悲願のリベンジ 。君は決して一人じゃない~トッテナム対リバプール 分析~[18-19CL Final]
遅れましたが、今回はチャンピオンズリーグの決勝、スペイン・マドリードにあるワンダ・メトロポリターノにて行われたトッテナム対リバプールの一戦を分析していきます。
昨年も決勝に駒を進め、レアルマドリードに勝利してのCL優勝を狙ったものの、早い時間のサラー負傷や、ベイルのゴラッソによって夢を打ち砕かれたリバプールが、クラブ史上初のCL決勝でのビッグイヤー獲得を目指すトッテナムとの同国対決を2-0で制し、昨シーズンのリベンジを果たしました。タイトルの「君は決して一人じゃない」は、リバプールサポーター試合前に歌う、クラブのシンボル的な歌「You'll Never Work Alone」の和訳です。
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CL優勝後の、サポーター・選手が一体となっての「YNWA」↓
両チームを分析しているチャンピオンズリーグマガジンはこちら↓
スコア トッテナム 0 : 2 リバプール
リバプール 2'サラー 87'オリギ
スターティングメンバー
まずは両チームのスタメン11人から。一応ホームとなっているトッテナムは、待望のエース・ケインと、手術を受けたウィンクスが復帰。準決勝2ndLegアヤックス戦ではハットトリックで大逆転にチームを導いたラッキーボーイ的な存在となったルーカスはベンチスタートでF・ジョレンテと並んでジョーカーとして出番を待ち、二列目はソン、アリ、エリクセンが並んだ4-2-3-1。
アウェーのリバプールは、クロップ就任からの代名詞である4-3-3のシステムで、前線はサラーやマネを司る、「ボビー」フィルミーノが復帰し、ミルナーは外れてワイナルドゥムと、キャプテンのヘンダーソンがIHとして起用されました。ミルナーは年齢もありますので、王道と言える11人をユルゲン・クロップ監督がチョイスしました。
第一章 リバプールを「交わした」トッテナムのビルドアップ
まずはトッテナムの攻撃、リバプールの守備から分析していきます。
トッテナムのリバプールのプレッシングを交わすことに成功したトッテナムのビルドアップのメカニズムを中心に書いて行くのですが、その内容を深く理解するためには、リバプールの守備について知らなければなりません。これを読んでくださっている方は、知っている方もいらっしゃると思いますが、改めてまずはリバプールの守備を紹介します。
リバプールは、WGが中央の3MFと同じ高さに下がって5枚のラインを形成して、4-5-1で守ることではなく、WGは高い位置にポジショニングし、CFと並んだ3人の第一PLを形成。そして、後で詳しく書きますが、極力自陣低い位置まで下がらず、攻め残りたい。なので、「4-3-3」のままで守備をすることになりますで。また、3MFは、IHとアンカー、という段差は無く、ほぼフラットのラインとなっています。
WGが下がらず、高い位置で守備をする理由は、爆発的なスピードを持つサラー、マネをより敵陣ゴールに近い位置に配置し、相手にカウンターを脅威を与えるためです。
メッシが守備を免除され、攻め残ることが許されているのも同じ理由で、守備に参加させるとメッシの強烈な攻撃能力が敵陣ゴールが遠くなるので、生かされにくくなってしまう。
また、強烈な「個」を持つWGの選手が攻め残ることで、相手のSBからすると、攻撃参加するとWGをフリーにしてしまい、ボールを奪われるとロングボールで自分(SB)の裏を突かれ、カウンターを受けるので、攻撃参加がしにくくなる。なので、SBに攻撃参加をさせず、後方に留まらせることができる。
ということは、攻め残ることで相手にフリーの選手を作られてしまうかと思いきや、相手からすると大きな脅威となっているので、SBは上がれず、WGをマークしなければならないので、フリーの選手を作られることもないんですね。攻め残るなら攻め残るなりに守備をしているのです。
では「4-3-3」システムの紹介と、「4-3-3」で守っている理由の次は、リバプールがボールの奪いどころとしている場所、そしてその場所に相手を誘い込むためのメカニズムを見ていきます。
