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「多分、今のままだと、その子とはうまくいかないな」
僕の悩みを聞いた自称恋愛マスターの彼はそう言った。
「あのな、ビビり過ぎなんだよ、お前は。嫌われてしまうかもしれないとか怒ってしまうかもしれないとか、そんなこと考えると逆にうまくいかねぇぞ」
でも、僕は彼女のことが好きだ。嫌われたくはない。
「恋愛に限らねぇけど、要はバランスなんだよ。植木に水は必要だけど、水のあげ過ぎは、むしろ虐待だ。今のお前はバランスが悪すぎる。それにな、ビビりすぎて、判断力も鈍っちまってる。」
じゃあ、どうすればいいんだよ、、
「何もするな。何もしなきゃ、あっちから来る。押してダメなら、引いてみろってよく言うだろ?あれよ、あれ。1つ良いこと教えてやる。あのな、大抵の解決策は、もうこの世に出てきてんだよ。それを使えるヤツがすくぇだけだ。」
信じられないという僕の言葉に彼は言った。
「信じるとか信じないとか、どーでもいいから。あのな、押すのと引くの、どっちの方が簡単だと思う?」
何も言わない僕に彼は続けた。
「今のお前には、引く方が圧倒的に辛いはずだ。分かりやすく言うと、まぁギャンブルみてぇなもんよ、損切りができねぇわけ。これまでにその子に費やした時間とか想いとか、そーゆーもんが無駄になっちまうことに耐えられなくて、見返りを求めて押しまくっちまってる。
いいか。そいつがいなくたってお前は死にやしないし、お前がその子にこれまでに費やしてきたと思っているサンクコストは、”違う形”で回収できる。これ以上出資がかさむと、回収に時間がかかっちまうからやめておけ。
まぁ恋愛はよ、自分をいつの間にか変えちまうことがある。んで、そのことに気がつけねぇことが多い。脳みそも上手く機能しなくなるしな。」
確かに彼の言っていることは、わかる。
わかる?いや、わかるというより、”わかっていた”気がする。
「今お前、俺の言ってることに納得しかけてきただろ?それでいいんだよ。それが人と話すことの効用の1つだ。
ただな、お前がそいつに会ったら、この効果は一瞬で消えちまう。だから、会うな。話すな。関わるな。とにかく近づくな。代わりに働け。忙しくしてろ。考えるな。」
彼の言う通りにしてもいいかもしれないと思い始めている自分がいた。
「運命の人とはな、命を運ぶもんなんだ。そいつと今のお前じゃ、命は運べねぇ。今のお前には俺が何を言ってっか、わかんねぇかもしれねぇけどな。もう一度言うが、バランスが大事なんだ。恋愛は1人でやるもんじゃねぇ。」
彼と会った後、僕は手帳を開き、TO DO LISTを整理した。目の前にいた彼女にピンとを合わせすぎていた僕には、他のことが滲んでしまっていたことに気がついた。
A l∃ C