けすいた

読んだ後に、もう一度タイトルを読むと、味が変わる様な文を書いたりしています。

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最近の記事

言葉

「少しくたびれたよ。」男はそう言った。 それを聞いた別の男は、こう言った。 「新品の家具って、『汚さないようにしなきゃ』とか『傷つけないようにしなきゃ』って思っちゃって、何だか疲れちゃうんです。 だから、家具は少しくらいくたびれていた方が安心します。 人も少しくたびれているくらいの方が、僕は好きですよ。」 それを聞いた男は笑った。 くたびれた声で。

    • 「おつかれさま」

      君はLINEを送るのが苦手だった。 それでも仕事が終わるといつも 「おつかれさまです」と連絡をくれた。 そこには、「おつかれさまです」以上の意味があることを僕はわかっていた。 一行も文章が書かれていない手紙にも 「心にはあなたがいる」というメッセージを添えることができるように きっと君の「おつかれさまです」には 君の世界に僕がいることを示してくれていたのだと思う。

      • 僕にとって「目玉焼き」より恐ろしいこと

        彼女と別れてからの休日は 5倍くらい時間が増えたんじゃないかと思えるほど暇で 5億倍くらい憂鬱だ。 気休めにYouTubeを見ようとすると、マッチングアプリの喧伝に嫌気がさす。 それはまるで「早く新しい恋人でも見つけて、彼女のことを忘れてしまえ!」と言われているようで、僕は気が滅入る。 「忘れたいけど、忘れたくない」 そんな気持ちが頭に浮かんでくる。 でも、忘れたいなんて本当は思っていないことを僕は知っている。 「忘れる」ということを、「心が亡くなる」と表現す

        • I Don't Like Myself Without You.

          彼女と別れて3ヶ月が経った。 僕は彼女と結婚したかった。自分が誰かにそんな想いを持てるなんて最初は信じられなかったけど、でも彼女といると結婚に向かっていくことがなぜか当たり前のことのように思えている自分がいた。 僕はいつからか彼女がいる人生を当たり前と感じていたのだと思う。 彼女がいない人生の方が遥かに長かったはずなのに、僕は彼女のいない人生のことをすっかり忘れてしまっている。 だから僕は、彼女が去った後、昔の自分がどう生きていたのかうまく思い出すことができずにいる。

          #45 Part of You

          「別れている間に思ったことがあるの」 僕たちが喧嘩をする時は、いつも車の中のような気がする。 彼女は、ずっと前を見据えたまま、話続けた。 「別れた時、少し気持ちが楽になった自分が確かにいたんだよね。仕事が忙しいし、週に一回会うのも、ちょっとしんどいな。って思うことが増えてきて。でも、別れてから、なんだかちょっと違うなって思った。一緒にいない時間の方が長いのに、一緒にいる時間の方が私が私っぽくて、、うまく説明できないんだけど、、あのーあれ、前にデートした時に言ってたヤツ。

          #45 Part of You

          #44 Part of Me

          今日は、毎週土曜のデートの日だ。 付き合って5年になる私たち。 なんとなく週に一回は会おうということになっている。 彼はいつも私の家まで車で迎えに来てくれるのだが 車の中での彼は子どもみたいにうるさい。 「はい!今日の目的地は、運命によって定められた場所です!」 会って早々、いつも訳のわからないことを、さも当然の如く言い放つ彼の頭の中を一回覗いてみたいものだ。 「ちょっと言ってる意味がわからないんだけど。」 私はこの返しをこれまでに何度してきたのだろうか。

          #44 Part of Me

          #43 たわいのない

          「褒められるの苦手だわ」 急にそんなことを言い出した彼女の顔は何かを思い出しているようだった。 「なんか、嫌な思い出でもあるの?」 「嫌な思い出というか、なんだか自分のことを言われている感じがしないんだよね。それにさ、その基準を壊しちゃいけない気がしてくるんだ。私は、そういう人間として振舞っていかなきゃいけない気がしてくる。」 「『わーすごい!素晴らしい考えをお持ちなんですね!!そんなに物事深く考えたことないから、尊敬します!!』みたいな返し嫌いそうだね。」 「それ

          #43 たわいのない

          #42 つむぐ

          君と付き合い始めたのは、夏のことだ。 あれから何度の夏を君と過ごしたかな。 「俺さ、花火見んの好きなんだよね。花火ってさ、無料だし、お金持ちでも、そうじゃなくても、みんな同じものを見てるじゃん?そういうのって、なんかよくない?今度一緒に行こうよ」 僕の誘いに君は、真剣な顔して 「あなたが好きな花火を、見にいく人が、私でいいの?」って返事をした。 君の返事は 僕と君との距離感を、近づけてくれた気がする。 人と人との間には、目に見えない距離がある。 その距離を近づ

