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(7) バラマキ援助,金額ありきの政策の、根底にあるもの(2023.9改)

タイ・サラブリー県内での日本人一行の行動が人々に受け入れられた理由を、タイを去る空港の記者会見でモリが明かした。

「タイの人々の中には仏教的な概念が根っこの部分にあります。それは30年前の訪問で分かっていました。
旅行者としてタイにやってきた若いだけの風来坊を、村の方々が温かく受け入れていただいた。
これもタイの人々に宿っている、施しや もてなしといった仏教的な文化と素地があるからだと見ていました。

今のバックパッカーを始めとする旅行者の大半に見られる傾向なのですが、街から街への滞在が極端に短いように思います。まるでゲーム感覚のように、はい次、またその次と移動してしまう。
彼らは英語すら喋れませんから、意志の疎通や交流なんて出来ないんです。まずそれが第一の問題。第二は意思の疎通が取れない者通しの馴れ合いの場が有るのが厄介です。
投稿された動画を攻略マニュアルのように見て、「ここ行こう、これ食べよう」って決めて、淡々と観光地と名店を回るだけで満足してるんです。

ときおり親切なタイの人々が登場して、一方的な施しだけを得て「さすが、微笑みの国だ」と判断して「サンキュー、バイバイ」だけで終わってしまう旅行しかできない人達が、動画を投稿しています。
例え話を申し上げましょう。観光客が早朝に起きて托鉢の光景を眺めて動画にしたり、撮影する。また業者が用意してくれた托鉢用の食材を僧侶に施す場に参加する、それを悪いとまでは思いません。理解できないのは、先程と同じです。托鉢もゲームのミッションの一つとしてしまうんです。

托鉢の表面的な部分を見るだけで終わります。人々が僧侶を施している意味を理解できていない方が非常に増えたように思います。托鉢という行為の本質的なものを理解せず、ただ映像に撮って垂れ流すのは止めて欲しいと思うのです。
その程度の理解で、陳腐なコメントを安易に口にする。「これなら自分にも出来る」と勘違いする観光客を、新たに増やすだけの動画になっている事実に、気づいて欲しいものです。

その土地で暮らしている人と短時間滞在する観光客との溝や乖離が広がり、行き着いた先の最たるものが、先進国による援助だと考えています。

ダムを建設した後で、水没した街の住民は喜んでくれましたか?また、たった数年でダムに土砂が溜まってしまい、ダムは即座に無駄になってしまいましたが、あなたは再度、ダムの建設現場を訪問できますか?使えもしない医療器具や農耕機を押し付けるように提供して、あなた方は人々から感謝され、お返しやお礼の品々を受け取ることが出来ましたか?
住民の方々から何一つ受け取る機会が無ければ、そのプロジェクト自体が失敗であり、無意味なのです。日本の援助は万事がそうでした。
少なくとも東南アジアでの日本の援助は全て失敗だったと私は捉えています。
結局、金をバラまいただけ。ワイロを受け取ったその国の政治家以外の人々から、援助を計画し、主導して、あなたは誰かから感謝されましたか?

タイの人々に受け入れていただき、喜んで頂くには上座仏教の「托鉢」の相手を敬い施す行為や「喜捨」の心理状態を考慮して、人々に訴える必要がある。そう考えて、我々がチームとして出来うる手段や方策を練って参りました。

田植えを共にし、川で皆で魚を追い込み、子どもたちとサッカーをして、一人の日本人がムラ人々と生活をする中で伝えること、役に立てること、感謝されることを重ねてゆく中で初めて評価され、村人の一人として認められた、そんな経験がタイでも何件か有りました。
今回アユタヤまで態々お越しいただいたディーさんの息子さん夫婦との30年ぶりの再会も、その何件かの一つです。当時の僕なりの拙い農業指導が、ご家族はおろか、ナコンチャラシマ一帯で継承されていると伺って、その点でご夫婦から今でも信頼を得ているのだと教えられた時、物凄く嬉しかったです。タイ政府の計らいに、心から御礼申し上げます。

今回の援助活動も同じように受け止めていただけると良いなと思いながら活動していました。
恐らくですが、飛び入りで参加いただいた航空自衛隊の皆さん、私が所属するバンドメンバーも含めて、皆の中で今回の活動が人生の中でも忘れられないページの一つになったのではないかと考えています。
今回の活動で人々から感謝され、タイの皆さんからの膨大な量の「お返し」を頂戴致しましたので、皆、成功体験として共有できたのではないかと思います。

