中野真吾

本やマンガ、フォークやロックが好きで、そこで受けた衝撃を誰かに伝えたいと、短い文章を書…

中野真吾

本やマンガ、フォークやロックが好きで、そこで受けた衝撃を誰かに伝えたいと、短い文章を書いています。読んでもらえばうれしいし、感想がいただければもっとうれしいです。

マガジン

  • 暇刊!老年ナカノ日報①~⑮

    不定期で「暇刊!老年ナカノ日報」というフリーペーパーというか紙切れを作り、知り合いに送りつけたり「ながいひる」という古本屋さんに置いてもらったりいていました。15号になったのを機に「行きたいところがあるんだぜ!通信」と改題し、これまたそれを機にナカノ日報をNOTEに投稿しました。音楽、まんが、本、友人、出会った人などについて書いています。

最近の記事

川島哲郎はどこへ行ったんだろう

しばらく前のことになりますが、新聞に石井隆の死亡記事が載りました。最後にマンガを読んでからずいぶん長く、最後に映画を見てからもずいぶん長いし、最近では思い出すこともほとんどなかったんだけど、その死の記事は胸にこたえました。いつの間にか疎遠になっていた友達がひっそりと死んでいるのに気付いた、そんな感覚でした。 石井隆は「天使のはらわた」で知りました。連載を読んだのではなく、当時の三流劇画(エロげきが、と読むんです)ブームの王者として取り上げる記事を読み、そのメロドラマっぷりを

    • 壁を越えて吹き抜けるうた         行きたいところがあるんだぜ!通信             その1 2022.5.9

      「暇刊!老年ナカノ日報」からタイトルを変えました。はじめたころは58歳で、自分が若くないことくらいははっきりさせておきたいと思ってあのタイトルにしたんですが、いまや64歳目前で、あからさまな老年目前になったのと、月イチどころか何年も出せなかったりして「日報」でも何でもないわけなので変えたかったのと、まあそういうわけです。 ベルリンの壁が崩壊して30年以上たった もう1年以上前、コロナが少し落ち着いた時期のことですが、まわりの様子をうかがってみると、そろそろ飲みに出てもいい

      • 吉本隆明を好きなセンセイ         暇刊!老年ナカノ日報⑮ 2022.2.25

        吉本隆明のファンをやってます ぼくは吉本隆明のファンです。20歳になるころまでまるで知らなかったんですが、何人かの人から名前を聞くようになり、ある人から、当時ぼくが熱心に読んでいた真崎守の「共犯幻想」について、「あれは吉本の「共同幻想」という考え方から出てきたんだよ」と教えられるに至り、吉本を読んでみなければと思うようになったわけです。 当時所属していた現代文学研究会というサークルの部室に「文芸」のバックナンバーが散らばっていて、吉本の「情況」が連載されていました。その中の

        • 変わっていくということ          暇刊!老年ナカノ日報⑭ 2019.9.26

          久しぶりに何か言おうとしても泣けてきて 先日「嵐電」という映画を見て、本気で胸をえぐられる思いをしました。あがた森魚が音楽をやっていて、ほとんどそれだけを目当てに見に行ったんですが、それだけじゃありませんでした。 筋はとても紹介しにくいので、たぶん不正確に書きますが、心が離れてしまっていると感じている夫と妻、想いを寄せる相手に心を閉ざしている女と不意に姿を消してしまう男、一目ぼれの男を追いかける女と追いかけられている男という3組の男女が、想いを喪失し、少しずつ回復していく物

        川島哲郎はどこへ行ったんだろう

        • 壁を越えて吹き抜けるうた         行きたいところがあるんだぜ!通信             その1 2022.5.9

        • 吉本隆明を好きなセンセイ         暇刊!老年ナカノ日報⑮ 2022.2.25

        • 変わっていくということ          暇刊!老年ナカノ日報⑭ 2019.9.26

        マガジン

        • 暇刊!老年ナカノ日報①~⑮
          15本

        記事

          矢吹丈の告白               暇刊!老年ナカノ日報⑬ 2019.7.8

          恥をかかずにすんだこともあります 知ったかぶりをして、あるいは単に無知によりかしこげなことを言って大恥をかくというのがぼくのパターンなんですが、危うくそれをまぬがれたことがあります。むかし少年マガジンに「巨人の星」と「あしたのジョー」が同時連載されており、人気は伯仲していたみたいですが、質には問題にならない差がありました。ぼくはそれを原作者である梶原一騎(巨人の星の原作者)と高森朝雄(あしたのジョーの原作者)の差だと考えていて、いつか誰かに言いたくてたまりませんでした。その

