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先輩 – 序章〜DAY1

1月が2週もすぎた頃

わたしは規則正しく整列するネイビーとスカイブルーの長方形の上に浮かんでいた

水を掻いでは
枠の中に綺麗な無数の水泡が表れては消えていく

ただそれを繰り返しながら
意識的に無心になろうとしていた

運動をすれば無心になってストレス解消にもなるという言葉とは裏腹に
気づけば職場にいる嫌な人間のことを考えて
すぐに引き込まれるからだ

そうしながら考えを巡らせて、新たな年に彩りを添えてくれるものを探していた

「その糸口をそろそろ見つけなければ」と浸水する思いと、「アーティスト気取りで大袈裟に」という思いとが
みぎひだり、みぎひだりと両の手に合わせるように降りてくる

ついさっきまでの仕事の延長を思ってはタイルに目をやりながら、徐々に先日ラジオで話した中学の頃の部活動の先輩を思い出していた

DAY1

思い出はいくつも断片的に思い出されるが
それらは散らばり 考えは飽和し 集中ができない

先輩が叱咤する時の強い口調、試合中にコンタクトがズレて戻った際のうつむいた表情、目のしたまでかかる綺麗な髪、校内外周の休憩中に見せた優しさ

輝いて歪む世界にシノサキ先輩が映っては消えていく

これを忘れる前に書き留めなければと
自分に課した距離を泳ぎきらずに
水から上がりその場をあとにした

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