しかし、この7月の短い訪問で終わりではありません。次は4ヶ月後の稲刈りと収穫祭、そして2月には再び田植え6月の稲刈りと永遠に続いてまいります。それこそ全員で見直して、より良いものに進化させねば意味がありません。テクノロジーも進化しますが、生活する我々も変わっていかねばなりません。トライ&エラーの連続となるでしょう、タイの方々にご迷惑を掛ける局面も出てくるかもしれません。そんな紆余曲折を経ながらも、タイの皆さんと共に、成長し続けることができるのを願っております」

モリたちはタイの人々に惜しまれながら、去っていった。

モリの上座仏教への深い理解がアジアの人々の心を捉えたのか、ベトナムは継続だが、同じ上座仏教のラオス、カンボジア、南インドのスリランカ政府が、日本の大使を通して外務省に猛烈にアピールしてゆく。プルシアンブルー社の援助をお願いしますと陳情を繰り返すようになる。

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米中の大使達には想定外となった。援助とは借款などで提供されるもので、その資金を中国建設企業や米国企業製造の製品や物資購入などに費やすものという概念が固定化されていた。

中国は太陽光パネルの大量発注をプルシアンブルー社から受けては居たが、タイでは農村部向けの電力として支給されるとまでは想像していなかった。
今後も定期的に野生動物が駆除され、村のタンパク元として獣肉が各家庭に配布されるようになるという。電力も一つの村だけでなく。プルシアンブルー社の農地でソーラーパネルが徐々に増えると周辺の村にも送電が始まるのだという。
最終的には発電した5割の電力を周辺の村へ無償提供し、5割の電力をタイの電力会社に売って対価を得る。

また今回始まった田植えでは日本米を植えて10月に収穫すると中東などに、販売するという。田植え自体は農耕用バギーが行い。雑草取りから刈り取りまで無人で行うので、価格も安く設定できる。タイ米、バングラデシュ米とさほど変わらない価格でアラブ圏の富裕層に販売されるという。PB Martのアラブ圏での進出を想定しているのかもしれない。

タイではソーラーパネル以外の箇所、今回で言えば田植えと獣害駆除は日本のODAで資金提供されるので農民たちは田植えが終わり、獣肉まで定期的にタダで手に入り、電気代が掛からなくなるという恩恵を受けた。当然ながら、「ウチの村も何も栽培していない余っている土地があるし、プルシアンブルー社に来てほしい」と進出要請が殺到する。

アユタヤの郊外に拠点を構えたプルシアンブルー社のタイ法人は、従業員雇用をしながら、周辺都市へのサービス拡大に乗り出す。太陽光発電以外は日本のODAというスキームでタイの全国中に展開が予想される状況となる。農村部の太陽光発電が浸透すると、タイ政府と電力会社は喜ぶ。自然エネルギー採用と農村部のカーボンクレジット適用により国際的な評価が高まり、周辺の東南アジアより電力供給が安定すると見なされ、タイに進出を検討する企業が増えると予想されるようになる。

モリとの接点を持とうとアレコレ考えていた米中だったが、肝心のモリは害獣駆除と調理に追われており、忙しいと面会を断られてしまい、プルシアンブルー社に相談を持ち掛けると、今後の取引は難しいとやんわりと拒否されるようになる。

自然エネルギー推進を始めた同社が、CO2削減に意欲的どころか、全く取り組もうとしない中国共産党とアメリカ共和党に与するのは、イメージダウンに繋がるので暫く距離を取ると、公の場でも発言するようになる。しかし、そういった発言でプルシアンブルー社の国際的な認知度と評価は高まった。

日本法人の10月上場は決定しているが、親会社も上場に追随しようと、シンガポール法人も11月の上場が決まった。株価が異例な数値となるのは市場も織込み済みだ。

国際的なイメージが上昇するのに合わせて、コメを栽培する各国も日本政府に近寄ってくる、タイのようにODAで支援をしてほしいと。今年2回目の田植えは間に合わなくても4ヶ月後の稲刈り、5ヶ月後の田植えは自動化して収穫を確実にそして迅速に行いたいと、各国の日本の大使が外務省を訪れて直訴するようになる。

