って、宝くじ並みの確率ではないでしょうか」

「30秒って・・まさか、撃たれるのを知っていた?」

「可能性はありますよね、この地点で撮るといいですよ、みたいな。アナクロの8mmですから、誰かさん・・おそらく国家なのでしょうが、画像が粗くなるのも承知していた。しかも市民撮影のクセに、映像は乱れないんです。「変だなぁ」ってカメラを構える様になって思いました」

「なるほど。次に行きましょう、2つ目は・・」

「月面着陸の映像です。僕もずっと信じてました。でもアルテミス計画っていうのをNASAがやるって聞いて、疑問に思ったんです」

「月に50年ぶりに人類が降りるって計画ですよね?」

「はい、それです。ご存知です?最初は月に降りずにグルッと月の周りを廻るだけなんです。一度降りたはずのなのに降りない。しかも着陸ポイントを探すのが目的らしいんです。月の海じゃない別の場所に降りるからって」

「ん?ちょっと話の展開が見えなくなりました・・」

「月への着陸って、実は簡単じゃないのが最近分かっています。無人機で成功したのは1966年のソ連と2013年の中国だけです」(#注・インド無人着陸2023年、日本無人着陸 翌24年、この物語は2021年1月の設定)

「世界初となったソ連のLuna 9は軟着陸と言ってますが、月面到着直前で減速逆噴射後に、エアバッグに包まれたボール状態の着陸機を分離して、ポーンと放り投げただけです。
1976年にLuna 24が月面で採取したサンプルの持ち帰りを成功させるまで、米ソで合わせて計44機の月着陸機が打ち上げられました。今頃になってイスラエルの民間企業や中国、インドが月着陸を試み、米国や日本の民間企業も月への着陸を計画してます。
そんなこんなで今日までに110機の月惑星着陸探査機が打ち上げられているんですが、着陸の成功率は40%程度なんです。失敗した無人機はと言うと大抵月面に激突して壊れています。
でもアメリカは、アポロ計画で69年から72年の「僅か3年で6回も人が月に降りた」ことになっています。有人着陸とは言え、もの凄い成功率です」

「失敗した着陸船、そんなに激突してるんですか・・」」

「はい。2000年以降も激突し続けています。で、最も実績がある筈のアメリカが石橋を叩くようにやたら慎重になっています。50年前のコンピューターなんて計算機に毛が生えたようなものです。そんな時代であっても、6度も月面着陸を実現したアメリカが・・ですよ」

「確かにスタンリー・キューブ〇ックがスタジオで撮影したっていう疑いも昔から言われてますからね・・で、最後の3つ目です!」

「9・11です。これは有名な話ですがビルの倒壊は航空機によるものではなく、廃ビルを倒壊する爆薬によるものだとする説が根強いです。ビルに突っ込んだ航空機の部品が一切見つからなかったのも明らかになっていますし、爆破音と爆薬臭が一面に立ち込めていたという消防士たちの証言もあります。一番はドイ〇銀行等の欧州の企業の役員達ですね、暴落した航空株を買い、事件前は兵器産業や金や銅の鉱業株を買っています。
僕が一番胡散臭く感じたのはブ〇シュJr夫妻の映像です。大統領が事件の一報を知るのが保育園か幼稚園を夫婦で視察している時なんですけど、しっかりカメラが回っていて、お付きの者がゴニョゴニョ伝えて、「そうか、分かった・・」みたいなドラマめいたシーンを各局のカメラでバッチリ撮られているんです」

「実にヤラセっぽい映像だ、と?」
「はい・・」
「仰る中身は分かりました。でも、一箇所だけ気になりました」
翔子が2つの精巣を握りしめるので、やや痛みを感じながらも応える。
「なんでしょう?」
「鮎先生が火垂くんを出産したのが42です。私が今すぐに妊娠したとしたら、43で出産になるのですが!」

