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-『 RyDeen 』-

 暗雲垂れ込める天上に伸びた二筋の閃光。

 瞬間的な明滅を繰り返しながら唸りを上げる金色の光たちは天上に極光の亀裂を描きながら突き進んでいく。
 
 地上に生い茂る翠の草原を越え、空高く隆起した銅の山脈を越え、深度深く満たされた青の海洋を越え、二筋の閃光はとある孤島が見えると雷鳴を轟かせて島の海岸沿いに揃って着地した。
 
 
「ほらねっ。この星を1周なんてあっという間に終わっちゃうんだから、暇つぶしにもならないでしょ?」
 
 
「うん…。でも姉ちゃん、色んな種類の自然がいっぱい見れてボクは楽しかったよ?」
 
 
 サファイアブルーとスノーホワイトが溶けあった様な髪色を持つ影が2つ、穏やかな波が押し寄せる浜辺に立ち素足を膝下まで濡らしている。姿形は10歳前後の人間を完璧に模し、浸している足で水を蹴り上げながら無邪気に笑い合う様子は海水浴に来て遊ぶ子供のそれと何ら遜色ない。
 
 
「姉ちゃん。この島にはボクたち以外誰もいないね」
 
 
「そりゃそうよ。ここは人間たちにとって禁忌の土地と見做されているから、滅多に立ち入ってくるヤツなんていないでしょ」
 
 
「それってさ、ボクたちが住処にしている所為で頻繁に島のあちこちで雷が飛んでいるからかな?」
 
 
「ま、そうでしょうね。別にいいじゃない、そもそもアタシたちは人間と接触するべきじゃないんだから。それに、カミサマとしてこの星をカンリしていく以上アタシたちを恐れてもらった方が都合がいいでしょ?」
 
 
「うん、それもそうだね」
 
 
 煌めく髪を揺らし着流しのような衣類に身を包んだ姉弟はじゃれ合う様に浜を駆け出し、樹木が密集する森林の方へと走っていく。その身のこなしは子供はおろかアスリート級の人間をも遥かに凌駕する機敏さで、鬱蒼と生える蔦をすり抜けそびえ立つ巨木を駆け上がり複雑に伸び広がる枝を次から次へ跳び移っていった。
 
 
「ところで姉ちゃん。ボクたちってカミサマなの?」
 
 
 尋常ならざる速度で森の中を進みながら、弟が先行する姉の背中へ声をかける。
 
 
「似た様なもんでしょ。【竜神様】の声が聴けて“神秘”を使うことができるんだから、アタシたちだってカミサマの仲間よ」
 
 
「でもさ、カミサマは本来姿を見せずに現象となって星に影響を与えるものでしょ? ボクたち完全に人間の姿をして地上に降り立っちゃったけど、いいのかなこれ…」
 
 
「神秘を使っている間はちゃんと現象になってこの星に影響を与えまくってるじゃない。細かい事は気にしなくていーのっ」
 
 
「うーん、何か違う気がするんだけどなぁ」
 
 
「同じ同じっ。それに姿を持って地上に降り立った方が色んなことが出来るし、その方がずっと面白いじゃない。アンタもそう思うでしょ?」
 
 
「それは勿論だよ。世界がこんなに楽しいところだなんて知らなかった」
 
 
「でしょー? なら小さい事言ってないでこの星の自然やら文明やら何やらを目一杯楽しんじゃいましょ!」
 
 
 姉弟は身に纏う青白い光を一層強く輝かせると目にも留まらぬ閃光となって島の反対側まで突き抜け天高く飛翔し、水平線に向かって雷鳴を響かせた。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
* * *
 
 上空を覆う雷雲を越えた先。蒼天をさらに越え、大気圏を突き破った先に広がる宇宙とも異次元とも判断が付かない空間領域。それは神秘が住まう聖域、すなわち万物想像の神たる【竜】の世界。
 
 
 
“ GRWOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOON ”
 
 
 
 最上の神秘を司る9つの【竜神】が一。
 極光を身に纏いし巨大な姿は全身を激しくスパークさせ、その意思をとある星へ向けた。
 それは自身の体表から剥がれ失われた2枚の鱗が落ちたであろう場所。星から聞こえる微かな雷鳴を感じ取った神は厳かに声を上げ、黄金の稲光に乗せて彼方まで轟かせた。

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