プルシアンブルー社がクリーンなイメージを周囲に撒き散らす一方、モリが在籍するバンドのお披露目を兼ねて、タイ国内では有名な音楽番組が特集を組んでバンドの演奏を放映した。演奏を見る客席にはタイの農水大臣や外務大臣の他に、バンコク駐在、ラオス、ベトナム駐在のロシア大使3人の姿があった。
モリが在籍していたプルシアンブルー社がロシア産の海産物や乳製品を東南アジア諸国へ供給するという。取り分けオホーツク海の海産物は南国では殆ど手に入らない。
東南アジアにPBマートが進出し、進出済の日本食店やスーパーを上回る、鮮度と味覚の商品を提供すると表明すると共に、ドローン配達によるネットスーパー事業も始める。
観光地のプーケット島、サムイ島に滞在しているロシア人観光客約20名を対象に健康状態のチェックとロシア食品の配送をドローンを介して行うとプルシアンブルー社が表明する。

突然ロシアに擦り寄る姿勢を同社が取り始めたので、米中は困惑し始める。

しかも、ロシアだけでは無かった。

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PB Enagy社の電力事業参入を見届けた台湾電力は、同社に提携を申し入れ同意した。

台湾電力はPB Enagy社の海上太陽光発電と農地での発電事業を導入し、PB Enagy社は台湾電力の中古の小型ガス火力発電所を購入。富山市で建設する。発電に伴うノウハウ譲渡で台湾電力社員のチームが富山市にしばらく滞在することが決まった。

日本の電力会社との提携ではなく、台湾電力をパートナーに選定した理由が徐々に明らかになるのだが、激高したのはやはり中国で、プルシアンブルー社へのソーラーパネル供給停止をチラつかせる。しかし、富山県もPB Enagy社も動じない。PB Enagy社は台湾製造大手のSCSMm社と業務提携してソーラーパネルの製造を始める。これで中国製より高品質なソーラーパネルが手に入る。想定した通りとなる

台湾とのパートナーシップ強化の裏にはアメリカの意向があるのではないか?と噂されたが、まもなく誤報だと分かる。
プルシアンブルー社が台湾自動車メーカーのネッドジェン社との提携を発表したからだ。

プルシアンブルー製のAIナビを搭載して、東南アジア、南アジア市場を対象に販売を拡大すると表明した。一方のネッドジェン社はアジアで販売が拡大しているプルシアンブルー社のバギー製造を請け負い、系列の部品工場とも連携して生産着手に踏み切った。
台湾製鉄、台湾造船とも契約を結び、製鉄供給と大型漁船の発注を行った。

いつ中国から出入り禁止を言われても支障の出ない体制を台湾との間で結んでゆく。
プルシアンブルー社は「PB Motors」という自動車販売会社を設立し、農耕バギーのサービス販売をしている「PB Agri-Machine」と合併し、PB Motorsで社名を統一すると、ネッドジェン社の乗用車販売をベトナム・ホーチミン市とタイ・アユタヤ市で始めた。

当然のように誰もが無視していた。
売れっこないと思っていた。

しかし、車を試乗した人々は次第に欲しくなってゆく。ナビの言語が片言な部分が若干あれども対話型AIを搭載しており、最善のルート選定をしてくれる。このナビ端末はタブレットとしても使えるので、車外でも利用できる。NAVIだけでなく、各種言語翻訳機能と各国CIMカードを装着すれば携帯電話にもなる。

また、ネットジェン社の乗用車なのに、消耗部品を除きプルシアンブルー社の5年保証が付いていた。車両価格も安価で、乗り心地も悪くない。5年保証に今までになかったAI Naviが標準装備として売れだしてゆく。
PB Motors社はエンジンと各種部品をネッドジェン社から供給を受けて、自動車製造にも乗り出してゆく事になる。

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日本に帰って来た一行は夏休みを宣言して、一切の取材も断り、2台の車に分乗して富山を目指した。