「スミマセン、申し訳ありませんでした・・」
鮎の歳が行ってたから、乳がマズかったという趣旨の発言だった。

「バツを与えます。最低でも赤ちゃんを2人は生みます。それで、もしお乳を飲まなかったら、先生に飲んで貰います。いいですね?」 
剥れると、娘によく似た顔になる。あなた達には幸せになって貰いたいと思いながら張りのある胸を揉む。
鮎さんにも母乳を飲まされたなぁと思いながら、翔子の乳首を口に含み、小さな乳首を甘噛みしてから、舌で転がすと乳首が例の如く隆起する。
力強く吸うと、翔子が大きく息を吐いた。仄かに甘苦い感触を舌先が感じ、驚いた。
​​​
***

西海衛星発射場と平壌に来る数日前に、寧辺の核施設を訪れ、深夜施設の研究棟に忍び込んだ。

驚いたのは泥棒のスキルを彼が持っていたことだった。
窓ガラスに特殊なシートを貼って、頭ぐらいの大きさの石をぶつけると、割れたガラスが散らばらずにシートに張り付いた状態となり、木の枝で突いて部分的に穴を開け手を入れて解錠すると、ガラス戸を開けて建物内に音も無く忍び込んだ。

直ぐに上半身が出てきて、両手で引き上げられるようにして自分も建屋に侵入する。
最初に向かったのが警備室で、部屋の場所を知っているので驚いたが、その前に人の気配を察したので彼に止まるように臀部を2度叩いて耳打ちした。
夜間ゴーグル越しで見る笑顔に打ちのめされたのは、何回目だろう?非現実的な映像を見ているみたいで何故か癒やされる。彼の笑顔を見ただけで恐怖感とか、怯えが一掃されてしまうのが不思議だった。

部屋の明かりを捉えた暗視ゴーグルで目が潰されてしまうので外す様に言われ、従いながら部屋にゆっくりと近づいてゆく。
彼は右手に銃を持って構えながら進む。
2つの鼾の音が確認できると、2人で顔を見合わせて互いに笑った。部屋に入る前にスマホが付いた自撮り棒で部屋の内部を覗くと、彼はショルダーバッグから小瓶を取り出し、私に見せる。クロロホルムだった。
ガーゼを取り出すと「待て」の指示に頷いた。
机に突っ伏して寝ている2人の睡眠を、更に深いものにするのだろう。

5分くらいだったろうか、暫くすると部屋から出てきた彼と廊下を歩き出す。
館内の警報機と監視カメラ映像データ録画機を無効化したと言うのだが、コンセントを抜いてきたのだろうか?手段が全く思い浮かばなかった。

館内に人の気配を全く感じなかった。
彼は超小型赤外線カメラのついた非売品のスマホで館内の映像を撮りつづけた。一番撮影に時間を掛けたのは、内部には立ち入れない、核物質のマークが至るところに貼られた部屋だった。集中治療室や産まれたばかりの乳児室の様に、一面ガラスになっている部屋を、ガラス越しに念入りに撮影した。この映像を元にして、新たな動画を作成するのだと言う。

それでも館内に居たのは1時間も掛からなかった。建屋の正面玄関から堂々と出た時には6台のバギーが穴を掘り終えて地中に埋まった状態になっていた。

上空で待機していたドローンが2人を確認してゆっくりと降りてくる。自分の方に向かって来るので小動物の様な愛おしさを感じる。手袋の両手で受け止めると2人でその場を去った。1キロほど歩いてバギーを停めている林に到着すると乗り込んで、寧辺の核施設から撤退した。後日、土中に埋まった6台のバギーの確認に訪れる。

ビバーク地点に到達すると先行していたバギー4台が穴を掘ってくれているので、穴用の保護シートを穴に入れて、先に入ってバギーのサブバッテリーと繋いだ小型電磁調理器でお湯を沸かし始める。サブバッテリーはメイン装置共々60キロの走行でフル充電されていた。
彼は、小さな箒で蓋を閉じた上部に枯れ葉や枝を被せて偽装を施してから穴に入ると、上蓋を閉じる。その前に2人で暗視ゴーグルを外して、室内灯を付けた。
2人で「移動式ラブホテル」と呼んでいる空間が出現する。
時刻を確認すると、衛星接続15分前だった。
熱いお茶を飲んで、寧辺で撮った映像を転送し終えると、いつものように愛し合った。

