やきとりばばあの話。
いつだったか飲み屋で、小さい頃って地域で有名なヤバい人っていたよね。という話になったことがあった。みどりババアや眼球舐めババア、全身ピンクおばさんなど、ヤバい人ってそんなにいるの?と、大いに盛り上がった。そういえば、たまに電車にも女装おじさんとか、至近距離に来て「ワーー!」と言う一喝おじさんがいるもんね。
私の通学路には、子供たちの間だけで有名な要注意人物がいた。偏った紙芝居する人や、発狂している人が住む家、くもんにめっちゃ誘ってくる人。中でもパンチがきいていたのは「やきとりばばあ」だ。
道路沿いに建つ、古びた平屋。家の周りには使わなくなった日用品が置いてあり、ゴミ屋敷とまではいかないが踏み入れ難い印象だ。やきとりばばあは、通りかかった子供を引っ捕まえて焼き鳥にしてしまう。と言う無茶苦茶恐ろしい人なのだ。人が鳥になっちゃう矛盾は当時の私には数ヶ月気づけなかったが。
通学の際は猛ダッシュで走るのが決まり。「あ、そろそろやきとりばばあの家だぞ、おいみんな!走るぞ!」と、班長の合図で、一斉に「わーー!」と叫びながら走り抜ける。みんなのランドセルにつけたキーホルダーがガチャガチャ鳴り、道向かいの家の庭にいる、人なら誰でも吠えまくるバカ犬もつられて「ワワワーン!ワンワン」「……ングッ!」長いワイヤーで庭じゅうを移動出来るようになっており、私たちと同じ距離を駆け抜け、ワイヤーの突き当りで首がグッとなって、ングッと言う。なぜならバカ犬だから。飼い主が庭にいたりすると犬に、うるせぇ!と怒鳴り、横っ腹を蹴るので「キャンキャーン!」が聞こえてくる時もあった。
そんなギグが、一日に朝夕で何回もあるわけだから、やきとりばばあは黙っちゃいない。やきとりばばあがフライ返し的なものを持って、「だーぁー!がきゃー!」と叫んだりする。(たまに、首輪が外れたバカ犬が追いかけてくるほうが私は嫌だったけど。)
通り過ぎて、班長が点呼をする。「みんな!ハァハァ、1年生、ハァハァ、いるな?」こんな調子で毎日2回肝を冷やしていたのだった。今思うと、なぜ回り道をしなかったのか理解に苦しむ。時代が時代なら、訴えられたら絶対に負ける。同時期に流行っていた、ピンポンダッシュなんて甘っちょろいもんじゃない。
ランナーズハイで、息絶えだえしながらもほっとしたのは、下校時には、いつも点呼をとるあたりで、近くの家からドラムを練習する音が聞こえてくる。子供の私が聞いても、すごく上手いのが分かる。聞える時はだいたい原付が停まっている時。高校生のバンドマンが叩いているらしい。大人になって分かったのだが、有名なドラマーになっていた。「タカタカツタタタ♪タカタカツタタタ♪君たち、ダカダカダカダッ良く生き延びたね!ズダダズダダおめでとう!ッシャーン!」という具合に祝福されているようだった。
久々に地元に帰った時に、あまりにも短いその距離に驚愕した。1キロは猛ダッシュしていた感覚だったのに、なんと家3軒ぶんくらいだったの。やきとりばばあの家はもう無くて、かわりにマンションが建っていた。そうだ、いちばん怖いのは、バカ犬の飼い主だったのでは無いのか?
こう思い出して書いてみると、甘酸っぱい思い出がわんさか出てきた。それは、また後で。
この記事が参加している募集
サポートはお気持ちだけでけっこうです。スキが励みになっております♡ありがとうございます。