そのメカニズムが↑です。ここからは相手が4-3-3で攻撃する、ということを前提に話していきます。まず、CFフィルミーノは相手アンカーへのパスコースをバックマークで消します。そして、両WGが相手のCBからSBへのパスコースをバックマークで消す。
リバプールの場合は、このようにWGが相手SBへのパスコースを切り、自分の担当マークであるSBに自分(WG)の背後でボールを持たせないようにして、自分が戻る必要を無くすことで、攻め残りを可能にさせています。
SBは、ロングボールや、縦パスで、相手のビルドアップの「出口」となってはいけませんので、相手WGに対してハードマーク。パスがWGに入れば強烈に寄せ、思いっきり潰しに行きます。
このようにすることで、相手CBからのパスコースを、相手IHに限定します。そして、相手CBにIH(相手)にパスを出させて、デュエルに物凄く強い3MFが猛烈にチャージして潰し、攻め残っているWGのスピード、突破力やフィルミーノのアシストプレーを生かしてショートカウンターを仕掛ける。
そして、
これは日本対コロンビアの分析時に用いた図ですが、もしWGの背後で相手SBにパスを受けられたら、ある程度ならWGが戻ってタイプすることもあるのですが、そうではない場合だと、IHがスライドしてケアします。なので、IHは、相手MFにパスが入った時に潰してカウンターに繋げるタスクを担いながら、相手SBに時間を持たせないぐらいに素早くスライドするタスクも担っていますので、かなりの強度、スタミナが求められることが分かります。
これが、ギリギリまでプレミア優勝の可能性を残していた、リバプールの守備戦術です。
ではいよいよトッテナムのビルドアップの分析をしていきます。
最初に配置から。トップ下アリが左IRを埋め、右SHエリクセンが内側に入って右IRにポジショニング。左の幅はSHソン、右はSBトリッピア―がビルドアップと幅を兼任し、ビルドアップに参加しながら、オーバーラップもします。
このトッテナムのビルドアップを分析するうえで、ポイントとなるのは「2ボランチ」です。
トッテナムは2ボランチですので、相手CFのバックマークを交わす事ができていました。なぜなら、相手CF一人で二人分のパスコースを消すことは難しいからです。なので、相手CFのバックマークを無力化できていたわけです。
前述のように相手CFのバックマークを無力化できていますので、ボランチがパスを受けることができます。なので、CBからボランチ経由で相手WG裏にポジショニングしているSBにパスを送り、リバプールのプレッシングを交わしたシーンがいくつか見られました。
相手WGからすると、相手CBからSBへのパスコースを消すと、CBよりも前方にいるボランチのパスコースを消すことは、先ほどのCF対2ボランチの構図と同じように、難しくなります。ですが、ボランチからSBへのパスコースを消すと、CBからSBへのパスコースが空いてしまう。なので、WGはボランチからSBへのパスコースを消すことは難しいわけです。
また、ボランチ経由となりますと、IHは最初にボールを保持しているボランチに対応しなくてはならないので、SBにパスが出た時、SBに向かってスライドするのが遅れてしまいます。なので、SBに時間的余裕を与えてしまうことになってしまっていました。
CB→ボランチ→SBというルートは効果的なのですが、それをすると、パスが出てからではなく、最初から相手IHにボランチを狙われてしまいます。それでもボランチにパスを出すと、IHに潰されてカウンターを受け、決定機を献上するとても大きなリスクがありますので、そのルートを利用することは難しくなります。
ですが、この試合のトッテナムは、ポチェッティーノ監督は、もう一つルートを用意していました。
まずはルートを作り出すためのポジション移動から。
はい、このように、ボランチがSB-CB間に下ります。