ーーー​

プノンペンで登録された「金正照」の動画サイトに、新たな動画が投稿された。
映像は警備室で寝ている警備員を捉えたシーンから始まった。6人のマスクマン達が警報機を遮断し、監視カメラのモニターの配線を抜き、受像機のテープとディスクを抜き取って、ライフル銃のグリップでディスクトレイのプラスチック部を破壊した。

撮影者を含めた7人は核施設用の防護服を纏っているようで、放射能濃度の高い室内に入るとあらゆるものを映像に納めて、写真に撮っていた。何より恐ろしかったのは2人がバッグからプラスチック爆弾を取り出した。ご丁寧にテロップが出て「我々は「これ」をいつでも何処にでも設置できる」と英語で表記されていた。

映像はそこで終わった。この映像が施設内に侵入時の映像を元にしてAIによって創作された映像であるのは、言うまでもない。

寧辺の各施設の周辺で大爆発が起きたのは、動画が投稿された3時間後、ちょうど国連安全保障理事会が臨時開催されており、北朝鮮の国連大使の発言中というタイミングだった。
偵察衛星を持つ各国が朝鮮半島を注視している中で、寧辺の核施設で爆発が確認され、冬の偏西風で放射能汚染が心配される韓国全土で空襲警報が鳴り響き「室内待機命令」を大統領府が発令する。

安保理の議場は大混乱となる。今更北朝鮮のセキュリティ体制を問うても意味がなかった。北朝鮮の核を国連配下の組織、IAEA「International Atomic Energy Agency:国際原子力機構」が管理すると定めた。中国、ロシア、アメリカ、韓国の4カ国が査察官を出し合って北朝鮮に派遣して、核物質を暫定的に中国内に移す。北朝鮮の投票権は無効として満場一致で採択した。

爆破を受けて、中国とロシアは北朝鮮に対し、寧辺以南の都市と街の全ての住民を東部へ避難させるように指示する。寧辺の直ぐ南には首都平壌と38度線を越えれば直ぐにソウルがある。何故、寧辺に核施設を作ったのか?誰もが北朝鮮のバカさ加減を罵りながら、首都脱出作戦と核汚染対策に乗り出していった。
アメリカは韓国政府に対して、在韓米軍の日本への移動を伝え、了承されたという。

***

平壌市民300万人の大混乱に乗じて、背の高い男と北朝鮮女性よりは上背のある女性の2人が、一風変わった乗り物に乗り、人々の向かう方向、東部都市とは異なる危険であるはずの平壌の北、寧辺の方向に向かって走っていた。
思った以上に無関心だったので、各自それどころではなかったのだろう。子供達が不思議そうな顔をして視線が合うので、2人が手を振ると笑顔になって振り返してくれた。
この国で唯一の接点は子供達となった。最後に胸が温かくなったのは幸いだった。

30キロほど北上すると、半径20キロ以内の周囲には誰もいない広大な野原に、2台のドローンと5機の護衛機B-117が着陸するのが見えた。往路は夜間に到着したが、復路は混乱に乗じて堂々と日中に撤退してゆく。
大型ドローンは流線形の形状でF22と同じステルス塗料が塗られている。モリと翔子は土中深くに埋まったバギーの上部の土をスコップと箒で慣らすと、ドローンにそれぞれが身を横たえる様にして乗り込む。積載重量は80キロなので大人2人が乗るのは無理だ。

7機の編隊は垂直浮上すると小型ジェットエンジンを噴射させ、韓国平沢在韓米軍基地へノンビリと飛んでいった。

(次章につづく)


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