          矢吹丈の告白               暇刊!老年ナカノ日報⑬ 2019.7.8

          水門隆の夕闇               暇刊!老年ナカノ日報⑫ 2019.5.28

          言いたいことがある者は言え、と 僕たちは思っていた 少し前の話になってしまうんですが、水門隆がまたメールで詩を送ってくれました。「5年後に必ず革命が起こると/新聞部のNさんは言った」という長いタイトルがついているその詩は、おそらく35年くらい前に、知り合いの活動家にオルグされたことをめぐる話です。すこしずつ抜粋しながら辿らせてもらいます。   それは/こちらの感覚とも/世間の情勢とも随分違う/けれども   深夜/ひとの下宿に乗りこむからには/理論武装を越えた   熱情だ

          水門隆の夕闇               暇刊!老年ナカノ日報⑫ 2019.5.28

          大浦さんの町               暇刊!老年ナカノ日報⑪ 2019.1.30

          この前、電車に乗って遊びに行く途中で、Kという駅を通りました。大浦さんが住んでいた町です。3年ほど前に亡くなった人なのですが、その駅を通るたびにぼくは大浦さんのことを思い出します。2回しか会ったことがない人なんですが、ぼくはまたどこかで会えると思って楽しみにしたりしていたわけです。 穂高で会った豪放なおっちゃん もう十何年か前になりますが、ぼくは友だちと二人で、北穂高から奥穂高を経て前穂高へと縦走をしていました。北穂の小屋は1畳に3人以上の超満員で当然ほとんど眠れず、ヘロ

          大浦さんの町               暇刊!老年ナカノ日報⑪ 2019.1.30

          いなかった場所に抱くなつかしさ      暇刊!老年ナカノ日報⑩ 2019.1.5

          メールで詩が届いた 今に至るまで、詩というものが苦手です。書けないのはもちろんですが、読むのが苦手なのです。散文を読んだり、うたを聞いたり、マンガを読んだりしているとしばしば、言葉にえぐり込まれたり断ち割られたり、引きずり回されたり飲み込まれたりといったことが起こるのですが、詩ではそういうことがめったに起こらない。ぼくは絵を見るのも造形を見るのも苦手ですが、詩を読む能力も欠如しているのだと思います。 友人のなかに詩を書く人も何人かいるのですが、残念なことにその詩に突き当たっ

          いなかった場所に抱くなつかしさ      暇刊!老年ナカノ日報⑩ 2019.1.5

          どんな世界に生きるか、という問い     暇刊!老年ナカノ日報⑨ 2018.11.25

          地獄耳じゃなかった もう今ではすっかり耳が遠くなり、何度も「えっ?何?」と聞き返す世話のやける存在となったわたくしですが、その兆候を自覚したのは十数年前です。人の言うことが時々聞き取れなくて、しかし偉いもんで自分の悪口はよく聞こえる、これが世にいう地獄耳であるか、と友達に言っていたら、そいついわく「そりゃ中野さん、地獄耳じゃないで」。続けて彼は言いました。「悪口しか聞こえんのじゃのうて、あんたのことはみんな、悪口しか言ようらんということじゃが」 ……そうだったのか。

          どんな世界に生きるか、という問い     暇刊!老年ナカノ日報⑨ 2018.11.25

          沈黙が作る音楽と言葉           暇刊!老年ナカノ日報⑧ 2018.10.30

          HONZIというミュージシャン ぼくがHONZIというバイオリン奏者を知ったのは、1995年に行われた春一番復活ライブのテレビ放送でした。当時は本地陽子という名で、藤原カオルといっしょにリクオの伴奏をしていました。表情を変えることもなく淡々とした演奏でしたが、その曲「ケサラ」の良さもあって、繰り返して見ていました。 次にHONZIを見たのは、1999年に行われた西岡恭蔵&KURO追悼コンサートのやはりテレビ放送です。この時はあがた森魚のバックで、アコーディオンのリクオといっ