こうすることで、まずはポジション移動しなくても同じことですが、相手CFのバックマークを無力化でき、その上相手IHとの距離が遠いので狙われづらい。そして、CB,GKがボールを持っている時のパスコースが増える、という利点があります。
ではこのボランチのポジション移動が、リバプールのプレッシングを交わしに行く上で、どのように機能するのかを下記に示します。
このように、相手WGの注意をCB-SB間に下りたボランチが引きます。ボランチにパスが入ったところを相手WGに狙わせる、ボランチを意識させることで、相手WGはSBへのパスコースを消すことに専念できなくなり、CB-SBの線上に立つポジショニングがズレてきます。
そうすると、SBにパスを出した時に直線的に狙われることが無くなりますので、CBからの浮き球のパスで、SBにパスを送り込み、プレッシングを交わすことができる、というメカニズムになっていました。
11月のプレミアリーグでリバプールと対戦したアーセナルが、上手くプレッシングを交わしていたことが僕の中で記憶に残っているのですが、この試合のトッテナムの2種類のルートを用意したビルドアップ戦術も、とても効果的で、非常にうまくリバプールのプレッシングを交わすことができていたと思います。
しかし、トッテナムはゴールを取る事ができていない。その理由を、次の章で書いて行きます。
第二章 かなり珍しいリバプールの「分離」&トッテナムに無かった「いつもの武器」
ではこの章では章のタイトルにした二つを取り上げますが、最初はリバプールの「分離」について。
前章でトッテナムが効果的なビルドアップ戦術でリバプールのプレッシングを交わすことに成功した、ということについては既に触れましたが、そのような外的要因だけでなく、リバプールのプレッシングが機能しなかった原因は、内的要因もあったと思います。
この試合のリバプールは、僕の見た試合で、記憶に残っている中では見たことのないぐらい、プレッシングをかけた時に分離が見られ、全体でハメ込むことができていませんでした。
特に後半目立っていた現象がこちら↓
第一、第二PLがプレッシングをかけて、相手にロングボールを蹴らせて、後は回収するだけ、という状況に持ち込んだのですが、第三PLが第一、第二PLに連動してラインを上げ、陣形をコンパクトにすることができておらず、ライン間にスペースが広がり、セカンドボールを拾われてしまっていました。
これでは、いくら第一、第二PLがプレッシングを頑張ってかけても、ロングボールで逃げられてしまいます。ロングボールを相手が蹴ると、空中戦に長けているCBが競り勝ち、3MFがこぼれを回収して、という形が確立されていたからこそ、リバプールは今シーズンこれだけの強さを誇ったのだと思いますが、この試合ではそこの徹底ができていませんでした。
また、IHのSBへのスライド(ボランチに寄せてから、ということではなく)がいつもより強度が低い、と感じるシーンもありましたので、やはりこの試合のリバプールは、プレッシングをかけた時の連動が足りていませんでした。この点は、この試合でモウリーニョとダブル解説を務めていたそうであるベンゲルも言っていました。
このような要因もあり、トッテナムはリバプールのプレッシングを交わすシーンを多く作り出すことが出来たわけですが、なぜトッテナムはゴールを奪ことができなかったのでしょうか。
僕は、「スピードアップ」が原因だと考えています。
こんな感じや、
こんな感じでプレッシングを交わしたので、
一気にスピードアップして、アリのテクニックや、ソンのスピード、ドリブル、エリクセンのスルーパス、トリッピアーの多彩なクロスを生かして、コンビネーションで崩して、ゴールを奪いたいわけです。
実際、トッテナムは、
(これはアヤックス戦で使用した図)上図のように、ショートパスを繋いで落ち着いたテンポでビルドアップし前進するのではなく、積極的にアタッカーにパスを送り込んで、スピーディーに崩す、という「縦に速い」攻撃を志向するチームです。
なので、
この局面が本来は最大の持ち味であるわけです。
ですが、
この試合のトッテナムは、プレッシングを交わした後の「スピードアップ」が上手くできていませんでした。なので、リバプールの選手達に帰陣してブロックを組み直し、陣形を整える時間を与えてしまっていました。
