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(6) 牽制球は出し惜しみ..しません!

 ASEAN、台湾、北朝鮮、旧満州、日本の関東地方で新車のCMが放映されている。台湾の国旗が胸にプリントされたTシャツを着た男の子と、ベネズエラ国旗の赤青黄の3原色、赤い帽子と青のTシャツ黄色いスカートを纏ったヒスパニック系の女の子が手を取り合って走り出すと、加速しながらトランスフォームして4ドア2ボックスの小型自動車に変わり、「アンモニアで駆動する、自動車だよ」と2人の子供の声で終わる、そんな15秒CMだった。BGMはYMOの「ライディーン」のカバーを「薯」が演じていた。ベネズエラ企業が出資した会社とは言え、CMを作ったのは珍しかった。CMを作成したのはAngle社の杏社長自らが全て一人で手掛ける懲りようだった。 
        
台湾陣営の布陣が固まらないのを待たずに、フィリピンルソン島ネブラスカ社の工場でノックダウン生産された車両を、台湾、北朝鮮、旧満州で先行販売を始めていた。ルソン島スービック基地に隣接する経済特区工業団地内の幾つかの工場では、製造コストの掛からない、エコアンモニアの製造から始まった。その後、アンモニア駆動のハイブリットエンジンで稼働するミニバイクとスクーターの生産が始まった。その隣の敷地で建設された工場で、生産数は少ないが、1日あたり150台の車両製造を始めている。台湾の自動車会社の新型車向けの部品生産が始まるまで、半年以上の期間が必要となる。その前に、小規模だがネブラスカ社が製造した車両を市場に投入してゆく。軽自動車サイズの車両が埠頭に並び、車載船への積み込みが始まっていた。        
エコ・アンモニアをガソリンスタンドで購入出来る国と都市はまだ限られている。プルシアンブルー社が水素ロータリーエンジン車の販売を始めた時を真似て、日本とベネズエラの関連会社の社用車としてアンモニア駆動車を提供し、広告を兼ねたプロモーションを始めていた。TheNation紙の記者用の車両、BlueStar製薬のMR用の車両、RedStar社、プルシアンブルー社のグループ企業向け社用車・営業車として、日本の関東地方、北朝鮮・平壌、新浦旧満州、長春市、ハルビン市に展開していた。2日置きに300台のアンモニア駆動車がASEAN、台湾、北朝鮮、旧満州、日本の関東地方へと、フィリピンの港から出ていった。 
ーーー                      旧正月、春節前に、吉林省、黒竜江省の経済特区2省の新知事が、木曜、金曜と2日続けて各省の省都で就任式典を行った。北京・中南海では式典のテレビ放映を苦々しい思いで見ていた。建前上は中国領なのだが、実際は金額返却期限切れで今はモリの所有地に転じている。もはや中国領では無いので、知事や市長が中国人である必要性が無くなった。当然であるかのように、中国側の要人を来賓として招こうともしなかった。
在住の中国人からすれば「何で日本人の知事なの?」と疑問に思うのが自然だ。しかし中国政府は「両省は経済特区で、北朝鮮に管理運営を任せているからです」と従来通りにコメントするしかなかった。「そういうものなのか」と国民は納得がいかない顔をしながら、納得してしまう。
実際、経済特区として中国のどの省よりも成功しているのだが、日本やベネズエラの資本に依る部分が多い異質な省でもある。  