          沈黙が作る音楽と言葉           暇刊!老年ナカノ日報⑧ 2018.10.30

          斉藤次郎と湯田伸子            暇刊!老年ナカノ日報⑦ 2018.9.25

          物語と人間が出会っている 斉藤次郎という(ごく一部できわめて有名な)人がいます。まんが評論家であり、真崎守の「共犯幻想」の原作者であり、「共犯の回路」の著者であり…途中からは子供問題に軸足が移り、まんがについてはあまり発言していないのではないかと思います。 40年ほど前、ぼくは古本屋で萩尾望都の「続・11人いる!」という本を買いました。小学館が出していた漫画文庫の1冊で、有名な「11人いる!」の続編にあたる「東の地平 西の永遠」が収められています。 物語はかなり複雑です。「

          斉藤次郎と湯田伸子            暇刊!老年ナカノ日報⑦ 2018.9.25

          忘れ去られることを願った者        暇刊!老年ナカノ日報⑥ 2018.8.20

          戦うトレンディドラマ うちの子供がまだ小さかったころ、「鳥人戦隊ジェットマン」というドラマが夕方にありました。いわゆる5人組の戦隊物なんですが、通常なら男4人女1人で構成されている戦隊が、男3人女2人で構成されているのが変わっていました。そこに恋だの疑惑だのが絡み合って進行するため、「戦うトレンディドラマ」と呼ぶ人もあったようです。でもこのドラマには、当時のトレンディドラマにはおそらくどこをどれだけ探しても見当たらない、救われようのない別れが描かれていました。ぼくは実はこの

          忘れ去られることを願った者        暇刊!老年ナカノ日報⑥ 2018.8.20

          名犬、凡犬、野良犬            暇刊!老年ナカノ日報⑤ 2018.8.13

          うちの家には犬がいない 何年か前まで、うちの家にも犬がいました。ももといいます。生まれてしばらくして、もらい主がいないのをうちの娘が見つけてきて…とか書きたいことはいくらでもあるんだけど、身内自慢をするのもいやなので、ももが赤恥をかいた話をします。怒らんでしょう。 そのころうちの犬は車置き場の入り口、ぎりぎり道路に出ないようにフェンスを立てて、そこから家の裏まで歩けるようにしておりました。ももはそこで前の道を車や人が通るのを見るのが楽しみです。犬が通るとウーワンワンと吠

          名犬、凡犬、野良犬            暇刊!老年ナカノ日報⑤ 2018.8.13

          本当に立ち去って行った森田童子      暇刊!老年ナカノ日報④ 2018.7.2

          「高校教師」に教えられたこと 森田童子はぼくが高校生のころにデビューして、就職してしばらくしたころに音楽の世界からいなくなりました。ぼくはファンでもなんでもなくて、岡山でライブがあったということさえ知りませんでした。それからずいぶんたって、古本屋で「マザー・スカイ」というレコードを見つけて買ってきて、にわかにとらわれました。身体を腐らせてしまうような寂しさや死によってしか救われることのない苦しさが、そこにはありました。 「ぼくたちの失敗」が主題歌になった「高校教師」がブーム

          本当に立ち去って行った森田童子      暇刊!老年ナカノ日報④ 2018.7.2

          何気ない言葉の向こうにあるもの(良元優作のこと)                  暇刊!老年ナカノ日報③ 2018.6.10

          君がしょんぼりと歩いているのを見たら、その人は後ろから君の肩をたたくだろう。それとも並んで歩くかもしれないし、何も言わずに見送るだけかもしれない。確かに言えるのは、その人がしばらくの間、君のことを考えるだろうということだ。 「ゆうれい」 2012年5月5日の春一番の後半、客席の間に作られた特設のステージの前に、何人もの客がぞろぞろ集まって来ました。全体の客層の中では若い部類の人たちです。人気がある人が出るんだなと思っているうちに、集まってきた客よりもさらに若い男が一人、

          何気ない言葉の向こうにあるもの(良元優作のこと)                  暇刊!老年ナカノ日報③ 2018.6.10

          美しいものが片隅にうずくまっている        暇刊!老年ナカノ日報②  2018.5.30

          まだ老人ではない 老年とか言ってるけどぼくは59歳と11か月なんですね。65歳以上が高齢者ということだから、ぼくはまだ老人でも高齢者でもない。じゃあなんだということになると困る。辞書で見ると「中年」はおおむね50歳くらいまでらしくて、先日嫁さんにぼくは中年でいいだろうかと聞いたら「図々しい」と言われました。 このまえ古本ながいひるで有山じゅんじのライブがあって、ライブまでの寸暇を惜しんで有山さんはいっぱいやりたいと言う。主催者が友達だったもんで、二人にくっついて飲みに行かせ

          美しいものが片隅にうずくまっている        暇刊!老年ナカノ日報②  2018.5.30