プレッシングを交わしたのですから、前方に広がっているスペースを相手が戻って来て埋めない内に使ってスピーディーに攻め切りたいのですが、スピードアップができないので、スペースを自分達が使う前に相手に埋められてしまい、ブロックを組まれ、もう一度後方でのビルドアップからやり直しになってしまうのです。
なので、リバプールにスペースを消され、攻めあぐね、決定機を作り出すことが出来ず、チャンスになっても選手間の意図が噛み合わなかったり、シュートを打っても相手GKアリソンの好セーブに阻まれたり、というところで、ゴールを奪うことができませんでした。
リバプールからすると、上手くプレッシングを交わされながらも、相手がスピードアップできなかったので助かったという感じです。
ですが、助けてもらったのにその救いを台無しにするような、クロップ監督の危ない修正がありました。それをこの章の最後に紹介します。
77分頃から見られた、4-3-3から4-4-1-1へのシステム変更です。このシステム変更によって、リバプールは、敵陣でのプレッシングを廃止し、自陣に撤退してブロックを組み、スペースを消して守り切ろうとする守備に切り替えました。
システムを変えたものの、選手達には混乱が見て取れました。上図に示したように、プレッシングを完全に廃止して、自陣に構えたので、相手に後方ではフリーでボールを持たれ、ボランチ前に自由に進入されるので、後手に回った守備になります。なので、ボール保持者にプレッシャーをかけることが難しい上、SH-ボランチ間のIRでボールを持たれた時に、SHか、ボランチか、どっちが対応するのかが定まっていなかったので、そのSH-ボランチの背後、ライン間の右IRに顔を出したソンにパスを出され、2回シュートを打たれています。
そのシュートは、GKアリソンが好セーブで防いでくれましたが、そうでなければ、2点目をオリギが決めてダメ押しをする前に、同点に追いつかれていてもおかしくありませんでした。
第三章 もっとやれば3-0,4-0だった?
ではこの章から、トッテナムの守備、リバプールの攻撃を分析していきます。
まずトッテナムの守備戦術について。
完全なゾーンディフェンスではなく、ゾーンの中に部分的にマンツーマンが組み込まれていました。
4バックと、CFケインはゾーンマーキングで守備を行い、2ボランチ+トップ下の逆三角形となっている3MFは、相手のアンカー+2IHの正三角形の3MFにがっちりハマる噛み合わせなので、完全なマンツーマンほどではありませんが、人へのマークがタスクとなっています。
第三PLを高く、第一PLはハーフラインから敵陣に向かって20mほどの高さに設置して、コンパクトな陣形で、ハメ込むほどの強度の高さではありませんでしたが、攻撃的プレッシングをかけて、リバプールのビルドアップを妨害しにかかります。
そして、中央の3MFはマークしている相手MFにパスが入れば、潰しに行きますよ、という構えを取り、CBからパスが入った時に奪える状態を作り出すことで、相手の中央からのビルドアップを妨害。
サイドでは、中盤の3MFよりマンツーマンの要素は薄いですが、パスが相手SBに入れば潰しに行く、という同じような構えで、SBへのパスを狙うことで、サイドからのビルドアップも牽制する、という守備戦術でした。
ですが、SHが前に出て相手CBにプレッシャーをかけに行ってSBをフリーにし、そのフリーにしたSBにパスを通されてプレッシングを交わされるシーンがあったりしたので、あまり機能しておらず、組織的に洗練されていた、とは言い切れないものでした。
ではそのトッテナムの守備戦術に対して、リバプールの攻撃について。
常時ではなかったのですが、時々特に左サイドで、左IHワイナルドゥム(ミルナー)がSB-CB間に下りて、それに押し上げられるようにして左SBロバートソンが高い位置(ライン間O(大外)R(レーン))を取り、左WGマネが内側のIRにポジショニングする、というプレーアイデアが見られました。
