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RoseBall in Tokyo.後編

RoseBall in Tokyo.前編
これで良かったのかと自問自答していた。私には近々にDさんから借りたお金を返すというタスクが増えた。それ以上に、帰る家があるということの素晴らしさ充実感に、これまでの負い目も感じなくなって、誠心誠意仕事に向き合うことが出来た。

やり場のないフラストレーションが減ってから、ちゃんと仕事で発生する悩みに向き合えた。上司は真っ直ぐに意見をくれる。私はスポンジみたいにスッカスカだったから吸収でき、それまでの甘ったれた考えはとことん矯正されていった。よく数字だけが結果だと言うO原さんに対し、あなたがいるからこのお客さんは通ってくれてるんだ、この日売れなくてもかならずまたお客さんはもどってきてくれるから。とアバンギャルドさんは言ってくれた。現場の数字を生む人はシビアで、結果を見ている人はフォローが上手。単価数万円のヴィンテージもの、即断即決するお客さんばかりではない。お客さんの数だけ一喜一憂し、でも店員の力量が試されるのが面白みのひとつでもあった。

新店舗がオープンし、改装も終えた店舗が順調にスタートをきると、倉庫班みんなで洒落をきかせヴィンテージのボーリングシャツを着てボーリング大会をしたり、飲兵衛ばかりの倉庫班は何かにつけて飲み会を開いて、和気あいあいと過ごす日々が続いた。照明の向きや什器の手直し、配置換えなど現場のスタッフの声を拾いながら微調整をしたりして、オープン前よりは余裕がある。

そう思った矢先。どうして平穏は続かないのか。また新入社員が入ってきた。Kさんを社長が引き抜いてきたらしい。Kさんはヴィンテージに精通しており、あっという間に本部の舵取りをするまでになった。ところが一癖も二癖もあり会社中を引っ掻き回してしまった。歪みがおこると、みんな不満を漏らすようになり月一の店舗会議には負のオーラが漂う。嗚呼ここにもこんな問題が出てくるのだな、と残念に思った。不快な変化こそチャンスの時なんて言ったものだけど。

並行して世の中よりだいぶ先をいって働き方改革の声が上がった時だった。徹夜してやるなんて…とか就労時間の縮小、それと商品をバーコード管理する変化が加わった。昔ながらの古着屋の感じが好きだった私には革パッチと80年代の赤耳を「ヴィンテージ」と一括りにするのは辛く、味気なさを感じ始めた。その頃から、古株のスタッフがちらほら辞めていった。

母親が返済を怠り始め、ついに会社に催促の電話がかかってくるようになった。これまでの人達からは理解があったけれど、Kさんは私を妙に煙たがって嫌がらせをしてくるようになったのだ。新しいスタッフになにか吹き込んだりして…バカバカしい。運悪く督促の電話に出たKさんがニカニカした顔で「○○さん、在籍されてますか?なんて聞いてくるのって金貸し?」わざと言われたりした。

新店舗の方向性も世の中のファストファッションの流行りに押され気味になってきた頃、Kさんからの女の腐ったような根回しで孤立した私。Dさんへの返済を終え古着屋の稼ぎだけではやはり回らなくなり転職を決めた。名残惜しいけれど、Dさんは、ステップアップだから!と背中を押してくれた。

この会社では、本当に色んなことを経験させてもらった。人の温かさに触れ、人生の転機とも言えるチャンスを沢山頂いた。本当はずっと働いていたかったな。そのあともまだ定職には付けず割のいい派遣の仕事をがむしゃらにやった。あるブランドでは、昼間の閑散とした時間帯に一心不乱に清掃をしていたら遠巻きに営業さんの目に止まったようで、高円寺の新店舗に誘われた。「大切なのは数字だけじゃないと思うんです。見せ方や在り方がお店の雰囲気を作ると思います。」店のパンフをパラパラめくりながら熱く話す営業さん。内心ガッツポーズだった。しかし!!まだ借金があったので泣く泣く断った。見ていてくれる人は必ずいるのだ、断言する。

こういうのが、あの会社で学んだこと。情熱で命が擦切れるように働く人たちを見てきた。誰でも出来るは当たり前、プラスアルファは人間味だ。


あれから5年くらいたっただろうか、身の回りが綺麗になった頃。携帯に懐かしい人からのショートメールが来ていた。「○○?元気?久々にご飯に行こうよ。」O原さんだ。

久々に居酒屋で会った。開口一番「表情が明るくなってるよ!どういい感じなの?」相変わらずでっかい口ではつらつとしたO原さんだった。あの人まだあの会社で頑張ってるらしいよ。とか、懐かしい話に花が咲いた。O原さんは離婚して、服飾とかけ離れた仕事に就いたのだそう。販売のノウハウは通づる物があるからね。と淡々と話した。あ、Kさん!○○店のあの子と不倫したらしくてさ、商品になる前のヴィンテージもの盗んでクビになったよ!とはしゃぎながら話してくれた。

私はあれから長く続いた彼氏がいて結婚の話題が出てます。なんて報告して「いいやつか見てやるから会わせろよ!」と言われ、まず写メを見せると「けーっ、大したことねーな!」などとケチを付けられ。もう全然時間が足りなくて、店員さんから閉店ですと言われてようやく気がついた。

別れ際に「俺ね、○○のこと認めていたよ。なんなら好きだったんだから。」と言われた。一切そんな気も感じなかった。なんだそれずるいぞ!

帰ってからお礼のメールをすると

O原 :幸せな結婚生活の秘訣はスキンシップだよ!スキンシップを忘れちゃダメだよ!あ、エッチな意味のね!
私 :なにそれ笑
O原 :色々あるけど頑張ろうな、俺は○○に負けないから!

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