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世界一周307日

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2011年3月10日。ひとりの旅行作家が全く新しいシステムによる世界一周の旅をスタートさせた。巡る先はアジア、ヨーロッパ、アフリカ、北米、南米、オセアニアの世界6大陸。『SUGO…
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2020年6月の記事一覧

note30: インレー湖(2011.6.4)

【連載小説 30/100】 時空の旅。 僕はこの表現が好きである。 「時空」の中には「時間」と「空間」というふたつの「間」が含まれていて、旅といえば誰もがイメージするのはリアルな「空間の旅」の方だが、訪れた地に積み重ねられた歴史や文化にふれる「時間の旅」はタイムマシンに乗るヴァーチャル体験のごときものである。 そして僕はこう考える。 「空間の旅」は行動力で広がり、「時間の旅」は想像力で深まる。 つまり「地球」を移動しながら「歴史」を想うことで、旅はその価値が無限大に高

Note31: インレー湖(2011.6.6)

【連載小説 31/100】 インレー湖の風物詩ともいえるのがインター族の漁風景。 細長い小舟の端に片足で立ち、もう一方の足で櫂を操る独特の漕法で湖面を移動し大きな籠を水に沈めて湖魚をとるシンプルなスタイル。 ひとりの漁師が大きな湖の上で微妙なバランスをとりながら、水面下を泳ぐ魚たちと対峙する。 その静かな駆け引きの成果が日々の糧を待つ家族の生活に直結する意味においてこの「漁」は「猟」である。 見ている側には風情あふれる光景でありながら、当の本人にとっては真剣勝負。このヒ

note32: マンダレー(2011.6.8)

【連載小説 32/100】 ヤンゴンからインレー湖を経てマンダレーへ。 ミャンマーの旅は驚きや発見と共に続いている。 魅力的な土地を転々と巡る旅の中で、想像力による「時空の旅」にも出かけてみよう。 主人公は「未知なる国を初めて訪れた旅人」。 舞台は19世紀末の日本と21世紀初頭のミャンマーの二本立て。 【物語①】の主人公は江戸時代から明治へと大きな変革を遂げた東京の街を訪れた西洋人。 徳川260年の歴史に支えられた東京の街を見て、まずはこんな風に驚く。 「鎖国して異国と

note33: マンダレー(2011.6.10)

【連載小説 33/100】 マンダレーの滞在はヤンゴンで宿泊した「セドナホテル・ヤンゴン」の系列となる「セドナホテル・マンダレー」で、ミャンマー最後の王朝となったコウバウン朝の王宮の南東に位置している。 残念ながら王宮の建物は太平洋戦争におけるビルマの戦いで、終戦間際の1945年3月に焼失してしまい、現在の建物は1990年代末に再建されたものである。 当時のまま残っているのは城壁と堀のみだが、ホテルの前から王宮の周囲を囲む幅約70mで一辺の長さが約3kmもあるこの堀が延

note34: バガン(2011.6.13)

【連載小説 34/100】 予想通り、いや予想以上にバガンは素晴らしい。 が、その魅力を報告するのは次回にして、今回はここへ到着するまでの感動を伝えることにする。 一昨日の朝、マンダレーを出て丸一日かけてボートでここへやってきた。 ほとんどの行程は熱帯地域を蛇行して流れるエーヤワディ川を進む旅だったが、バガンに近づくにつれて褐色の大地と深い緑の中に黄金の仏塔がひとつふたつと増え、船着場へ辿り着く頃には無数といってもいい仏塔が建ち並ぶいにしえの王朝の地であることに気付く。

note35: バガン(2011.6.17)

【連載小説 35/100】 バガンの魅力。 広大な平原に点在する、その数2000ともいわれる大小の仏塔群。 仏塔の間に建ち並ぶ荘厳な寺院とそこに眠る仏像や壁画。 王朝の歴史を様々なコレクションとともに今に伝える博物館。 これらを繋いで行き交う観光馬車の心地よい蹄の音。 エーヤワディ川を見渡すオープンレストランと美味なるミャンマー料理。 伝統的な漆工芸の繊細なデザイン。 おおらかなミャンマーの人々の笑顔。 と、列記するだけでも充分に旅情がそそられるだろうが、僕を虜にし

note36: ヤンゴン(2011.6.20)

【連載小説 36/100】 25日間に及んだミャンマーの旅が今日で終わる。 一昨日、再びヤンゴンに戻った僕はシュエダゴォン・パヤーを訪れ、ヤンゴン→インレー湖→マンダレー→バガン→ヤンゴンと巡った充実の旅を振り返りながらあれこれ考えてみた。 僕をミャンマーへいざなったといえるUncle Tomは「見ると聞くとは大違い」というごく当たり前の立ち位置を提示してくれた。 これを受けてミャンマー最初のレポート(note28)で、情報過多の時代ゆえに僕たちの得る知識が極めて表層

note37: タシケント(2011.6.24)

【連載小説 37/100】 “旅を人生の住処に”年月を重ねてきた僕には、初めて訪れる地でとるふたつの行動パターンがある。 ひとつめは旅する先にゆっくりと時間をかけて馴染むべく、あまりアクティブに活動することはせず、先にその土地の全体像を把握する作業から始めるパターン。 訪問エリアの中心地にあるメジャーホテルに滞在し、ネットで情報収集したり行き交うツーリストを眺めたり近所の書店やマーケットをぶらりと訪ねたり、といった活動をこなしながらその地の歴史や文化を学び、そこから旅の

note38: タシケント(2011.6.27)

【連載小説 38/100】 日本という島国の独立国家に生まれ育ち、植民地支配や国家独立の経験が自身の経験としてない者にとって、世界を旅することは国家成立の多様性を学ぶまたとない機会になる。 中央アジアに属するウズベキスタン、カザフスタン、タジキスタン、トルクメニスタンに加え、アフガニスタンやパキスタンの6カ国には「スタン」が付いているが、この「スタン」とは、ペルシア語で「国」や「地域」を表す言葉らしい。 その昔、ペルシア帝国の支配下にあった中東地域の国家が多数派の民族名

note39: タシケント(2011.6.30)

【連載小説 39/100】 かつて日本でシルクロードが一大ブームになったことがある。 NHKのシリーズ・ドキュメンタリー番組『シルクロード』は確か1980年代前半の番組で日本と地中海世界をつないだ歴史的な交易路を追う旅番組は社会現象といってもいいほどの人気を博した。 当時高校生だった僕にとって海外はまだ遠く、異国への興味も薄かったから番組そのものをどれほど見ていたか不確かであるが、同時期にヒットした「異邦人」というシルクロードをテーマにした曲のことは鮮明に覚えている。