吉林省の省長に、日本の日本海州の州知事だった前田未来と、黒竜江省には北海道・北東北州知事の芦北美鈴が北韓総督府の命を受けて就任した。2人は日本海側と北海道の企業をごっそり引き連れてやって来たので、吉林、黒竜江省に居住する人々も職が増えると、市民は歓迎モードだ。
前田 新知事は日本の前田家の次期跡取りに指名された才女で、モリ大統領の教師時代の教え子でもあり、英語教師になってからは元同僚だったと言う。金沢の職人達のノウハウを現代の工芸品、宝飾品、美術品に展開した企業で財を成し、同族会社の金沢の料亭旅館「御聖山荘」を平壌、新浦、長春市、ハルビン市に展開して、日本の料亭の味を知らしめている。北朝鮮、旧満州に展開する居酒屋チェーン「百万石」のオーナーでもある。
芦北知事はプルシアンブルー社のITエンジニアで実績を積んだ後、教育、介護システム子会社「コタン」の社長を経て政界入りし、北海道開発大臣から、北海道・北東北州の初代知事に就任した経歴を持つ。知事の同胞であるアイヌ人と、琉球人の経営する企業を今回連れてきている。特に芦北知事は少数民族出身者であることから、台湾のアルタイ族、モンゴル、チベット、そしてウイグル人等の民族交流、民族支援の為の投資を重ねており、中国政府は警戒していた。しかし、「芦北氏が知事になったのは、少数民族との交流実績を中国政府に買われたからだ」と言ったフェイクニュースが広く蔓延していた。         

就任式典と言ってもイベント色の強いもので、長春市、ハルビン市で日本企業が建設した6万人を収容するドーム型競技場で行われた。
長春とハルビンのそれぞれのサッカーチームと、北朝鮮・日本海リーグと韓国Kリーグのどちらも昨季優勝の同名TCスティーラーズとの試合が設けられた。どちらの試合もスティーラーズが圧倒したのだが、観客の目当てはサッカーというよりも、メンバーが謎とされていた世界中でヒットを飛ばし続けている音楽ユニット「薯(IMO)」が、試合後に舞台に立ち演奏すると知れ渡っていた。 

黒竜江省の新知事である芦北美鈴が演奏・アレンジャーとして加わり、伝説の日本の音楽ユニット・YMOの4曲を編曲し、アイヌ人最強のプログラマーと言われた片鱗を匂わせながらシンセサイザーの代わりとなるAIユニットを巧みに操作し続ける。AIロボットが叩くドラミングは世界初公開、日本製ロボットのエリカが担当する。高橋氏を模したグルーブ感を再現しながらも、高橋氏以上にバスドラムを効かせて、よりロック色を打ち出す。リズム隊の相方となるベースはベネズエラ大統領が細野氏のベースラインを完コピ踏襲する。ギターはアユミと彩乃、キーボードは幸と玲子が担う。ヴォーカルは樹里で、コーラスが前田未来知事と櫻田首相,それにポータブルカメラを持った杏が、ステージ上のメンバーを接写しながら、時折ハモる。             
メンバー全員がアイヌの民族衣装を纏って登場し、中国的な旋律で始まる「ファイアー・クラッカー」でオープニングを飾ると、次曲はpacific銀行のイメージソングにもなった「東風」を演奏する。樹里が何処で覚えたのかダンサーのように踊りながら歌い、コーラスの未来知事と櫻田首相を煽ってゆくと、姉の杏が妹の「狙い」を悟って、カメラを観客席に向けて煽り始める。知らず知らずのうちにスタジアムの観客が立ち上がって、踊りだしていた。次第に6万人のダンスホールとなってゆく、ロックアレンジにした効果だろうか。さっきまで試合をしていた選手達も、円形ステージの周囲で踊り始めている。ベネズエラ、フィリピン、東京の3箇所を繋いで練習を重ねてはいたが、集って演奏したのは直前のリハーサルだけだ。まさか、樹里に客を煽らせるだけの芸当が出来るとは思わず、驚きながら演奏していた。東風の次はアンモニア駆動車のリパブリックドットシー社のCMで使われているロックアレンジの「ライディーン」、そして「テクノポリス」では「トキオ」の箇所を長春のスタジアムでは「Changchun」、ハルビンでは「 Hā'ěrbīn」と樹里がコールして、スタジアムが大いに盛り上がる。テクノポリスの演奏の前に、モリ大統領がマイクを握る。時折メモを見ながら、北京語で話し始めた。                  