          #42 つむぐ

          #41 君がおばあちゃんになっても

          僕と彼女は付き合って4年目を迎えた。 順調に付き合ってきたとは、言い難い。これまでに3回も別れた。 だから厳密には丸々4年付き合っているとは言えないのかもしれない。 ただ「別れていた期間、お互いのことを嫌いだったわけではないから、まぁいっか」という結論に至り、「何年付き合ってんの?」という質問に対しては、とりあえずお互いに4年と答えることにしている。 彼女とこの先どれくらい一緒にいるのか、もちろん今の僕には分からない。 もしかしたら結婚するのかもしれない。 最近彼

          #41 君がおばあちゃんになっても

          #40 経年'変'化

          僕の携帯はiphone8だ。iphoneよ。お前は”ph”と綴るくせに、なんで「フォ」って読むんだ?意味が分からん。 まぁ確かに、お前が「あいぽん8」だったら、きっと買うのを躊躇していただろうから、今日のところは、これ以上この話をしないでおいてやろう。 さて、僕のiphone8は今年で4年目を迎えた。 リチウムイオン電池がヘタってきたせいか、反応も悪い。 「リチウムイオン電池って、300回充電すると、マックスが70%〜80%くらいになっちゃうんですよ、500回で、50

          #40 経年'変'化

          #39 シフォンケーキ

          「なんでイライラしちゃうんだろう」 私は彼といると機嫌が悪くなることがある。 「ちょっとしたことなのにさ、ムスッとしちゃうんだよね。「大したことじゃない」って頭では分かっているのにさ。なんか雰囲気を悪くしちゃったりするんだ。ねぇ聞いてる?」 シフォンケーキに夢中になっているのは、私の数少ない友人。友人A。 彼女は「私がほしい答え」を持っていることが多い。 そう、大事なのは「答え」じゃない。いつだって「私にとっての答え」なのだ。 「うんまっ。このシフォンケーキ、めち

          #39 シフォンケーキ

          テセウスの船

          「今年小学生がなりたい職業第一位は”政治家”でした!小学生が今憧れる職業は、やっぱり政治家なんですね〜。これで三年連続の一位ですよ」 小学生がなりたい職業を政治家にしたのは、間違いなく彼だ。 彼がしたことは、ただ1つ。 「満15歳以上から満45歳”以下”の国民が選挙権を有する」というマニフェストを掲げ、見事当選し、そしてそれを実現したのである。 2015年。 公職選挙法が改正され、投票できる年齢が18歳以上となったが、政治の主な票田が高齢者であることに変わりはなく、

          テセウスの船

          宛先

          おばあちゃん、元気にしていますか。僕は相変わらず完璧主義な所が治っていません。 おばあちゃんはいつも僕を肯定してくれたけど、おばあちゃんみたいに肯定してくれる人は、ほとんどいなくなってしまったよ。 おばあちゃんは、よく旅行に行く人だったから、こうやって会えなくなってしまってからも、僕はおばあちゃんがまた旅行に行っているだけのような気がしています。 おばあちゃん、今世界ではね、ある病気が流行していて、みんなあまり外に出られないんだ。 それでさ、僕は仕方なく部屋の掃除とか

          現れた地

          「えー只今入ってきた情報によりますと、アメリカ政府は未確認生物とのコンタクトに成功した模様。詳しい情報が入り次第、またお伝えいたします。」 家でテレビを見ていると、キャスターは確実にそう言った。 10年前の僕だったら、耳を疑ったかもしれない。でも、この10年、世界では信じられないようなことが起こりすぎてしまったんだと思う。 そのニュースは僕にとって”鏡の中の世界の話”だった。同じ世界に存在していて、とても似ているのに、決して交わることのない近くて遠い場所。そもそも僕は日

          現れた地

          告白

          「日本人ってさ、あんまり『好きだ』とか『愛している』とか言わないって言われてるけど、あれってなんでなんだろうね」 「恥ずかしいからじゃね?」 「私もそう思うんだけど、でも本当にそれだけなのかな?」 僕が考えもしないような質問を彼女は時々僕に投げかけてくる。昔っからそうだ。僕はその度に新しい世界を垣間見ている気がしている。意識して見ないと見えないこともこの世の中にはたくさんあるのかもしれない。 「そうだなぁお前さ、英語の授業覚えてる?中学校の時の。先生がさ、『How a

          l2 1∃ l4

          「多分、今のままだと、その子とはうまくいかないな」 僕の悩みを聞いた自称恋愛マスターの彼はそう言った。 「あのな、ビビり過ぎなんだよ、お前は。嫌われてしまうかもしれないとか怒ってしまうかもしれないとか、そんなこと考えると逆にうまくいかねぇぞ」 でも、僕は彼女のことが好きだ。嫌われたくはない。 「恋愛に限らねぇけど、要はバランスなんだよ。植木に水は必要だけど、水のあげ過ぎは、むしろ虐待だ。今のお前はバランスが悪すぎる。それにな、ビビりすぎて、判断力も鈍っちまってる。」

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