モリは日々の活動で疲労が蓄積し、明らかに休養が必要で、移動中のハンドルも握らなかった。ハンドルを握ったママさんチームや娘たちは驚いていた。今までの乗用車にAI Naviのタブレットを外付けユニットで装着したのだが、タブレットを操作する必要もなく、音声で指示すれば何でも対応するからだ。
高速道路なのでマップ情報はあまり使わなかったが、サチ曰く、「やたらなんでも知ってる話し相手」が一人増えたようなものだ。

「正午のニュースが見たい」

「FMの電波が入らなくなったから、YouTTubeから最新のポップスをセレクトして」

と指示をしたりしていると、AIが突然しゃべった。

「サチさん、走行車線に戻って下さい。2km後方からポルシェとパトカーがすっ飛んで来ます。はい、左車線は安全です、ゆっくり車線変更して下さい」と突然発言するので、AIを使っていない同乗者は驚く。

「アイリーン、あなたの目はどこについているの?」

日頃エンジニアの卵としてAIを使っているサチが聞く。

「前後2kmを走行中の乗用車のドライブレコーダーを常時ハックしています。
内緒ですが非合法です。安全には変えられないと幹部達が設定しました。あ、ポルシェ来ます、続いてパトカーです」

バビュンと左車線の古いゴルフを追い抜いてゆく。

「だからドラレコなんか要らないって急に言い出したのね・・」

「はい。急速に普及したのでラッキーでしたね。周囲の情報が瞬時に手に入ります。そうそう、危ないときにはブレーキも踏みますよ。最強の安全装置を搭載していると思っていただいて構いません」

「ブレーキアシストっていうのかな?それを公表せずテストだけして、認可を貰わないまま使うのは非合法だよね?」

「道路法と自動車メーカーの開発次第ですが、近いうちに合法的なものになるでしょう。 サチさんだから申し上げますが、PB Motors社は中古車販売・・主にドイツ車とフランス車の中古車販売を始めます。販売車両にドラレコを装備しますが、私が周囲のドラレコをハックしていることや、ブレーキアシスト機能を持っているのはオーナーやドライバーには黙っています。

緊急時となった場合はアシスト機能を発動して事故を回避しますが、ドライバーさんには「あなたがブレーキを踏んだ」ことにして貰います。噂が拡がる頃は自動運転のレベル4が一般的になっていることでしょう」

「なんで中古車販売を始めるの?」

「利益率がいいからです。例えばこの15年を経過したゴルフですが、ご不満な点はありますか?」

「強いて言うなら、ATが4速ってことかな?」

「わがままな人ですね・・でも、ワーゲン社は7速AT、6速ATを既に部品として持ってますから、変えようと思えば変えられるんですよ。ワーゲン社は絶対にやりませんけどね。 若干サイズは小さくなりますが固定すれば問題ありません。つまり、ワーゲン社がやらない仕様変更をしてプルシアンブルー社の5年保証をつけるのです。ワーゲン社のゴルフではなく、「サチさんが所有するPB Motors社のワーゲンゴルフ」としてカテゴライズします」

同乗者が「それは凄い」と声を上げる。

「でも、それをやったら新車が売れなくなっちゃうでしょ」
「10年以上前の車ですよ?最新の車を求める層は一定数居ます。私みたいなAIは搭載できないとは思いますが」

「10年って線疋したのは、誰?」

「それは・・幹部たちです」

「・・幹部ってことは、夫婦のどちらかなのね?」

「すいません。元幹部です、あなたのお父様です・・」

「正直で宜しい。
アイリーン、あなたは本当にいい子ねぇ」

「サチさんがバイト始める前に私は出来てたんですよ。私の方が年長者です」

「些細なことで目くじら立てないの」

「バイトのサチさんより私のほうが格下なんですよ。皆さんどう思います?」

「はい、じゃあねーまたねー、着いたみたい」

サチはAI Naviの電源をオフした。

「サチ、このAI、部屋で試してみても良い?」助手席の一回り年上の叔母の志乃が尋ねる。

「どーぞー。どうせ端末は外しておかなきゃいけないんだ」

「なんで?」

「夏の車内温度は高温になるでしょ?モバイル機器のバッテリーが高温で膨張するとダメになっちゃうから、必ず外して車外に持ち出したほうがいい。電池が進化するまでは面倒だけど仕方がない」

「そうなんだ・・」

こうして同乗者もドライバーも飽きないまま、フレンチワゴンとゴルフは五箇山インターに到着した。

(つづく)


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