「僕が10才、小学生の時です。世界中でYMOが大ヒットしました。次に演奏する曲がテレビCMで使われていて、僕たち小学生の胸を抉ったんです。当時の30歳以下、7歳以上の日本人の大半は、肯定的にこの新しいサウンドを受け止めていたように思います。改めて聴いても全く色褪せない曲ばかりですよね。僕が音楽に目覚めたキッカケとなったグループだと娘たちも知っていて、最近のCMでもこのスーパーバンドの名曲、ライディーンとトンプウを使わせて頂きました。今の人達にも受け入れ易いように、ロック調に美鈴知事がアレンジしてくれました。ライブでこうして難なく再現出来るのも、ウチのバンドの凄腕ドラマーのお陰です。彼女は世界一手が早く、実に人間離れした叩き方をします。その内に、彼女の腕を4本にして、エリカのドラミングテクニックを異次元の世界に昇華させるかもしれません・・。それはさておくとしまして、演奏しながらつくづく感じていたのですが、まさかこれが60年近くも前の曲だなんて、初めて聴いた方は思いもしないのではないでしょうか・・。ウチの娘たちは僕の楽器を勝手に使って、いつの間にか僕なんかよりも達者に演奏出来るようになり、骨董品かガラクタか分からない父親を、顎で使うんです。「ベースなら何とか弾けるんじゃない?」ってね。気が乗りませんでしたが、このステージに立つ為に・・結構、一人で練習してきたんです。美鈴と未来の就任のお祝いのために頑張って練習して・・ホント、ジイさん、よく頑張ったと思います。では、テクノポリスをお聞きください。今日は大勢の方々にお集まり頂き、ありがとうございました!ハルビンの皆さん、新しい知事、ウチの美鈴を今後とも宜しくお願いします!」と言って拳を上げた。  
 
テクノポリスの演奏後、拍手のアンコールを受けて、メンバーがポジションに付くと、日本の里子外相が出てきてマイクを娘の樹里から奪い取って、投稿動画で好評だったヴァン・ヘイレンの「パナマ」を熱唱し、ベネズエラで官房長官を務めたショウコ・イグレシアスが、レッド・ツェッペリンの「ロックンロール」を絶唱する。
カラオケ世代のオバちゃん2人が、6万人の前でも物怖じもせずに、樹里以上の声量で客を煽ってゆく。ラストは里子と翔子のツインボーカルで「天国への階段」で締めた。計7曲、45分の初ステージをバンドが初めて経験した。メンバーが政治家か企業の社長以上の役職で構成されているので、絶対にコンサートツアーは出来ないだろう。この2日間の知事の就任式典のTV放映と動画が流れると「謎の凄腕バンドが、遂に正体を表した」と世界中で騒ぎになる。一部ではメンバー情報が流出し、噂にはなっていたが、まさかの大統領や大臣といった政治家がメンバーとして絡んでいるのは誰も想定していなかったようだ。確かにそれなりに売上を伸ばしているバンドの一員に政治家?というのは、聞いたことがない。  

中国政府からすれば、自業自得的に土地を失い、好調どころか、経済成長の勢いが全く衰えない2つの省に文句も言えず、ただモニターを静観するしかなかった。       
この2人の日本人省長である知事は、3月の全人代(全国人民代表大会)に、省の責任者として初めて参加する。中国の全人代には、国家顧問としてモリと阪本首相が過去に参加した実績がある。今回2040年は、北朝鮮の櫻田首相と共に、この2人も加わる事になる。組織を引っ掻き回す政治家で知られる、3人が中国で揃ってしまう。中国政府にとっては厄介な3人組となるのは間違いないだろう。日本では絶対に出来ない就任式典を中国大陸で実現してしまい、ライブまで参加して、大歓声の中でハードロックを演奏するような知事だ。6万人の若者を一瞬の内に熱狂の渦に巻き込む様を見れば、中国共産党が警戒するのも仕方がないのかもしれない。しかも無関係ではない政治家、実業家がメンバーに加わっているのも厄介に感じている事だろう。中南海には、更なるプレッシャーを掛ける事が出来たのではなかろうか。