ではこのアイデアによって、トッテナムの守備はどうなり、リバプールの攻撃にとってどのような効果が得られるのでしょうか。
↑のように、トッテナムのSHは、そのままSB-CB間に下りたIHをマークしていました。となると、トッテナムのボランチはSBをマークすることになるわけですが、それだととても距離が遠くなり、SBをマークしようとすると中央を開けてしまい、ライン間へのパスコースを与えてしまうので、SBをマークすることは難しくなります。そして、トッテナムのSBはIRにポジショニングしているWGが気になるので、前に出て行く守備はしづらい。
なので、高い位置に上がって幅を担うSBがフリーになります。そのフリーになったSBに、正確なロングフィードを蹴ることが出来るCBのマティプ、ファン・ダイクが浮き球のパスを配給できれば、トッテナムのプレッシングを突破。そうなると、相手SBに対してWGとSBで2対1の数的優位を生み出して、フィルミーノも絡んできて崩す、という流れでゴールを狙う攻撃が出来ます。
ですが、最初に書いたようにこのプレーアイデアは時々見せるに留まり、常時見せたわけではなかったので、この形でトッテナムのプレッシングを交わして崩すところまで持ち込むことができたシーンはありませんでした。
このプレーアイデアを常時採用していれば、もっと多くのチャンスを作り出し、3点目、4点目を取ることも可能だったと思います。
そして、上図のように、左CBファン・ダイクから物凄い精度のタッチダウンパスが出て、左WGマネが抜け出してチャンスになる、というシーンも見られました。
開始22秒のPK獲得→サラーで先制になったシーンも、キックオフで敵陣にボールを蹴り込んで、そのまま強度の高いプレッシングで圧力をかけ、奪い、ヘンダーソンから同じようなDFライン裏へのロングボールが出て、マネが抜け出し、クロスっぽいパスを中に入れて、シソコのハンドに繋がりました。
また、怪我から復帰してスタメンからプレーしたフィルミーノですが、いつものようにビルドアップ時に下りて来て縦パスを引き出して相手のプレッシングを交わして攻撃のスイッチを入れたり、ライン間でサラー、マネとのコンビネーションを発揮するシーンはほとんど見られず、58分にあっさりオリギと交代をしたことから考えても、コンディションは万全とは言えなかったのかな、と感じました。
第四章 データ分析 ~レッズの9番「ボビー」を検証~
データ引用:WhoScored
今回のデータ分析は、試合の流れをデータで読み取っていく、というより、前章で少しだけ触れたリバプールの攻撃を司る従来の「No.9」とは全く違う、ストライカーというよりゲームメイカーというような「No.9」である「ボビー」(ニックネーム)ことフィルミーノのパフォーマンスがデータにはどう映っているのか、ということを他のスタメンから出場した試合と比較する形で検証していきたいと思います。
では早速データを見ていきますが、今回のトッテナム戦と比較対象にする試合は、R16のポルトと対戦した2試合です。その2試合は、レポートを書いていますので、ぜひ最初のリンクから飛んでみて下さい。
まずは、この試合のスタッツから見ていきます。
最初はヒートマップです。左がトッテナムの2CB、右がフィルミーノです
ではこの試合のヒートマップと比較して、対ポルト戦2試合はどうか↓
(3試合とも相手CBのヒートマップも隣に表示しています。物凄く濃くなっているエリアがあるのが、相手CBのマップです。)
今回のトッテナム戦は、ポルト戦2試合とプレー時間が違うとはいえ、ポルト戦2試合の方が、幅広いエリア且つ、相手CBから離れた位置にポジショニングしていることが分かります。トッテナム戦は左サイドの低い位置や、センターサークル右側にポジショニングしていることが示されていますが、ポルトとの2戦はより広範囲に動いています。
なので、下りて行ってパスを受け、起点となって攻撃のスイッチを入れ、下りたことで空けたCFポジションのスペースに選手を飛び込ませる、という「偽9番」のプレーはケガ明けのこの試合は、普段の試合と比べると、大きく頻度が減っていた、ということが読み取れます。