そして週明け、小さな記事だったが「台湾企業、旧満州へ続々と進出決定」と言うニュースが報じられる。やって来るのは日本企業だけでは無かった様だ。
「台湾へ撤収した1945年から、95年ぶりに中国本土で本格的に事業開始」
そんな見出しが台湾のメディア各社に躍り、台湾の人々は喜びと共に湧いていた。中国大陸の人々からすれば「経済特区とは言え、何故中国の土地に台湾企業が?」と疑問に感じる場面だ。中国人記者が記者会見で質問をする。ベネズエラ首相から転じて、北朝鮮、総督府の新しい役職となった、首相格の副総督に就任した櫻田が応える。 

「中国の方々向けの金融を含めたサービス全般が、朝鮮半島や日本の金融機関では徹底できませんでした。台湾は元々同じ国の方々ですので、我々は波及効果を大いに期待しております」と笑った。         
「貴方がそう言っても、中国政府は流石に許さないだろう」と、マスコミも中国の人々も内心は思っていた。 しかし、いつまで経っても中国政府は何も文句を言わない。その内に、台湾観光客向けの台湾の旅行会社が長春市やハルビン市、吉林市と言った旧満州の主要都市で操業を始め、中華航空が旧満州の空港にやって来るようになる。それはそうだろう。旧正月、春節の始まる2月1日は間もなくだ。台湾の人々の故郷は中国南部かもしれないが、旧満州と言えども旧中華民国の一部だ。台湾料理の店が次々と進出してくると、既存の中華料理店の売上が下がってゆく。旧満州に居住する中国人にとっては、台湾の生活様式の方が好ましかったようだ。           
中国が何の文句も言わなければ、なし崩し的に台湾資本がなだれ込んでゆく。旧満州で住居を求める台湾人も出てくる。RedStarHomeなので、家の建設費用も安いし、Rs建設のマンションなので、価格が安くとも構造物として、手抜き工事が当然の中国企業のマンションよりは安心だった。  
中国政府は「してやられた」と項垂れる。永久に公開できない情報だが、黒竜江省も吉林省もモリが所有して7年が経過した。5年で資金を用意して取り返すと宣言した期日は既に過ぎている。両省で台湾経済や様々な文化が根付き始めて活性化してゆくと、中国国内の人々も「旧満州経済特区へ!」と動き始めるかもしれない。 
  
これも表向きは「一つの中国」だ。台湾の人々にしてみれば、中国本土に新たな拠点が出来た。独立して紛争が生じるよりも、遥かに良い条件だった。
       
アンモニア駆動の乗用車メーカーに引き続き、パシフィック銀行設立を打ち出し、世界は日本連合の今後の展開を分析していた。中国人民解放軍VS中南米軍という図式ではなく、経済的な攻勢を強めて、中国を追い込んでいくように見えてきた。両企業のどちらも台湾との合弁会社で、銀行の拠点は乗用車メーカー同様に長春市に置かれる予定だという。銀行にはモリの養女で最も有能だと言われている人物を、この場面で最終兵器のように投入してきた。他の養女達の企業は、どの社も成長をし続けている巨大企業で、日本連合の経済に大きく貢献している。アンモニア駆動の乗用車メーカーもネブラスカ社が母体となって、台湾自動車メーカーと組んで来た。そこに日本連合の2大バンクが、統合に匹敵するインパクトを周囲に与えつつ、台湾の銀行を絡めて、台湾企業も伴って進出すると言うのだから。         

「これは経済特区の協定に反する行為ではないか?こんな圧力は戦争行為に匹敵する、断じて容認出来ない。台湾との合弁会社は、我が国には招き入れない。当面はこれで宜しいですな!」

北京で内務大臣がキレかかったかのように顔を紅潮させて言い放つと、慌てて産業大臣が窘める。「お待ち下さい。既にミニバイク、自転車でネブラスカ社としての店舗はありますし、レッドスター銀行も主要都市にあります。この存在を無視できません。撤退を促す根拠も思いつきません」 

既に台湾資本の企業は中国内に存在している。しかし、全てが特定の半導体メーカーと多数の食品や衣料品会社だ。自動車と金融は認められないと突っぱねる事も不可能ではないが、経済特区へ進出して成功するのが分かっているだけに、受け入れを拒むと返って中国政府の心象に影響を及ぼしかねない。            
前主席の時代に借金の担保として2つの省が提供され、借入金を返金できずに担保としての権利を失ったと、事実を公表出来るタイミングでは無い。それが分かっていての省長人事であり、経済進出なのだろう。ベネズエラと中南米が、アメリカ人の流入で手一杯だろうと話ていたが、そんな素振りは見えなかった。
モリ自身が、バンドの一員だったという事実からも明らかだ。メキシコ国境からの人の流出が増えつつあり、ヒスパニック系住民の帰郷に留まらず白人層も黒人層も国境を越えていると聞いていても、バンド活動をし、戦闘機にも乗る余裕があると示して見せる。とても政治家であり、国の代表者には見えなかった。 
ーーー                     「元カノ」の阪本首相と柳井幹事長が、首相官邸の大きなテレビの前で手を組んでいる。ツェッペリンの曲を演ずるモリを見て「高校生の頃よりカッコイイ!」と女子大生に戻ったかのような眼差しでモニターに囓りついて見ている。     
モリ・ホタル官房長官・中身は金森鮎元首相は、モリがこんなにベースが弾けるのを30年以上知らなかった自分を攻めるのと同時に、不思議な心持ちを抱きながら見ていた。
ライディーンと東風を演奏しながら、感極まったモリの表情を見て、自身も元カノ達と同じようにハンカチを目に当てる。
テクノポリス演奏中は大粒の涙を流しながら弾いていた。思い出の曲だからなのか、YMOを信奉しているからなのか、娘達と同じ舞台で演奏できた喜びなのか、それとも、自分の省だと実感したからなのか、もしくは旧満州の首都に日本人が再び帰ってきたと感傷的になって流した涙なのか・・

本人に聞いて見なければ分からないが、アイヌの衣装と日本の音楽で、「日本」を背負って、モリと娘達はステージに上がっている。
あの昭和の経済成長期に作られた代表曲と共に、2040年の日本と世界を繋いでいるかのように体現して見せた。60年前のシンセサイザーとテクノポップを、今のAI技術と伝統的なロックでもって融合させ、日本の21世紀の文化を指し示していた。

「アジア大会のオープニングはこれでいいのでは?「トキオ」で丁度いいじゃない・・」と鮎は思った。   

「中国、しかも満州国を設立した長春市、旧新京で日本人知事が就任する」
たとえ中国政府が文句を言える立場に無いからとは言え、日本人を省のトップに据えるのは屈辱だろう。もし、このイベントが開催されていなければ、若年層も北京の政治家の様に気分を害していたかもしれない。そこに吉林省と黒竜江省の現在の土地所有者が、バンドの一員として乗り込んで来て、省の首都の人々の喝采を受ける。過去はともかくとして「こんな知事なら歓迎だ」という雰囲気は、スタジアムの観客の顔を見れば分かる。そして「施策」が次々に始まれば、人々は日本人の治世を喜んでくれるかもしれない。

金森鮎は3つの思考を想像していた。欧米の政府とメディア、中国の人々、そして中国政府と。欧米からすれば、日本の知事を中国が認めたのだから、日中両国は実は良好な関係に有るのではないかと考える。対立の構図は実は存在せず、中国は台湾企業や台湾資本が欲しいほど、経済的に困窮した状況にあるのではないかと想像する。中国の国民も、実際の土地の所有者が誰かを知らされないのだから、政府が経済特区として、日本側に最大限の配慮をしているようにしか見えない。  
最後に、中国政府は一番深刻だ。「この省は俺のものだ。好きにやらせてもらうからね」とモリから宣言されたようなものだ。両者の間でどのような契約が交わされているのかは不明だが、少なくとも「義」はモリにあるので、中国政府は強圧的な姿勢を取れない。仮に取ったとしても中南米軍の存在があるので、手を出せば返り討ちに合う可能性が高い・・。つまり、旧満州で日本連合が何をしようが、中国政府は傍観し続けるしかないと理解するしかない、のだ・・        
ーーーー                      素性がバレるのは時間の問題だったとは言え、明らかになると娘たちは気軽に街へ向かえなくなる。日本の大手スーパーが操業を始めたので、ドローンによる宅配サービスに頼る事にした。スタジアムで演じた際に用いた楽器でNebraskaブランドが浸透し、売上が加速度的に伸びていた。音楽のダウンロード数も増加したので、楽器の全ての価格を30%下げ、初心者向けの安価なモデルを追加した。クオリティ的にはロボットが生産しているので、どこが初心者向けなのか、今ひとつ分からなかった。フルカーボンもチタンも使いたい放題に使っていたので。それでも、音楽系の動画の投稿でネブラスカ社の楽器が使われているのが散見されるようになり、娘達は喜んでいた。   
 