では次に、WGのサラー、マネとの3人を重ね合わせたヒートマップを見ていきます。
今回は、このようなマップになっており、それほど近いエリアでプレーしていたわけではないことが示されていますが、ポルトとの2試合と比較した時、どのぐらいなのでしょうか。
↑が、3試合の比較となっています。これを見ると、差は圧倒的ですよね。3試合とも、右サイドで頻度高く3トップがポジショニングし、近い距離間を保っていたのですが、ポルトとの2試合の方が、圧倒的に3トップの距離感が近く、特に頻度高く右サイドに3トップが集結していたことが分かります。
ということは、WGが内側に「ギュギュッ」と入って来て、3トップのコンビネーション発動、というシチュエーションにも成り得ず、それぞれが分離しており、3トップのユニットとしての力を発揮することもできなかった、という訳になります。
ここまでの二種類のヒートマップをポルト戦と比較して分析したところまででも、普段より冴えず、パフォーマンスが落ちていたことが分かりますが、もう一種類のデータを見ます。「タッチマップ」です。
これが今回のトッテナム戦のタッチマップとなっています。
ではこれを前提にポルト2試合との比較を行います。
見ただけで、差ははっきりとしています。やはり、プレー時間がポルトとの2試合の方が長かったことも影響しているでしょうが、より広範囲且つ多くの回数ボールに触り、「偽9番」としてのプレーを見せていたことが分かります。ポルトとの2試合とトッテナム戦を比較すると、トッテナム戦のタッチマップは、何か寂しい感じがする、というのは読者の皆様も感じると思います。数字で見ても、トッテナム戦17回、ポルト戦1stLegは28回、2ndLegが36回のタッチ数となっており、約10回、約20回トッテナム戦の方が少ない、という記録に。
ではまとめたいと思います。
「怪我明けで、コンディションが万全ではなかった、ということが大きく影響していたことが考えられるが、普段の試合と比較して分析すると、かなり劣っており、「偽9番」の動きをした回数が少なく、チームの攻撃のスイッ入れることが出来ず、WGのサラー、マネと近い距離間でプレーすることもできていない。よって、本来のパフォーマンスとはかけ離れていた。」
これを結論としたいと思います。
終章 総括
トッテナム
・攻撃では、2ボランチを採用することで、相手CFのバックマークを無力化。
・CB→ボランチ→相手WG裏へのSB、というプレッシングを交わす。←がルート1
・ボランチをCB-SB間に下ろし、相手WGをボランチが引っ張ることで、SBをフリーにし、CBからSBへの浮き球でプレッシングを交わす。←がルート2
・プレッシングを2つのルートを使うことで交わすことが出来たものの、そこからスピードアップすることが出来ず、崩しきることは出来ず。
・守備では、4-2-3-1で攻撃的プレッシング。
・第三PL+CFはゾーン、3MF+SHは当該の選手へのパスを狙う、人重視のマーキング。
・↑で、中央からのビルドアップを妨害し、サイドからのビルドアップも牽制。
・相手にCB-SB間にIHが下りるアイデアをもっと使われていたら、ピンチは増えていたはず。
リバプール
・守備では、CFのバックマークを無力化されたこと、相手の巧みなビルドアップ戦術、チーム全体としての連動性が足りていなかったことで、プレッシングは機能せず。
・プレッシングを交わされてしまうが、相手がスピードアップを出来なかったこと&GKアリソンのセービングに助けられ、失点はせず。
・だが、クロップの4-4-1-1修正によって混乱が生まれ、救いを台無しにしてしまいそうだった。
・攻撃では、CB-SB間にIHが下り、SBが上がって幅を取るアイデアが、相手の守備を破壊するには効果的なアイデアだったが、常時このアイデアを利用したわけではなく、常時取り入れていれば、もっと点が入ったかもしれない。
・怪我明けのフィルミーノは、コンディションが万全でなく、普段の試合のパフォーマンスとはかけ離れていた。
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