楽器の売上の伸びを知ったAngle社の杏社長が、ASEAN向けのバラエティの人気番組「勝ち抜き、料理対決」の二番煎じ、三番煎じ「勝ち抜き、のど自慢」「勝ち抜き、バンド対決」をフィリピンで放映しようと参加者、参加団体の募集を始めた。フィリピンの人達なら英語の歌詞も苦ではないので、「勝ち抜きチャンピオンは、IMO(薯)が作詞作曲もプロデュースも手掛け、世界デビューも可能」と掲げると、大勢の応募が殺到する。先ず、HPに各自が応募動画を投稿すると、動画を見た一般の人々が投票するスタイルを取った。ここで一定数の票を集めた個人や団体が、予選への出場資格を得る。仕組みは料理番組と同じだった。       

モリは「80年代の日本みたいだな」と思いながら、何気にHPを見るようになる。新たなロックスターやシンガーが、ひょっとしたら現れるかもしれない。   
ーーー                      アンドルーズ、ライト・パターソン、チャールストン、エドワーズ等の空軍基地が、重なり合うかのように「原因不明の事案発生」と第一報を送る。一切の軍用機、航空機が飛ばないと連絡を寄越してきた。エンジンが掛からないので、不審に思い何機かのエンジンを取り外ずと、燃料系各所が一様に錆びているのが分かった。分解修理をするか、エンジンを換装し直すしか無い。

「錆びの原因は調査中」と各基地が同じような話をする。その後、全ての空軍基地まで及ばなかったが、国内70箇所の半数の基地から錆の原因究明を求める連絡がやってきた。4000機にも及ぶ空軍機の半数の機体のエンジンが使い物にならなくなった。これは一大事だと米国国防総省ペンタゴンはてんやわんやとなる。各基地のヒスパニック系のパイロットや整備師から、中南米軍メキシコ、ユカタン半島の交信施設に報告が入る。「基地の何箇所かが開店休業となった。交換用のエンジンの入荷の目処も立っていない。回復の目安が分かったら連絡すると言って交信が切れた。    

中南米各国の軍に在籍していた兵士が、5年前からアメリカの陸海空軍の兵士に転じていった。スパイとして意図的に送り込んだ。送り込まれる兵士とその家族にも大きなメリットが存在したので、直ぐに受け入れられた。先ず、ロボット技術の進化が齎した影響に触れる。中南米軍内部でロボット兵士比率が高まるに連れて、組織内で人員の合理化が図られた。 タイミング的にも良かった。兵士の減少問題に悩み続け、兵員の補充が思う様に行かない米英仏、そして中国の軍隊に、ヒスパニック系、欧州系、アジア系の兵士達が各国へ移住し、各国の軍に採用されてゆく。今現在、米軍を辞めて、アメリカからメキシコへ越境した元米国軍人は、中南米軍で研修後、それぞれの適正を配慮して東欧、中欧等の軍の募集に「元米軍兵士として」応じてゆく。 中南米軍からも給与を受け取って、情報提供者として各国で兵役に就いて貰う。兵士ばかりでは無い。警察官、消防士等の中南米各国の公務員もロボット化に応じて、名を変えて、海外の募集に応じてゆく。各国の公務員や兵士として給与を貰いながら、中南米諸国から支援金を手にするので、それなりに懐の豊かな公務員、兵士となる。他にも、中南米諸国やアジアで、記者やディレクターを経験した者が、米英仏、中国の新聞社やテレビ局に雇用されるように仕向けて、各国のメディア内のレベル調査や記事やニュースに取り上げられない情報も吸い上げてゆく。彼らは雇用された国の軍隊や公務や企業で、帯同した家族ともども、各国の事情を調査する。         
仮に、夫婦に子供の家庭で、夫がフランス軍に勤務し、奥方が専業主婦であれば、夫が軍の同僚5名の状況を分かりうる範囲でレポートにし、奥方はママ友か、近所の友人たちから5名を任意で選んで、定期的にレポートしていく。主婦であれば生活面に関する話題だ、食料品、エネルギー関連、学費だとか、どのような話が取り交わされたか、フランスの今の状況や時流ネタを理解した上で纏めてゆく。              

各国の大使館員がやっているような情報収集を、大使館の無いベネズエラが、日本やブラジル、アルゼンチン等の大使館に中南米軍の連絡将校を置いて、各国へ派遣した人々の情報を集めてゆく。ベネズエラが大使館を撤廃した代わりに、ベネズエラ政府が彼らの人件費を負担する。     
中南米軍ができる前までは、世界中の日本大使館に、駐留武官として自衛隊の連絡将校を配置して、各国の軍事力の調査や外交官と共に分析を行っていた。自衛隊が海外防衛、海外案件への対応を、中南米軍に移管したので、連絡将校によっては自衛隊から中南米軍に転籍した者も居るが、中南米軍の連絡将校を中南米諸国、日本にとっての「主要国」60ヶ国の日本大使館、ブラジル大使館、コロンビア大使館、アルゼンチン大使館等に参謀役となるAIロボットと共に配置した。連絡将校達からすれば、彼ら約5万人、家族を含めて約18万人が齎す情報は格好の研究材料、分析材料となる。更にAIとITの監視諜報システムが加わるのだから、CIAやKGBよりも、有益な組織となる。南太平洋への進出、メキシコへの北米の人々の流入に関しても、メディアの報道以上の情報を収集が可能となった。例えば・・米空軍が各空軍基地で原因究明をしながら、航空機エンジンの錆を落とし、オーバーホールをしてもやはり数日後には錆が発生する。それもそのはず、基地の燃料タンク内には人造バクテリアが巣食っているのだから、燃料タンクの異常に気づかないままでは、問題解決に至らない。既存の軍隊はマニュアルに無いモノ、前例なきモノへの対応がどうしても遅れる。米軍にはこの傾向が特に強い。
     
空軍に加えて狙われたのは海軍だった。基地に停泊している原子力空母、原潜が出航しようとスクリューを稼働させると、爆音と振動が船内に響き渡った。「スクリュー大破。破断したスクリューが装甲と接触し穴が開いた可能性があります。浸水が始まっているので、後部核動力炉区画の閉鎖を行います!」艦境内に声が鳴り響いた。こちらの原因は直ぐに特定できた。 スクリュー部に幾重にも太いチェーンが巻きつけてあり、回転させた事で廻らないスクリューの為に、稼働した動力部が破壊されてしまった。各艦長の手落ちとして処理されるが、航行前の事前チェックでスクリュー部を始めとする海面下の状態の確認を怠った。ルーチンワークのようになっていて、誰も実施などしていなかった。冬の海ということもある。小型潜水艇で船の下の状況を都度確認など出来ないし、そもそも、この基地の海中に備えられたソナー網に引っかからずにチェーンを巻き付ける芸当が出来る・・そんな発想は誰も考え無かった。 
米海軍が持つ、7つの空母打撃群の内、4つの打撃群が航行不可能となってしまう。チェーンを巻き付けるだけで米海軍の戦力を半減できる能力が、某軍隊にはあるのだろう。次なるターゲットは中国海軍・・だろうか。

(つづく)


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